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甘いおじさん

町長は次の予定があるというので、お礼を述べてから俺は町長室を出て外へ向かう。皆が町案内をしている間に教会へと向かい今日の鍛錬を開始した。基礎体力の強化と体の使い方を暫くメインに鍛えていくという。早速町の周辺をシスターと共にランニングする。


「何やら昨夜はご活躍だったようだな!」

「背後から襲い掛かっただけでご活躍では無い気がするけど」


 実際正面から戦っていたら多勢に無勢だし、相手に俺が来ると分かっていればこんな優位に進められなかっただろう。コウガ首領も通常の戦いなら俺に遅れを取ったりはしない。盾だけ装備して得物らしいものが何も無い相手と戦ったのは初めてなんじゃないだろうか。


「戦いに卑怯も何も無い。ジン殿は甘いな」

「そりゃそうだけどね」


「分かっていないな。命の取り合いなのだぞ? 飢えた経験があれば尚更手段を選んではいられない。勝ち方に拘れるのは優雅で満ち足りている者だけだ。泥水を啜り残飯を漁り生きて来たような者、護らなくてはならない者がある相手にジン殿は勝てない」


 はっきり言われてしまったが全くその通りだ。元の世界でも家族は居ないし友人と呼べる人間も居ない。俺が死んで悲しむ人間と言えば先生くらいかって感じだ。幸い飢えに苦しまず成人出来たのは、社会的セーフティネットがしっかりしてたからだし。


そんなものはこの世界に無いのは見れば分かる。その上面倒な事情も絡んで居れば真っ先に放置される案件だろう。あちらに居た時は思いもしなかったが、そう言う人たちからすれば俺は恵まれた方の人間だ。


だが今は少し違う。


「あのいけ好かない御嬢様と更に盗賊を抜けた兄妹を何とかしなければならんのじゃないのか?」

「その通りだ。あの子たちの件をある程度片付けなきゃ俺は最低な大人になってしまう」


「甘いなら甘いなりに気を引き締めねばな」


 シスターは最初に会った時のイメージが強すぎて囚われていたが、認識を改め直そう。この人も世の中を色々見て来た人だ。きっと俺よりも嫌な場面に出くわした回数は多い筈。助言を受け止めて甘さも認識し正していかないと。


「そこで提案なのだが……」

「な、何でしょうかシスター」


 キリッとして童顔を引き締め俺の方を向いた。これは何か重要な提案に違いない。俺の甘さを断ち切る為に、シスターがこれまで学んだ経験からアドバイスをくれるのだろう。期待に胸が躍る。


「アタシと所帯を持たないか? 所帯を持つと責任感が生まれるらしいぞ! なぁ所帯を持たないか!?」


 目を輝かせ若干涎を垂らしているシスター。認識を改め直そうとした俺の気持ちをどうしてくれんだよ、ええ? と言いたいところに何かが飛んで来てシスターの頭を直撃。そのまま茂みに突っ込んだ。


「おー何かに当たった」

「ヒットヒット!」


 何処かで聞き覚えのある声がしたのでそっちの方を見ると、ベアトリスたちが居た。彼女たちも俺を見つけて寄って来てくれる。何でも町の見学に飽きたのでサガと妹のカノンが山に居た時に身に着けた投擲を見せて貰っていたという。


「イーシャさん大丈夫ですか? 疲れませんか?」

「え? 私は全然」


 細身で日差しに弱そうに見えたイーシャさんは、俺の問いに驚き首を傾げてから首を横に振った。印象とは違いひょっとしてかなり体力があって強い人なのかもしれない。この世界はそういうの平気でありそうだ。シスターもベアトリスも細いのに強いし……ってシスター忘れてた。見に行こうとするとベアトリスが俺を手で押し退け茂みに近付き見下ろす。


「何時まで寝てんの? アンタ」

「お前にアンタ呼ばわりされる覚えはねぇ!」


 また始まるファイト。飽きないなぁこの二人は。俺は気が済むまで放置しようとサガたちに投擲を教えて貰う。これが中々難しい。布に石を入れて手を振り狙いを定めてその石を飛ばすというものだが、サガもカノンも近くを飛んでいた鳥を器用に当てて落とした。


「二人とも凄いなぁ上手いもんだ」

「まぁね。これが出来ると出来ないとじゃ御飯が違うから」


 そりゃ必死になって落とそうとするよな。俺はただ何の気無しにやってるんだから違いがあるのは当然だ。鳥だって生きる為に必死で飛んでるんだから当たり前だ。


「おじちゃん今は気が抜けてるみたい」

「そうだな。あの時はカッコ良かったのに」


「良いんだよ常時気を張るタイプじゃないし。必要な時にキリッとするんだ」


 言い訳にしか聞こえないが強がってみる。その後皆で町まで戻ると案内を再開すると言うので別れ、俺は教会に行く。ティーオ司祭に木人と呼ばれる木で出来た人の形を模した物を攻撃するよう言われしてみる。


「そこまで。うーん思った以上に殴り方が様になってますね」

「よ、喜んで良いやら」


「良いと思いますよ? そうでなければ拳か肩が可笑しくなりますからね。攻撃して自分も負傷しては世話が無い。そうと分かればより力を伝えられるよう修正していき、終わったら本格的な修行に入りましょう」

「はい!」


 こうして暫く拳を打つ姿勢や蹴りを放つ時の体勢などをチェックしてもらい、戦う時意識するようにと言われてこの日の鍛錬は終わった。







読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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