覚悟の出立
「こういうのもなんですが、本当にあちらはこちらほど呑気ではないでござるよ?」
復活したマテウスさんが助太刀に入ってくれる。吉綱公崩御の際に大和城にいたというマテウスさんは、当時間違いなく死亡を確認し昨日会ったのを見ても本人で間違いない、と太鼓判を押す。悪名高い人物をパワーアップさせて蘇らせるような輩が向こうには居るので、命の保証は全くできないどころか尊厳を奪われるかもしれないと忠告した。
イザナさんとブキオは腕を組んで唸る。二人とも親代わりをしてきたし、そう言われてはいそうですかと出せないはずだ。
「ここから先は修羅のみが生き残る戦場になる。お散歩気分で来るなら止めた方が身のためよ」
後ろから村正を抱えたウィーゼルも現れ止めるよう告げた。見たところまだ完全に立ち直ったわけではないようだが、それも仕方がない。親の仇である吉綱公を野放しには出来ないのは自分でもわかっているだろうが、いざ目の前にした時に彼女は動けずにいたのだ。
次回動ける自信がまだ持てない、というところで葛藤が続いているんじゃないだろうか。吉綱公との戦闘を振り返ってみても、本調子のウィーゼルが村正を握り戦ったところで勝てるかどうか正直なところ不明だ。
吉綱公の動きはハイレベルで、不動明王様に力を借りても倒しきれていない。暗闇の夜明けのメンバーもこれまで以上に本気で来るだろうし、その上ティーオ司祭まで出てくる。まさに修羅が踊る地になっている可能性が高く、自分も二人が言うように保障は出来ませんと改めて説得した。
「ジン、私はあなたに復気を教えました。それなりに強いと思いますよ?」
たしかにイサミさんに教えを受け修得出来た。気のコントロールという面で言えばこちらよりも上であり、さらに魔法を使えるので戦力としては当然アップするが、問題はそこではない。普通の冒険者がそこらで野垂れ死にするのとは訳が違う。
ハユルさんで言えばブキオが何かあった時のハイ・ブリッヂスの命綱だし、イサミさんに至ってはエルフのノガミという貴重な人材である。人生経験を積みに出たら詰んだなんて笑い話にもならない。改めて振り返ればクロウと戦う時にクニウスたちが居てくれたのは、本当に運が良かった。
今度はクニウスたちの立場にならなければいけないが、まだまだその場所までは遠く感じる。二人の面倒は任せろと格好つけたいところだけど、妻ですら満足に守れていないので言う資格はない。
「死して屍拾うものなし。蜥蜴族の戦士として後れを取る気はありませんが、例え強敵と交戦して死のうとも後悔はありません」
ハユルさんは言いながらブキオを見ると頷き合いこちらを見た。覚悟が決まっているならもうそれ以上何も言わない。覚悟を決めて一緒にくるなら互いに背中を預ける仲間だから、助け合おうと手を差し出す。望むところです必ずお守りしますとハユルさんは笑顔で手を握ってくれる。
イサミさんもイザナさんをじっと見ていた。ヤスヒサ王の軍師として亡くなるまで仕え、最後の娘を託された人だから迷うのも当然だ。しばらくしてイサミさんがこちらを見るとイザナさんは苦笑いする。
「というわけだ。保障しろとは言わんが、お前も含めまた無事にこちらへ来い。お前たちが寿命で死ぬまで俺様は当然生きているのでな。気長に待つよ」
言葉を受けて頷き全力を尽くしますと答えた。イザナさんもイサミさんもティーオ司祭を知っている人たちだ。この先が激戦になることを予想していないわけがない。それでも来てくれるというのであれば、こちらも全力で答える。
改めて紹介を終え皆でリベンを目指して出立した。シシリーが上手くやってくれたお陰かエレミアの機嫌は元に戻ったように見える。女性陣でわいわいやっているので胸をなでおろすも、問題児が今も静かだ。
マテウスさんはノーブルと面識があり色々話しかけたものの、気の無い返事しかしない。失礼だぞと優しく注意したが、これにも生返事で返した。今は少し一人にしておこうとマテウスさんと向こうの大陸の話をする。
師匠もこちらに来る前までティーオ司祭の動向をかなり気にしていたようだ。さらにヨシズミ国周辺の動きにも注視していて、ニコ様と共に視察に出かけ後ろ盾があるアピールをしたという。周辺国からさらに先はまだ未開の地であり、言葉が通じる者たちが争っている場合じゃないと説得もして回ったと聞き、さすが師匠とニコ様だと心の中で歓喜の声を上げた。
ヨシズミ国は領民も穏やかで地形的にも攻め辛く、政治もある程度安定していて名産もある。安心して取引できる国でもあるが、領地として確保したいと望むところが多い。そういったところの介入で内乱が起きかけた。
ゲマジューニ陛下により不安要素を排除した今、師匠たちも後ろ盾となってくれるなら攻める気にはならないはずだ。
「ジンたちを迎えに来たのも、戦力として当てにしているから出来れば早めに帰ってきて欲しい、という事情もあったでござるよ」
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