農家さんを困らせるスライム討伐!
「はぁっ!」
振り被り盾のふちを叩き付けたが皮の弾力で弾かれてしまう。最初にスライム討伐を受けようとした時の会話を思い出す。倒すには力任せに叩き付けるだけでは駄目だ。だが刃物で無い盾のふちでどうやって斬れば良いのだろうか。
スライムと相対しながら自分の頭の中の引き出しを大急ぎで漁る。ふと昔宿題をやっていた時に紙の端を素早く摩ったら切れたのを思い出す。この盾のふちは丸い訳では無いが尖っている訳でも無い。同じように素早く擦るように当てたら斬れないだろうか。
「っしゃ!」
当てると言うより擦ると言う感じでスライム目掛けて素早く振り下ろしてみると、小さい傷口が出来た。俺はその感覚を忘れないようもう一度同じ動作を行おうとするが、向こうも黙ってやられてくれる訳も無く逃げ出した。
追って振り下ろすも避けられる。さっき得られた感覚は実はまぐれだったのか!? と一瞬自分を疑ってしまったが、諦めずに振り下ろした体勢から勢い良く下から斜め右へ薙いでみた。するとスライムの端の部分のをカットに成功。
このまま切り付け続ければ行ける! そう確信と自信を得て倒すべくもう一撃と思ったが、向こうも反撃に出ようと木を溶かしながら登り、ある程度の高さまで行ってからこちらに飛び掛かって来た。
それを迎え撃つべく再度下から思い切り振り上げると上手い具合に切れ、更に核の横にヒットしたのが幸いしたのか核がこちらへ落ちて来る。地面に落とさないよう両手で包み込むように受け止め激レアゲット! と喜んだのも束の間。スライムの水とジェルと喰ったモンスターの骨も降って来て慌てて核をそれらから護るべく体を丸めた。
「ジン、ナイス!」
「お、おう……」
何とか核を護り切ったが、全身びしょ濡れで皮の鎧がダメにならないか心配になる。核を革袋に入れスライム討伐を再開したものの、やはりベアトリスよりも速度が遅く結局二匹が限界だった。辺りを見て回り、他に居ないのを確認してから農家の人にも確認して貰ってから完了のサインをしてもらう。
ギルドに戻りミレーユさんに依頼書を渡す序に核を手に入れたと話すと、面白いシステムを紹介してくれた。ギルドに核みたいなレアアイテムを納めた場合、報奨金は少ないものの貢献度が上がるシステムが存在すると言う。
今回の核は、ギルドに収める場合の報奨金は三百ゴールドだが、防具屋や武器屋に売る場合は九百ゴールドになるようだ。
「三倍かぁ」
「それくらい貴重なものなのよスライムの核は。中々落とさないし」
「ギルドの特典て何?」
「貢献度が上がると冒険者のランクとは別のランクが与えられるわ。冒険者として依頼をこなすだけでも貢献度は上がるけど、こうした貴重な品を収めると更に上がるの」
通常の依頼をこなすと精度にもよるが名声が上がり、上の方の覚えも良くなる。すると依頼書の束からの依頼とは別の依頼が舞い込んでくると言う。その依頼の単価は当然高く、報酬とは別の特典が付く場合もあるようだ。
更にこうした貴重な品を多く納めていると、レアハンターの称号が与えられとんでもない額を得られたりするようだ。また貢献度によってギルドでも役職が付いたり、怪我で引退を余儀なくされた場合の仕事の斡旋も良いところを紹介してくれると言う。
「保険みたいなもんですね」
「そういう側面もあるわね、危険な職業だから。冒険者ギルドに関して言えばこの世界の景色が変わる様な時代になればなくなるでしょうが、それは私たちが生きている間には無いと思うから心配しなくても良いと思うわ」
「ちょっとベアトリスと相談させてください」
「どうぞ」
一旦保留にしてラウンジでベアトリスと話すべく移動しようとしたが
「これギルドに納めます」
「良いの?」
「これはジンが取った物だし私若いから」
そう言ってベアトリスは俺の持っていた核を受け取ると、ミレーユさんに渡してしまった。少し戸惑いながら受け取りつつ俺を見たので苦笑いしながら頷くと、核を持って後ろに下がって行った。
「本当に良いのか? 売れば九百ゴールドだけど」
「良いよ。あんなの持って歩くと他の人に狙われるしそうするとサガもカノンも危ないから、今はああいうのは持たない方が私は良いと思う」
その言葉を聞いて何だか嬉しくなって頷く。確かにベアトリスの言う通りあの核を持ち歩けば、盗もうとする人間や騙して奪おうとする人間が出てくるだろう。核を出した時に冒険者ギルド内が一瞬静かになったし。
もっと周りに気を付けないとなと反省し、二人でラウンジに座ってゆっくりと待つ。奥から戻って来たミレーユさんは三百ゴールドと共に、今回の収めたアイテム名とギルドに貢献したという旨が書かれた賞状のようなものを渡してくれた。
「別に持っていようといまいと記録にしっかり残っているから問題無いけど、気分的にあった方が良いかなと思って」
「あ、ありがとうございます!」
心遣いに感謝し俺とベアトリスは報酬を半分こにして宿に戻る。サガとカノンに賞状を見せながら今日の話をして楽しい夕食を過ごし就寝した。翌日も同じような朝を過ごしてから午後に冒険者ギルドに赴くと、何と今日もスライム討伐の依頼が。
「スライム大発生ですか」
「そうみたいね」
ミレーユさんも訝しんでいる。となると何か作為的なものの可能性があるのかもしれないな。それ以上は何も言わずスライム討伐の依頼を再度受ける。
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