君と同じ目線
イエミアのことは良いのかとたずねてみたところ、司祭も彼らが通常の戦い方ではない方法で攻めてくると考えているらしい。理由としては警備に当たっていた時に、他国の兵士が瓶を数本抱え天然の要害である山脈の頂上付近で、それを撒こうとしていたからだという。
瓶は確保しユーさんに渡して解析してもらっているようだ。判明してもしなくても、司祭は数日後にここを出て暗闇の夜明けの施設を探すらしい。
「僕らはまぁ心配ないとは思うが、イエミアがノガミを殲滅するために手段を選ぶとは思えない。自分の子どもや孫まで躊躇なく殺そうとした女性だしね。野放しには出来ないから、暇つぶしに施設だけでも潰しておこうと思ってさ」
他の人たちの心配をするなんて意外だなと言うも、君がダメだった場合の予備だからねと答えブレないなぁと感心してしまった。司祭がじゃあまたねと言って去って行った直ぐ後に、門が開いて兵士たちが外に出てくる。
敵兵が去ったのは塀の上から確認したらしく、隊長らしき人物がどこまで下がったか確認したいとこちらに聞いてきた。あいにく上司ではないのでこちらに確認は必要ないので、必要なことをしてくださいと答える。
敬礼し他の兵士にも指示を出し森へ向かって走り出した。邪魔にならないよう入口から脇に移動し、彼らが行くのを見送る。全員がこちらを見て敬礼してから隊長らしき人物の後へ続いて行った。
「ジン! 無事だったのか!」
兵士たちが減り出来ったかなと思ったところで馬車が出て来て、停車すると窓が開き町長が顔を出す。恥ずかしながら戻ってまいりました、と言うと屋敷に皆居るので戻るよう言って去って行く。内心皆無事でいてくれてほっとしたものの、どうもバツが悪くて足が向かないでいる。
待っていることはないだろうけど、待っていたら悪いなと思いゆっくりと町長の屋敷へ足を進めた。町は所々ランタンがぶら下がった街灯があるが、それ以外は暗くひっそりとしている。夜中に帰ってきたのだから当然か、と思いながら人のいない町を見て歩く。
初めてこの町に来た時は元の世界との文明の違いに驚き、生きて行けるか不安だったのを思い出す。最初にあった盗賊との戦いの際に、営業マンと名乗っていたのが昨日のことのようだ。あの時奥様から頂いた篭手がまさか一撃のショウに繋がり、本人から正式に使用許可を得られるとは思ってもみなかった。
師匠に教えてもらった風神拳もショウさんの技だったし、改めて振り返るとすべてが繋がっているように感じる。
「あらお兄さん、随分黄昏ちゃってるけど大丈夫?」
空を見上げながらこれまでのことを振り返っていた時、声が前からして見るとエレミアが立っていた。随分と遅い時間なのに起きていたんだと驚いたが、こんな大騒ぎなのに寝てられないかと思いつつ久し振りと告げる。
家に帰り辛くなった? と腰に手を当てながら笑顔で聞く彼女を見て、なぜか少し涙ぐんでしまった自分が可笑しくて笑いながら頷いた。何も言わずエレミアは隣に立つ。そう言えばエレミアもある日突然身に”聖刻”を刻まれ不死となり、この町を出たんだったなと思い出す。
人であって人で無い者になった彼女と今は同じ景色を見ているのかもしれない。
「感傷的な気分になるわね」
「そうだな」
「でも始めなきゃね」
「ああ」
恐らくこの戦いが終わればもうただの冒険者ではいられない。人の英雄という枠からも外れるだろう。だが止められるのも取り戻せるのも自分だけだ。すべてを投げうってでもそうするために帰ってきた。
エレミアを見ると彼女もこちらを見ていたので頷き歩き出す。引き返す道はもうない。噛み締めるように屋敷までの道を歩き、到着すると人であるジン・サガラに戻り待っていた皆と久し振りの再会を果たす。
サガやカノン、奥様やイーシャさんもすっかり元気になっていてほっとする。司祭が居るから大丈夫だろうとは思っていたが、それでもこうして自分の目で見るまではどこか不安だった。さらにベアトリスやルキナも戻ってきており、二人とも以前とは見違えるほど成長していて嬉しくなる。
ヨシズミ国の危機だと言うことで師匠からも戻るよう言われたようだ。こちらの状況について司祭から修行に出ていると聞いたと言われ、ライデンのところへ狙って吹き飛ばしたということが判明した。
司祭のような血もなく生まれ持った才もないのに、変に目を付けられたお陰で酷い目に合っているなと自分を思い笑ってしまう。ウィーゼルからはジンが帰って来てくれたから司祭が居ても怖くないわ、と言われたが笑顔になるのが精一杯だ。
改めて思い出してもライデンの変身と少ししか違いが無いように思える。ライデンにすら軽くひねられたのに、変わらない司祭と戦えはしても勝つのは厳しいだろう。司祭もそれがわかっているからこそ今直ぐ戦わない気がした。
これ以上の伸びしろがまだあると踏んで、施設は潰しても暗闇の夜明けは放置するのだろう。暗闇の夜明けとの戦いを通して更なる成長をせよという厳しい要求で、これまでのクライアントの中で一番過酷だなと思いげんなりする。
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