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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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死を呼ぶ司祭

「気合が入っているじゃないか、ジン」


 気付けば周囲から音は無くなり、色すら褪せそうなくらい冷たくなっている。クロウに近い死の予感をさせるほどの強大な気を感じ、急いでエレミアとウィーゼルを下げようと振り向くが二人ともいない。


「安心しなよ。必要のないものは近付けない」


 優しく微笑む顔も輝く金髪も、見れば命を奪われるような気がした。まさかこんなところで突然現れるとは思っておらず困惑する。格好も司祭服のままで変わらず、悪夢を見ているような気がしてならない。以前は教会に行けば爽やかに挨拶してくれ、一日の始まりを感じたが今は違う。まるで断頭台に向かうような気分だ。


「少し僕とやろう」


 腕相撲でもしようくらいの気軽な声かけだったが、動きはそんなわけがない。瞬く間に距離を詰められ、スローモーションのように自分の腹部目掛けて相手の左掌底が迫った。気合いで体を捻りそれを交わし、素早く体勢を立て直したが今度は顎へ右掌底が飛んで来る。


首をひねり避けたが耳をかすった。氷の塊を押し当てられた痛さを感じながらも堪え、次の攻撃に備える。先ほど通り過ぎた右腕がそのまま下りて来たのが見え、腕を交差させて受けつつすぐに飛び退いた。


また追ってくると思ったものの、相手は足を止めこちらを見ている。避けたことに驚いているのかそれとも遅くてがっかりしたのか。こちらに対する過剰な認識を改めてくれるなら有難いのだが。


「凄い……凄いよジン……! まさか僕の攻撃を避けるなんてっ……!」


 目を見開きうつむきながらそう呟き体を震わせた。ギリギリ運良く避けたことを過大評価しすぎたと言うも、耳を貸してくれない。赤い気が体から湧き出すと同時に周囲は震えはじめる。圧の凄さにクロウを超えるかもしれないと思った。


下がるつもりもないのに足が後ろへ行ってしまう。正直逃げられるものならとっくの昔に逃げている。相手はこちらの成長を促すために数々の布石を打って来ており、乗り越えざるを得なかったとは言え乗り越えたこちらを逃がしはしないだろう。


クロウに勝ったのも皆の力添えがあってこそだ、と改めて説得を試みたが邪悪な笑みを浮かべるだけだった。出せる者を全て出さなければ間違いなく死ぬ。


破邪顕正(はじゃけんしょう)!」


 三鈷剣(さんこけん)を呼び出さずに深紅の鎧を呼び出し身に纏う。拳なら勝てるのかと言われればそうだとは言い切れないが、剣で戦うには修練不足だ。不動明王様の声が聞こえないのが気になったものの、力を貸してくれてほっとする。


構えを取ると赤い気を纏い突っ込んできた。拳には竜が宿っているように見え、かすっただけでも喰われる気がしてしょうがない。鎧をまとったのは正解だったようで、この力をまとわずにかすっていたら吹き飛ばされていただろう。


避けてばかりでは駄目だ、手を出すんだと自分に檄を飛ばすも拳を出せないでいる。拳を突き出した瞬間避けられ、がら空きのところに攻撃を加えられるのは確実だ。避けながら攻撃しなければと思う自分と、避け続けるのが正解だという自分がせめぎ合う。


鳥肌が全身に立ち続け、避ける時に鳴る風切り音が精神を削ってきた。一発一発が一撃必殺の拳が襲い掛かり続けている。クロウ戦と違い今は助けてくれる者は誰もいないと思った時、頭にクニウスたちの笑顔が過ぎった。


「うおおおおおお!」


 自らの弱気を声を上げ吹き飛ばしながら、避けると同時に拳を突き出す。一瞬驚いた顔をしたが、それでも拳を止めずに仕掛けてくる。少し脇腹に拳が当たっても構わず返し続けた。ここで直撃を喰らえば、待っているのは死だけだ。


奪われた者を取り返してもいないのに死ぬ訳にはいかない。ただいまもお帰りもまだ言っていないんだ。


「本当に君はジン・サガラなのか……? まるで別人じゃないか。僕が知っているのはどこか空虚で失うものがなにもなく、死んでも構わないと思っていた男のはずだ」


 言葉は疑っているが目は輝き口角は上がったままで、狂喜しているように見える。高速の攻防戦を行いながら喋る余裕がある彼に比べ、こちらは直撃を与える隙を必死に探していた。一撃加え隙が出来れば、必殺技を繰り出すチャンスがある。


間違いなく倒せるとは思えないが、現状打てる唯一の手と言っても過言ではない。最小限にして最速で避けては攻撃を繰り返しながら、注意深く相手を見て隙が出来る一瞬を掴もうともがく。完璧であるはずのクロウにもその隙があった。


必ずチャンスは来るはずだと信じ、直撃すれば即死の攻撃に精神を削りながら対処しつつ待ち続ける。


「なっ!?」


 気付けば相手の後ろには池があり、その池が突然光を発した。光に驚いて横へ飛び退いたのを見逃さず、


砕破拳(さいはけん)!」


 右拳に力を集中し相手へ向けて思い切り突き出し、拳の先から白い炎が放たれ風を巻いて向かっていく。距離も短く不意を突いた形になったので避ける間もなく直撃し、大きなガラスを砕いた音が周囲に響き渡ると同時に爆風が巻き起こる。


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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