ヨシズミ国へ向けて
姉が暗闇の夜明けとして現れ、敵対することとなったショックから抜け出せないエレミアを連れ、一路ヨシズミ国を目指す。シャイネン西にある乗合馬車の乗り場に移動してチケットを購入すると丁度出るところだと言われる。
急いで乗り込みそのままシャイネンを出た。エレミアが元気であれば洋服を作ったお店や、外のギルドに友人の眠る森を訪れたかったが、今はシャイネンから出ることを優先する。気持ちの切り替えをしてどうにかなる問題でもないが、少しでも離れれば多少良くなるんじゃないかと思った。
あまり考えたくないことだが、エレミアが”聖刻”と言われる不死の呪いを受けたのも、それをパルヴァが呪いを解くため魔力を使用し去ったのも、クロウとイエミアの策な気がしてならない。クロウも身動きは取れないだろうが、パルヴァも同じになった可能性がある。
どうか二人には少しでも幸運が訪れてくれるよう祈りながら、流れる景色を眺めた。夕方まで走り続けた馬車は、途中で町により馬車そのものを乗り換え馭者も変える。夜通し進む為の交代で乗客は渡された毛布に包まり眠りに就いた。
馬車の中では色々な人たちが乗り合わせており、最初の頃は互いに無口だったが二日目ともなると会話に花が咲き始める。どこから来たとかどこへ行くとか。行先は皆ヨシズミ国で、やはり平和で安定しているあの国で仕事を求めているようだ。
周辺国がきな臭くとも、ヨシズミ国は政治も安定し竜神教と手を組んだことでさらに強固になった、最近は入国希望者が押し寄せて大変だという。話を聞いて笑顔で頷いたが、そうなってくると他の国のスパイも多く入り込んでいるんじゃないか、と不安になった。
帰属意識があれば誰でも大歓迎と豪語するゲマジューニ陛下のことだから、表向きそう発言しておけば誰でも通れてしまう可能性がある。ネオ・カイビャク領であれだけの騒ぎがあったのだから、こちらでなにもないと考えるのは都合が良すぎるだろう。
戦いに次ぐ戦いに少しため息が漏れてしまう。四日目に入り、乗り合わせていた内に冒険者がいたようで、名前をたずねられた。乗り合わせた縁とはいえ、見ず知らずの人間に名乗るのも危険な気がして偽名を名乗る。
ウィーゼルが噴き出したので顔を見るとすぐに背けた。冒険者はジン・サガラかと思ったと言い、続けてこうも言った。かの英雄が戻って来てくれればヨシズミ国も安泰だろうに、と。
「周辺国がヨシズミ国に色気を出したのも、ジン・サガラが出国してからだ。この大陸では誰よりも名声高く、冒険者の目標となった人物だから当然だろう。さらにネオ・カイビャク領でも勇名を馳せたことで噂は持ちきりだ」
他の乗客も聞いたことがあると言って噂話をし始める。妻も多くヨシズミ国では冒険者の部下を何人も抱えているとか、ネオ・カイビャク領の悪党を懲らしめるため家を焼き払い、不退転の決意で出国したとか。
ウィーゼルは堪らず羽織の袖で顔を隠した。色々間違っているので訂正したいところだが、一人一人訂正して歩く訳にもいかないので、そのまま笑顔で頷いておくことにする。夜は眠り起きれば挨拶をして沢山話をしたが、やがて話も尽きたところでようやくヨシズミ国が近くなってきた。
ついに帰ってきたと思ったが、アリーザさんがいない国に帰って来ても嬉しさはない。アリーザさんを探したいところではあるが彼らの拠点は分からず、この地方で彼らが攻めて来そうなのはシャイネンとヨシズミ国だろう、と踏んで帰ってきたのもある。
状況によってはこちらから隣国へ攻める必要が出てくるだろうなと思っていた。元々暗闇の夜明けは各国で暗躍しているというのは、多くの人に知られている。以前もヨシズミ国にちょっかいを出していたし、シャイネンを襲うくらいだから本腰を入れてもおかしくはない。
馬車は森を抜け草原に出たところで、シシリーはエレミアの肩から外を見て感嘆の声を上げた。エレミアは相変わらず落ち込んだままだったが、シシリーはよく頑張ってくれたと感謝しかない。状況を把握しなきゃならないけど、なるべく早くシシリーの夢を現実になるようにしていきたいと思っている。
北門の近くにある停車場に馬車は止まり、皆順番に降りて近くの小屋に身分証を提出し荷物検査を受けていく。自分の番になって冒険者証を提示してみせるも、受け取った兵士は動かなくなってしまった。
他の兵士が中を見て声を掛けても応答がない。中に入って身分証を見るとその兵士も動きが止まる。
「お、お久し振りです!」
結局何人もその状態が続いて場が騒然とした雰囲気になってしまった。大勢の兵士たちが集まり、その中の一人が前に出て敬礼する。相手はジョンジュニアと名乗り、始まりの羊事件でお世話になった人だと思い出して挨拶し握手を交わした。
今では門兵たちの小隊長となったと聞き、真面目な人の功績が認められて取り立てられる国で良かったと少し安心する。さっそく町長へ報告したいのですが宜しいでしょうかと言われたので、ジョンジュニア小隊長の宜しいようにと答えた。
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