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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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背水の想いと同居する悪

完全に人を捨てたからには、目的を達せられなければ死ぬ覚悟なのだろう。どうしてそこまで急いで魔法を普及させたいのか分からなかった。元の世界でもそうだが、行き過ぎた力は必ず自分たちに牙を剥く。あちらでは化学でありこちらでは魔法。


魔法が牙を剥き国一つを吹き飛ばした光景を、シンラは間近で見ていたはずだ。心の傷として残っている出来事を繰り返さないために、魔法の天才である彼なら方法を模索出来るはずなのになぜ……。


最初に対戦した時も司祭が言っていたが、シンラはあの時からもう人ではなくなっている。ひょっとして何度も体を強化しすぎた影響で、寿命がもう尽きようとしているのではないだろうか。考えてみればテオドールとイエミアの二人が他人に優しい施術などするとは考え辛い。


「死相が出てるね、シンラは」


 こちらが考えていたことを見透かしたように、横に来て司祭は言った。暗闇の夜明けとしても今とは司祭が障害であるに違いないし、イエミアとテオドールにとっても同じだろう。司祭と対等に渡り合う力を手に入れるために、想像もつかない改造を施され強化に至ったと思われる。


根拠としては、不動明王様のお力を得ても足りず地獄のような修行を乗り越えた結果、ようやく司祭の気の影響を受けずに戦えるレベルになれた経験からだった。


「司祭としては魔法の解放には反対なのか?」

「当たり前だろう? 過ぎた技術は人の手に余るし、無教養者による行使が横行すれば滅ぶ原因になる。それはマラニア崩壊事件とマダラ国反乱事件で実証されているからね」


 魔法と言う国を滅ぼしかねない技術だからこそ、魔法学校があり選抜試験がある。シャイネンやリベンでは魔法を使う者も限定され方も整備されていた。ミアハのように一般人にキレて魔法を使う者は例外だろう。


強引にその扉を再度開かせる方法として、魔法でのみ解除可能な伝染病を蔓延させようとしている。事前にその芽を摘んだ司祭によって今のところ不可能だが、シンラの命を懸けた取引条件をテオドールはこのまま黙って受け入れるとは思えなかった。


但しアの国の件を見る限り、互いに利用し合うというよりはテオドールとイエミアが最早手綱を握っている。あの二人らしい皮肉の利いた方法で可能にしてくる気がしてならない。


「まぁそう悲壮感を漂わせる必要は無いさ、ジン。今後は僕も彼らを叩くために行動するから」


 突然の参戦表明に驚きを隠せず声が出てしまった。シンラのみを倒すという宣言ならまだ納得いくが、暗闇の夜明けを叩くとまで言っている。どういう風の吹き回しなのかと問うも、面倒だからの一言で済まされた。


シンラは暗闇の夜明けという組織のリーダーであり、今回のように都合よく出てくる場面はすくないだろう。倒すためには他を潰せば出てこざるを得ない、という合理的な理由なんだなと納得する。


とりあえずニコ様のところへ帰ると告げると、母には父も自分も死んだと思ってくれと伝えるよう言われた。最近は伝言役を頼まれる上に内容が重すぎる。断ると返したがまた会おうと言って去って行った。


 こっちは伝言を伝えたい相手はずっと乗っ取られっぱなしだっていうのにな、と空に向かって呟いた後で全力で走ってシャイネンへと戻る。あっという間に町への入口に到着したが、人の往来は元に戻っていた。


何も所持していないので検問は直ぐに終わり、そのまま城へと向かう。城の入口の兵士にニコ様への面会を求めたところ、待たずにそのまま通される。一階の大広間で他の面々と共に大きなテーブルを囲んでいたニコ様は、こちらが入ってくると駆け寄ってきた。


今まで見たことのないような悲痛な顔をしたニコ様を見て、師匠の件だけでなく司祭の伝言までしなきゃならないのかと思うと気が滅入る。伝えなくとも事実は覆らないし伝言も変わらないので、ありのままをニコ様に伝えたが、彼女はそのまま床へ座り込んでしまった。


Dr.ヘレナやミアハが駆け寄りニコ様の肩を抱いて別室へ連れて行く。今はそっとしておくしかないと考え見送り、近くにいた人たちにレイメイの居場所を尋ねる。魔法学校の敷地内にある病院で治療を受けている、と教えてくれたのでそちらへ向かうことにした。


「ジン!」


 城を出たところでシスターと出くわす。丁度用事があって外に出ており、今帰ってきたばかりだと話す。笑顔の彼女に伝えるのは忍びなかったが、ニコ様から言わせるよりはこちらから言うべきだと思い、騒ぎに関するすべてと司祭の伝言を伝える。


「わかった。また後でね」


 いつものようにニカッと笑うことはなく、優しく微笑むとそのまま城の中へと走って行った。司祭のことは何となくわかっていただろうが、師匠が乗っ取られたことは驚いただろうし悲しかったに違いない。


それでも母のことを思って気丈に振舞ったというのは、無神経な俺でも分かる。戦争は元々ろくでもないものだが、今イエミアとテオドールが起こしている戦争はもっとろくでもない。かたや元の世界で死んだ者を生き返らせるため、かたや死んでしまった弟の身内が気に入らないから殲滅するという、この世界で生きる人間には無関係で理解不能な戦争だった。


シスターは父親を乗っ取られ、こちらは妻を乗っ取られている。長引けば長引くほど被害は広がってしまう。なんとか早くこの戦いを終わらせなければ、と改めて思いながら病院へ向かう足を速めた。


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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