クレティウス戦
「おのれぇ!」
シシリーの誘導に合わせて斬りつけ、倒さないギリギリを狙いつつ攻撃を繰り返す。偽・火焔光背を出しているお陰で、クレティウスの氷柱からの凍結は解除し続けており、逆に水分が空中に飛び散って彼の動きを鈍らせる。
人の道に外れた対象だからか、三鈷剣の切れ味も鋭く威力も上がっていた。発生する剣圧によるダメージが少ないように、ずらしながら斬りつける。彼を倒しては元も子もない。折角幹部がわざわざ単身出て来たのだから、巣の内部も不明な今餌にしない手はなかった。
餌になり得ると思ったのは、巨大スズメバチたちの動きにある。彼らは大型スズメバチの本能に従いながら動いているが、戦いになると人間の戦い方をし始めた。恐らく何らかの方法で人間の自我を抑え、コントロールしているのだろう。
単純な切り替えだけでも大変そうなのに、それが複数となれば難易度は激上がりだ。テオドールもイエミアも馬鹿ではない。女王バチに仕立て上げた暗闇の夜明けのメンバーだけでなく、クレティウスも付けているのはコントロールを分ける為だと考えている。
補佐であるクレティウスが、味方の兵を動かさずに一人で耐えているのは夜だからだろう。夜が明けてしまうとこちらのアドバンテージが消えてしまうだけでなく、寝ていないこちらが不利になってしまう。
「ぎゃああああ!」
戦力を失うよりも、クレティウスを失う方が良いと言う女王バチの考えならば、コイツと遊ぶのはもうおしまいだ。アドバンテージがある今のうちに数を減らさなければならない。
「ルキナ! ベアトリス!」
攻撃の手を止め、相手の攻撃を避けつつ二人を呼びながら手招きをした。何をしてくるか分からないので初手を受け持ったが、今はもう危険度は下がっている。先ほど不死鳥騎士団の壊滅を促したとかなんとか言っていたので、止めを刺すなら自分より二人の方がふさわしい。
駆け寄ってきた二人に任せると伝え、自分はいざという時のために控えると言って下がった。シシリーには二人のフォローのため光での誘導を頼み、戦いを静観する。それを見た若干ボロボロのクレティウスは声を上げて笑いだした。
「いやなに、お前のような英雄ならいざ知らず、人望だけが取り柄でシンラに遊ばれた程度の親の子など、私に生贄を差し出したようなものだと思ってな」
親父さんの腕前は残念ながら知らないが、彼らは曲がりなりにも師匠が稽古をつけ魔法を学んでいる。自分は運あって恵まれ名が知れただけで、彼らだってこれから知られるだろうと言うも、冗談にしてはくだらないと一蹴されてしまった。
「蛙の子は所詮蛙よ! 親の素質は超えられん! ましてやこやつらの母親はどこの馬とも知れぬ女だぞ!?」
「素質のある両親からでなければそれ以上の者は生まれないというなら、お前が評価してくれている俺はどうする? 親は英雄ではないが」
英雄どころか子を捨てるヤバい親だが、それはあえて言う必要は無いだろう。結局のところ環境とたゆまぬ努力がモノを言うと思っている。チート能力が無くなっても生きていられるのは、不動明王様を始め多くの出会いと支え、そして自分自身の努力によるものだ。
モンスターが親の名前で怯えてくれるような世界でもないし、と思いつつ二人に敵討ちをするかどうか聞くも、答えを聞く前にクレティウスに襲い掛かった。
「ジン!」
アラクネから声がかかり振り向き見ると、ようやく巣から巨大スズメバチたちが出てくる。こちらに向かって飛んでいたが、やはり動きが鈍いのか襲い。気を集中し三鈷剣に気と炎を流し込み構えた。
「焔祓風神拳!」
ただの風神拳では彼らの呪いは解けずにダメージだけ負わせてしまう。不動明王様の力をお借りして彼らの魂をあるべき場所へ導くべく、焔祓風神拳を放つ。焔は渦を巻き風と共に襲い掛かり、巨大スズメバチたちを飲み込み始める。
なんとか範囲から逃れた者たちも、アラクネたちが地上から糸を飛ばし捕獲してくれた。一瞬振り向きルキナたちの様子を見たが、クレティウスをまだ倒せていない。補佐を任せられるだけあって実力は確かなのだろう。
ルキナたちも剣だけでなく魔法を使いけん制し、シシリーも上手く誘導している。自分はルキナたちが勝つと信じているので、なるべく手は出さずに見守りたい。前を向き直り、出てくる巨大スズメバチたちを駆逐し続けその時を待った。
「ぎゃああああ!」
叫び声を聞き視線を向けると、クレティウスにルキナとベアトリスの二人が斬りつけて通り過ぎた。斬撃は深くは無いものの、先ほどまでの戦いでのダメージが蓄積したのか、クレティウスは地面に倒れる。
二人は止めを刺そうと近付こうとしたが、手で制止し一人でクレティウスに近付いて行く。
「女王バチの正体は? 巨大スズメバチをどうやって作った? お前はなぜ自分の意思でそれになれる?」
膝を付きそうたずねるも、唾を吐くことで返答としてきた。飛沫も付かないよう素早く動いた後で立ち上がる。まだ体を動かしていたが、瀕死の状態でも元に戻れないのならもう無理なのだろう。これ以上苦しませるのは敵と言えど惨いと思い、三鈷剣をクレティウスに突き立てた。
剣から発せられた焔に覆われながら、悲鳴すら上げずにクレティウスは灰となって消える。
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