アラクネたちとの共闘へ向けて
「ずっと付いててくれたのか?」
深呼吸してから問いかけてみるも、そうではないと答えた。アラクネたちの生息地域はヨシズミ国よりも東の方に移ったが、こちらにはまだ仲間の住処が点在しており救援の依頼がきたという。大型スズメバチは以前から存在していたものの、徐々に減ったと思ったら例の巨大スズメバチが増え襲ってきたらしい。
天敵である蜘蛛を蜂が襲うという話が信じられず、調査のために向かっている途中でこちらを発見し、後を追って来たと話す。こちらが知り得た情報をアラクネに話すと大きく頷き、それなら蜘蛛を襲っても不思議じゃないと納得する。
蜘蛛にとって蜂が天敵でも、人間にとってはそうじゃない。アの国周辺にはあれ以上に大きなカマキリなどの昆虫の天敵もおらず、熊も少ないので活動しやすいだろうとも話した。アラクネたちでも対処は難しいかと問うがやってみないと分からないと答える。
「どの生物でもそうだけど、減った個体を増やすのはそう簡単じゃないわ。私たちも大きくなった弊害で出産数は減っている」
彼女の言うことはもっともだ。人間だって人口を増やすのは楽ではない。確実に勝てない戦いに身を投じろと言われても、二つ返事で了承できないだろう。交換条件として何を希望するのか聞いたところ、やはり安全な生息地を希望しているという。
巨大蜘蛛側としては人間族に迷惑は掛けていないし、ある程度距離は保ちつつも共存共栄を望んでいるとも話す。丁度ヨシズミ国の東の方に居住地を移したが、出来ればそこに自治権を認めて欲しいようだ。
人間族だけでは対抗するのは難しく、彼女たちの力を借りることが出来れば心強い。時間は無いにしてもこの交渉は必要だと考え、戻って陛下と交渉すると伝えた。皆と共にここで待機して欲しいと告げると了承してくれ、他の巨大蜘蛛も呼び寄せて巣を張り始める。
シシリーには落ちないよう服の胸元に入ってもらい、直線距離を全力で走り城を目指した。敵には出くわさずに山を越え、塀を乗り越えて城の前に辿り着く。入口で陛下との面会を求めたところ、確認を取らずに直ぐに中へ通される。
陛下の部屋へ入ると宰相たちと会議をしていた。急用だと察してくれたのか他の者たちの退室を促してくれる。聞けばもし城に来たら構わず通すようにと指示を出してくれていたようだ。さっそくアラクネからの提案を陛下に伝えたところ、二つ返事で了承してくれた。
あまりにも早いのでもう一度確認したものの、宰相もそれで構わないと言う。なぜなのかたずねたところ、蜘蛛は元々ヨシズミ国では害虫指定はされておらず、ビグモスなどを食べているのも知られていると語る。
「正直なところ我が国は味方と言えば離れたところにあるシャイネンのみで、他は敵に囲まれている。四面楚歌に等しい状況で、人間族を食料とせず共存を望む相手なら喜んで手を組みたい」
「まさか分かり合えるはずの者たちに侵略され、新しく出会った者たちが我々を護るため戦ってくれるとは皮肉な話だ」
ヨシズミ国から周辺国を侵略したことはなく、侵略されそうになっても何もせず放置した。あるとすればその代償なのだろうな、と陛下は天井を見ながら嘆く。今回は内部からも内通者が出ましたな、と宰相に突っ込まれさらに顔をしかめる。
「互いが互いを思いやり支え合うのではなく、一方が我がままを押し通し一方が思いやり支えていたのでは無理がありますね」
「我々が天秤として機能していない部分がある……か」
「生憎と全ての者の心の中は見えません。その国のらしさを捨ててまで他から来る者に気を使っていては、この国がなんなのか分からなくなってしまうのではないでしょうか」
陛下は帰属意識を求めそれを誓えば入れるが、今回の発端はそれを逆手に取られた形になったと宰相も続いた。ギルドから派遣された者は他国からこの国に来て冒険者登録をしており、帰属についても誓いのサインをしていたそうだ。
生まれ育った国から別の国に移り、直ぐその国の一員として誇りを持ち守ろうという気になるのだろうか。故郷はいつまでたっても故郷だと久し振りに帰ってきて思ったし、変わってしまったことを悲しく思った。
まして親兄弟や仲間と共に過ごした場所ならば、消し去ってしまえるはずがない。故郷を優先したくなるのは真理なのだ。愚かで欲深いからこそ法が必要であり、感情で法を消しては焼け野原まで目と鼻の先になる。
「ジンの提言はしっかと受け止めておく。人が神になれぬのはそういうところなのだろうな」
少しため息を吐いてそう言い、陛下は紙にアラクネの要求に王として答える旨を記し、サインを入れ印章を押した。宰相も確認した後こちらに見せ、うなずくとそれを細長い筒に入れ渡される。戻ろうとしたところで陛下から、前線に関してはジン・サガラに一任し後方の指揮は自分がとるので、思い切りやるよう言われた。
全力を尽くしますと答え深々と頭を下げてから部屋を出る。
「お前も余所者の癖によく言う」
「余所者だからこそ分かることもあるのですよ」
出たところでベア伯爵が壁に背を当て腕を組んで立っていた。どうやら話が聞こえていたらしく矛盾を指摘される。指摘はその通りだが、第二の故郷として命をかけて来たのは見てくれれば分かる話だ。
客観視を完全に出来ているかと言われればそう言いきれないが、それでも少し離れたところから見ているし見えることもある。議論をしている時間はないので右手を左胸に当て頭を下げ、その場を後にした。
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