村正の謎と疫病と思った理由について
「じゃあこのメモした薬草を取って来て頂戴。エレミアが居ればわかるでしょ?」
てっきり復気で皆を回復させるのかと思っていたので拍子抜けした。彼らの生命力が生死の境をさまよっており、そこへ復気を直接当てると追い打ちをかけてしまうとユーさんは言う。
なんとか生死の境を抜け出せば復気を使えるらしい。魔法がズルいのは復気では出来ないところから使用可能だとも教えてくれる。エレミアもウィーゼルもそこをさぼらなければねと言うユーさんに対し、二人は抗議の声を上げた。
特にウィーゼルは私は魔法なんて使えないし習っていないと言ったが、妖術の中に魂をも修復する技があるでしょと言われ止まる。気になって聞いて見るも、ウィーゼルは知らないという。魂修磨と呼ばれる妖術があり、村正はそれを用いて作成された結果として業物になったと言われ、彼女はうろたえた。
「村正はその特異な成り立ちから、持ち手を選ぶ。一般人が持つと寝たきりになったり弊害が大きすぎるのよね」
「吉綱公は村正をもって人斬りになったと聞きましたが……」
「私も聞いたけど、なにか腑に落ちないのよね。魂修磨を使用し外道の技を用いて作られた刀ってことで興味を持って研究してたんだけど、代償としておぞましいくらい斬れ味を得られるという作用しかわからなかった」
ウィーゼルに本当のところはどうなのか、と問いかけるも知らないという。過去のことを思い返して辛いのか、村正を抱え怯えながら少し下がった。ユーさんを見ると椅子にもたれ掛かりながら腕を組んで唸る。しばらくしてから手をぽん、と叩いて言う。村正と似た刀がもう一振りあるって聞いたことがある、と。
以前シン・ナギナミに訪れた際の噂で、あまりにも出来の良い村正を納めるのを惜しく思った千子宇一族の者が、蔵にあった別の刀を納められたらしい、というものだった。仮にそうであるとすれば納得がいくものの、新たな問題が出てくるという。
吉綱公が握っていた刀こそ妖刀であり、それはどこに行ったのかという点だ。ミカボシさんの時代から交流があった人物の紹介で、一度だけ封印された村正を見せて貰ったそうだが、研究結果に符合する物だったと語る。
「ば、馬鹿なこと言わないで頂戴! 村正は村正よ! そんなことより薬草でしょ!?」
瞬きもせずうろたえたまま言うウィーゼルに対し、ユーさんと首を傾げた。今はこれ以上聞いても答えてはくれないだろうと考え、ユーさんに視線を向けると同じ考えなのか頷きメモを手渡される。五つ位で量もそう多くないと思いきや、炊き出しでもやるのかと言う量と十種類以上の薬草が書かれていて驚く。
三人それぞれに籠を背負わされ、教会を追い出された。サガたちが回復し皆で久し振りの再会をするために頑張ろう、とシシリーと気合を入れ二人にも協力を頼むと頭を下げる。エレミアは私はアンタに借りが出来たからと言ってくれたが、ウィーゼルは上の空のままだった。
薬草は文字だけで実物が分からないため、エレミアに指導をお願いする。記憶が確かならと前置きした上で、西から出た先にある山の麓に多く存在すると言った。元々何もわからないので先ずはそこから探そうと歩き出す。
歩きながらエレミアに、どうしてシンラが疫病を用いようとしていると思ったのか聞かれる。あの時は回復、というキーワードを聞いて咄嗟に思いついてしまったが、改めて考えてみた。回復魔法を使うのが難しく使い手が少ないのが一点、テオドールがシンラの姿は我々のお陰と言ったのが一点。
周囲に利用されている状況で武力蜂起をしても集中砲火を浴びせられ、師匠たちが乗り込んで来て終わりだろう。イエミアも居る今、より手の込んだことをしてくると考えた結果だった。テオドールには薬物の知識があり、イエミアにもそれがある気がする。
彼女たちならノガミ一族と真正面からやりあうという作戦は取らないと思う、と話すとエレミアは確かにねと言った。あの人は私のように占いではなく、薬草の知識とか研究する方面に強かったと教えてくれる。娘が武闘家系になったのは、ノガミの血の為せる業なのかもねと笑った。
ひょっとするとそれもあってノガミを駆逐したいのかなと言うと、それは笑えないと真顔で言われる。
「魔法は万能じゃないから、色々な可能性があっていいと思う」
肩に座るシシリーにそう言われ、万能な物なんて何処にもないんだなと思った。反面、今後も薬草の需要はあると考え、御店を開くならエレミアに薬草を調合したものを売ってもらえばいいんじゃないか、とシシリーに話す。
なんならそれを入れる袋をシシリーが編んで一緒に売るのはどうかと言うと、シシリーは座って右手を顎に当てて唸る。薬草を粉にして調合して持ち運びするなら、包むだろうから小分けできる袋とか重宝するかもとエレミアが言う。
シシリーはこれまで溜まっていたうっぷんを晴らすかのように、こうしたいとかいくらなら買ってもらえるか市場調査をしたいとか、現場に着くまで盛り上がった。
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