シシリーがみえる理由
「本来であれば人間以外の存在は魔術粒子が無ければ存在できない。人間でいうところの酸素みたいなものなのよ。特に妖精はそれを多く必要とする。街中にほとんど存在しないのも、魔術粒子よりも酸素の方が空気中に多いからなの」
アラクネは自分の出生に悩み、生まれてから色々調べたらしい。中でもヤスヒサ王の文献や一撃のショウの文献が参考になったという。これまで当たり前に存在していた種族たちが、実は魔術粒子が無い世界では存在していないという、誰も考えなかった理論を展開していたと彼女は言った。
異世界人としては向こうになくてこちらにあるものは、なぜあるのか気になるのも無理はない。以前は魔術粒子は枯渇していたというが、存在に必要な量だけは世界樹を通して算出されていたようだ。
世界樹はクロウによって刈り取られてしまい、今はこの星自体に数は少ないという。現在の環境でシシリーが他の人にも見えるようになったのは、魔術粒子が多く供給されているからだとアラクネは話す。
エレミアかウィーゼルかと思ったが、二人からは魔術粒子が供給されている形跡はないし、何より供給されるような魂的な繋がりも感じられないらしい。そうなれば一人しかいない訳で……また特異点的な存在になってるのかと思い空笑いしてしまう。
「そういう存在がジンの周りに集まって、この広い星のどこかに国が作れたら面白いなと個人的には思うわ」
アラクネはそう言って去って行った。イザナさんもまだこの星には未開地が多いから、人が増えるなら開拓は避けれないと言っている。今ある土地で奪い合いが起こるくらいなら、自然をなるべく壊さない形で共存できる道を探した方が良いのかもしれない。
色々考えながら教会に戻りユーさんに材料を渡し、あとで問い合わせとかあると不味いので今日の報告を詳細にした。ユーさんまで頭を下げようとして来たのですぐに遮り、皆の様子をたずねる。以前までのワンオペ状態が解消され、薬草も調達出来ていることからだいぶ良いという。
明日の薬草取りが終えればあとは個人個人の回復力に期待し、目標値に到達したら復気をしてもらうと言われた。いよいよ出番となり気合を入れながら教会を後にする。町長の家に戻ると手厚くもてなされた。
イーシャさんと奥様はまだ寝たままではあるが、顔色はすっかり良く町長も久し振りに安心して寝られているようだ。なんとか少しでも前と同じようになれば良いな、と言われそうですねと答える。皆の治療が終わりイーシャさんと奥様も目を覚まし、アリーザさんも帰ってきてくれれば前と少し変わった程度で収まるだろう。
頭の中で昔の光景を思い出していた時、ベアトリスがいないことに気付く。町長にベアトリスの行方を聞いたところ、司祭の計らいで竜神教預かりになりシャイネン近郊にいるかもしれないそうだ。兄のルキナもそれを聞いてシャイネンに向かった、ジンと行き違いだと言われた。
明日にでもギルドを通じて手紙を出しますというも、手紙ならこちらで出すから言って欲しいといわれる。宰相の言葉を思い出し、町長にギルドについて聞いてみた。渋い顔をしながら今ギルドは以前とは違うという。
以前治めていたギルド長は行方不明になってしまい、それによってトップが交代する。ギルド員たちは調査を求めたが今のトップはそれを拒否し、内部分裂がおこっているそうだ。ヨシズミ国としても困るため、ゲンシ様にその件を相談したかったらしい。
今シャイネンに戻ってきていると教えると町長はほっとした顔をし、ジンの手紙と共に使者を送るといった。さっそく筆と墨を借りて部屋に戻りベアトリスとルキナ、ノーブルたちにも宛てた手紙を書く。
翌朝、教会へ向かうと今日は西へ進んだ蓮の池がある近くで採取を頼むと言われ、早速町を出る。エレミアもウィーゼルもここ数日の間でだいぶ心も体も回復したらしく、朝から他愛もない話で盛り上がっていた。
よく考えれば本当に久し振りにゆっくり出来ている気がする。ヨシズミ国を出てからはずっと何かに追われていた。今も追われてはいるんだろうけど、以前よりは心持ち楽になっている。焦っても仕方がないし、なにより取り戻すチャンスが来た時にしっかり動けないのが一番まずい。
アリーザさんを強制的に従わせているのは間違いなくイエミアだ。ノガミを殲滅するためにアリーザさんを使おうとしているのは、シャイネンで話した会話から察した。今この大陸には師匠を始めシスターに司祭、ノーブルにイサミさんと五人いる。
一気にまとめて潰すなどはしないだろうから、先ずはここで五人を倒し本国のノガミを呼び寄せるんじゃないかと推察した。シンラのことや疫病のことなど気になる点は多いが、イエミアが核となっているのは間違いない。
なんとかして彼女と対決する場面が来た時に確実に倒す、それが第一段階だ。解放されたあとで元に戻らなければ、ニコ様たちの力も借りて模索するしかない。アリーザさんを助けるために神とも戦ったんだ。
彼女を助けないという選択肢は死んでもあり得ない。
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