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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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蓮に成る

「早速で悪いけど、こないだ取り損ねた薬草を取って来て欲しいのよね。在庫が今心もとなくて」


 暇なので断る理由はないものの、蓮の池へという声を聞いて目を覚ましているので、偶然にしては出来過ぎな気がしている。確証がないのでユーさんに聞くことも出来ず、そのまま籠を渡されて蓮の池へ向かうことにした。


町を出ようとしたところで自称母親であるシシリーは、宿に忘れ物をしたので先に行っててと言って戻っていく。どうやら一人で来いってことなのだろうなと思いながら、蓮の池へ向けて足を進める。やがて森に入ると霧が立ち込めてきて、何が起こるのか警戒しつつ目的地を目指した。


「なんだあれは……」


 蓮の池に着くとその真ん中に人影が見える。徐々にこちらに近付いて来たが、見ればその人は座禅を組んでいる。やがて縁に着くと座禅を解き立ち上がり歩いて来た。前髪近くは巻き髪でそれ以外は炎を模したように逆立っていて、この特徴的な髪型に見覚えがある。


「お、御久し振りです」


 声を掛けると目を見開き、ぎょろっとした目でこちらを見て頷く。上半身のみ軽鎧を身に纏い、腰から足元まである長い布を巻き付け、草履を履いていた。間違いなくイリョウの病院で初めて見た時と同じ格好だ。


「こうして会うのは初めてだ、相良仁」

「不動明王様にはいつも助けて頂き感謝しています」


口を動かすと右の牙が上へ向き左の牙は下を向いているのが見え、失礼ながら面白いなぁと感じてしまう。掌を合わせて会釈されたのでこちらも同じようにし、ここに呼んだのはあなたですかと問うとその通りだと答える。


「お前が最強に近くなったというのでな、試してやろうと思って呼んだのだ」


 最強なんかには程遠いですよと慌てて否定するも、たった一人で敵に挑むというのだから最強で無くして何なのかと食い気味で否定し返されてしまった。自分一人で挑んだ方が身動きがとりやすいし、敵を倒すのも最小限で済むと説明する。


話を聞き終える前にもはや問答無用とばかりに、こちらを見たまま腰を落とし右掌をこちらに向け左拳を腰に当て構える。神様と戦うなんていう経験をまさか二度もするとは思っていなかった。これまでこの方の助力あってこそ生き延びられたのは間違いないので、無駄に言葉を重ねるのは失礼にあたると思い構える。


しばらく見合っていると手招きをされ、行くしかないと覚悟を決めて間合いに飛び込んだ。ぎょろっとした目は確実にこちらを捉えていたが、構わず鳩尾目掛けて右拳を突き出す。素早く体を半身にして避けながら、突き出していた右手で半円を描きながらこちらの腕に当ててきた。


こちらもしっかりと目で追えていたので、避けるべく左足を横へ流し右足を引く。流れを止めずがら空きの顔面目掛けて左拳を突き出しながら飛び込む。不動明王様もそれを見逃すはずはなく左腕を側面に当てにくる。


神様の顔を殴るつもりはないのでほっとしながら直ぐに左拳を引き、右足を不動明王様の左ひざ目掛けて放つ。流れるように右足へ向けて左腕を動かし、当たるまでもなく弾かれた。三鈷剣(さんこけん)を貸して頂いたので、剣術の達人化と思いきや武術も一流だと舌を巻く。


「なるほど、自惚れるだけはある。だが」


 不動明王様はそう言うと背中に火焔を背負う。本物の火焔光背(かえんこうはい)を見れたと感動に浸っていたが、頭を振り身構える。今度はあちらから攻めてこられ、同じような攻めだったので同じような対応をして見せた。


凌いだと思ったのも束の間、大地を踏み鳴らすと同時に気を厚く纏い攻撃を仕掛けてくる。迷いも引っ掛けもなく真っ直ぐ突き出される拳の圧が凄まじく、小さく避けていては吹き飛ばされそうになった。


シンプルに圧倒的に強い、と言う言葉が一番しっくりくる。惑わす言葉も試すような動きもない。己の信念を貫く姿勢は受け継ぎ、犠牲を出さずに戦うために一人を選んだ。受け継いだ元である不動明王様は、それが間違いであると言いたいように思える。


「私に勝たなければ世界が滅びる、そうであったとしてもお前は一人で戦い続けるのか? 神ならわかるがお前は人であろう?」


 お前は神ではない、そう言われた時自分のどこかにあった思い上がりが見透かされた気がした。助力を得たり己を鍛えた結果人間を超える力を手に入れたが、それでも人間であるのに違いはない。人は非力だからこそ助け合い、苦難を乗り越え未来に辿り着く。


また元の世界での自分に戻ってしまうところだったと気付かされる。この世界に来て多くの人と触れ合い助けられ、今の自分があることを忘れてしまっていた。もう一人きりで生きているのではない、皆と共に生きているのだ。


「蓮に成れ、仁」


 不動明王様は蓮の池を指さしそう告げる。蓮は泥の中から水面へ上がり花を咲かせる植物だ。例え泥にまみれても気高く生きろ、ということだと受け取り頷いた。


「もう導く者は必要ない筈。お前も導く者になる時がきたのだ。仲間を護り導いてやるが良い」

「はい」


 蓮の池が眩い光を放ちだし、視界が奪われていく。


―仁よ、蓮の力も持って行くがいい。私の力を存分に使い必ず悪を討て


 目が見えないが不動明王様の声が聞こえたので頭を下げ感謝する。視界を取り戻した時には元の蓮の池になっており、しばらくするとシシリーが追い付いてきた。


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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