入り交じる国
「やっぱり探しに行くのね」
部屋を音を立てずに出るとエレミアとウィーゼル、それにシシリーが待っていて驚く。お見通しかと思いながら後頭部をさすり、明らかに町長たちの態度が可笑しいので見回りをしてみようと思った、と説明する。
初めて会った時に一緒にいた連中を探せば? とウィーゼルに言われた。コウガたちのことだろうが、テオドールたちと関わっていないのであればそのままにしたい。大々的な戦闘が発生したら戦わざるを得ないだろうけど、その時もテオドールたちはこちらで対処する。
二人には悪いけどと伝えるも、いまさらよと言って笑った。能力が高いのも不動明王様が力を貸して下さるのも意味がある。能力に見合った働きをしなければならないのは、貴族も戦士も同じだ。エレミアも覚悟が決まったのか、目がだいぶ蘇っていた。
廊下の窓を開け辺りを見回し、誰もいないのを確認して先に飛び降りる。次いで降りてくる二人を下で受け止め、そのまま抱えて塀を斜めに走って駆け上がり外へ出た。シシリーになにか感じないかと問いかけるも、色々な気が混じっていて分からないという。
色々な気が混じっているという言葉に違和感を感じながらも、皆で警戒しつつ移動を開始する。先ず初めに向かったのは、町の南西にある国営の畑だ。大型花があそこに移り住んでおり、テオドールがこの町に手を入れているなら恐らくいない。
「御久し振り」
割と広めの畑のど真ん中に、頭に大きなツバキの花を乗せた植物二足歩行の者が立っていた。小声で皆に周囲を警戒して欲しいと頼んでから、彼女に久し振りだな元気か? と声を掛ける。今日は月の光が強くて成長を促進させてくれるわ、と気持ち良さそうに目を閉じ上を向いた。
三人から特に怪しい感じはしないと報告を受け、大型花の近くに行こうとすると蔓が飛んで来て二人を抱えて飛び退く。なにかあって敵対することにしたのかと思いながら三鈷剣を呼び出そうとするも、反応が無い。
ならばと風神拳を打とうと気を高めたところで、大型花はどうしたのかとたずねてくる。敵か味方か判別は付かないが少しでも情報を得ようと考え、なにか事件があったのではないかと思って探っている、と具体的な話は避けて聞いてみた。少し間があってから大型花は、この国はいい意味で混乱しているという。
具体的に頼むと告げると気を探れるならわかるはずよと言うので、改めて気を広げてみる。人間だけでなく獣族やエルフにダークエルフもいるし、近くに動物もモンスターもいた。ネオ・カイビャク領とそう変わりないように思えたが、たしかに深く探ると種族が多い気がする。
「ここは自然と文明が入り交じり絶妙なバランスを取っている土地になったわ。それもひとえにあなたの功績よ、ジン。アラクネたちも元気にやっているし、隠しているとしたら王様が私たちを個別に雇用したことかしらね」
大型花曰く、会話出来て敵対する恐れのない種族とは契約をして同盟のような形を取っているらしい。種族と取れなくとも、個人と不可侵の契約を結べばこの土地に住めると知り、他から移民が大勢押し寄せているようだ。
最近は皆ヨシズミ国民を名乗り、この国の分け隔てない風土や古くから残る良いものを全員で護ろう、として移民による文化の押し付けを移民が諫めたりしているという。兵士たちも色々な種族が一緒になって防衛に乗り出しており、他国が全く攻められない状況を構築していると彼女は話した。
陛下の大事にする帰属意識があれば誰でも歓迎、という方針が上手くいっていてほっとする。出会った頃より前向きに生きているわよと言った彼女を信じ、町長の奥様とイーシャさんの件をたずねてみた。
すると先ほどまでと違い顔を曇らせる。やはりなにかあったのは間違いない。出来れば詳しく教えてもらえないかと話した瞬間、背後に殺気を感じた。三鈷剣ではなく羂索が現れ素早く後方へ飛ぶ。
全身黒のローブに身を包んだ人物が右手に持っていた得物を弾き、そのまま拘束をしようという動きを見せたが、せずにこちらに戻ってきた。殺気は本物だったようだが悪ではないらしい。いったい誰なのかと思い注意深く見ていたが、少し顔を上げて目が見えた時にそれが誰だかわかる。
「あら、もう来たのね」
「妙な気配がしたのでな。なるほど正体はおまえだったのか」
「おいおい、元相棒に対して失礼だな!」
「そっちこそ!」
右手を互いに立てて近寄りタッチした後握手を交わす。残った左手でフードを取ると現れたのは顔中傷だらけで年の近いコウガだった。大型花よりも古い付き合いの友人に出会い、嬉しさのあまり抱き着く。
大歓迎だなと言われ気恥ずかしくなり体を話す。まさかこんなにも感激するとは思わず、自分でも驚いてしまう。本当に無事でいてくれて良かったと言うが、コウガは辛そうな目をしたあと土下座をする。
慌てて止めてくれと言いながら横に行き起こそうとするも、お前に対してはこれでも足りないと言い出した。
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