ヤーノを発つ日
「あまりお前の前で言いたくはないが言わねばなるまい。魔法石などという悪魔の石を誕生させたのは驕り高ぶったエルフとダークエルフだ。そう言えば石がどういうものか想像がつくと思う」
暇潰しや退屈しのぎ感覚で行われた実験の産物に、品質保証など有り得ない。人の魂の集合体がなぜ人の心臓の変わりが出来るのか、その理由すら分からないのだろう。今は変わりをしていてくれていてもいつ暴走するか分からない正体不明の石、そう聞いてもあまり驚かなかった。
死んだ人を蘇らせる石がリスク無しの都合の良い石のわけがない。心のどこかでわかっていたからだろう。なにがあろうと妻であることには変わらないし、なんなら自分の方が問題が多いのだから迷惑をかけると思っている。
「……そうか、良い伴侶なのだなお前の妻は」
こちらの表情を見て察してくれたのか、イザナさんはそう言ってくれた。言葉では答えず笑顔だけに止め、下ブリッヂス地方でのこの世ならざる者は村正が原因なら問題ないのではないかと告げる。
頷くと共にこれ以上引き留めては奥方に恨まれようからなと言われ、苦笑いして流した。マテウスさんが回復次第師匠の待つリベンへ戻ることとなり、駐屯地で夜を過ごす。夕食を作る手伝いをしているとブキオにハイ・ブリッヂスにも来て欲しかった、と悲しそうに言われる。
落ち着いたあとでたずねるからその時は大歓迎してくれよ、と言うと必ず来てくれと目を潤ませながら言われた。そんなたいそうな人物ではないのにと思いながら食材を運んで行く。気になったのは他の人たちがとても静かな点だ。
エレミアは若干不機嫌だしイサミさんはなぜかこちらをチラチラ見てる。ハユルさんはブキオとちょくちょく言い合いをしていた。一番不気味なのがノーブルで、彼はどこか上の空でタクノがはらはらしながらフォローしている。
正直どこからフォローしたら良いものか分からないが、スルーすれば爆弾マークが付きそうなので一人ずつ接触を試みた。対応できそうなエレミアに最初に声を掛けてみたが、とてつもなく機嫌が悪い。
今回の旅の感謝とこれからもよろしくと話すも、鼻息荒くそっぽを向かれてしまう。肩に居たシシリーからここは任せてと小声で言われたので甘えることにする。次にイサミさんに話し掛けるもわざとらしく距離を取られ、取り付く島もなく逃走された。
ハユルさんに話し掛けるもなにかお困りですか? と逆に聞かれてしまい、特に困ってないがそちらはどうかとたずねるも特にと言われる。色々話して不審な行動の理由を探りたかったが、料理が忙しいと言って去ってしまう。
「今回もお役に立てませんでした……」
はっきり口にしてくれるだけ一番マシなノーブルの言葉に微笑んで頷く。急襲されてしまったので仕方ないし、駐屯地を守ってくれて感謝するというも盛大に溜息を吐かれた。戦いたかった気持ちもあるが何より先生の戦いをこの目で見たかったと肩を落としながら言う。
因縁のある相手だし、ああいう手合いはそんなにいないからと慰めるも、だからこそ見たかったと半泣きで答える。恐らくナビール氏たちはシャイネンへ行くのを許さないだろうから、経験として見せておけばよかったなとは話を聞いてて思った。
反面、特殊過ぎる例になるので変に覚えていると障害になる可能性もあるとも考え、見なかったのもそういう定めだったんだよと言って再度慰めた。納得いかずにいじけだしたが、タクノにお任せをと言われたので任せることにする。
その後も準備を続け料理が完成し皆で食事をした。兵士たちは賑やかだったものの、こちらは皆それぞれの思惑があるのかなんなのかわからないが、妙な空気で静かに食べている。色々話を振ってみたがほぼ全員上の空だった。
イザナさんのみが普通に話せる状態だったが、何が面白いのか終始ニヤニヤしている。営業で渡り歩いて来たからトラブルに強い自信があったのに戸惑うばかりだ。結局黙々と食事を済ませ就寝し、翌朝すべての物を片付けて撤収した。
ようやくこれで帰りたい場所へ帰れる。改めてとてもお世話になったイザナさんに挨拶すべく、一度戻ると言っていた集会所を訪れた。
「お世話になります!」
「なんで!?」
集会所に入るなりイサミさんとハユルさんにそう言われて即ツッコミを入れる。この世界に来て最速のツッコミだったに違いない。いや、意味が分からないんだけど。イサミさんはヤーノだけでなくこの一帯のノガミの管理者だし、ハユルさんはハイ・ブリッヂス統治者であるブキオの妹でいざとなれば代理統治者になるはずだ。
イザナさんとブキオに聞くといい機会なので社会見学に出すという。語学留学みたいな気軽さで言ってもらっては困ると抗議した。向こうはここよりも未開の地が多いし紛争状態のところもある。なにより暗闇の夜明けが暗躍しており、戻れば戦闘をせざるを得なくなるだろう。
説明したがそれだからこそ出すと言われてしまった。ミサキの乱のようなものはこちらではこれまで全くなく、平和な時しか知らないのでは今後困るというのが二人の言い分だ。
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