徘徊する辻斬り
時代が進めば真実は消え去り悪いイメージだけが名前と共に残る。潰された家を再興することは簡単じゃないと憤るが、左腕を掴まれたので見るとウィーゼルが首を横に振っていた。つい怒りに任せて言葉を発してしまったが、当事者が一番言いたいはずなのに黙っているのを見て反省する。
マテウスさん曰く、ジンの言いたいことはわかるし自分もそう思う、だが誰かが責任を負わなければ終わらない状況で、上に誰もいない将軍の責任をだれも負えない。卑怯でしかないが、犠牲になった人の家族たちに納得してもらうためには、哀れに思う処罰を与えなければ収まらなかった。
当時の家老たちも総辞職し将軍も輝吉公の親戚から取り、新たな家老たちと立て直しを図っているという。
「シン・ナギナミでは皆言っているでござるよ。将軍の責任を千子宇一族が取ったと。これまで絶大な権威を誇っていた将軍という位がゆらいだのは間違いなく、この先どれだけその形態が残るか大名たちも安泰ではないと思うでござる」
「位と徳はイコールでなければならない、でなければ位の必要が無い」
自然と自分の口から出て驚いたが、二人も驚いている。きっと不動明王様の影響だろうなと思い慌てて空笑いをして誤魔化す。また王様に向いてるとか言われる前に、再度マテウスさんがここに居る理由を聞いてみた。
どうやら師匠から言われて迎えに来てくれたらしい。向こうとこちらではラグがあったが、ニコ様が異変を察知し魔法の道を開き、師匠とマテウスさんを送ってくれたようだ。師匠は今リベンで状況確認しつつ待ってくれているという。
一瞬久し振りに師匠と会えると喜んだものの、再度テオドールの言葉が頭を過ぎる。二人に対してその話をし、村正かその周辺での異変が何か残っていないかと聞いてみた。少し考えた後で確証はないし噂話の範疇だがと前置きし、村正に関連することが一つだけあるという。
それは吉綱公が夜な夜な彷徨っていたという噂だそうだ。噂が立った当初、町を岡っ引きが巡回している際に辻斬りに遭う事件が多発する。国は総出を上げて犯人探しに躍起になったものの捕まえられず、戦々恐々としていたもののある日突然辻斬りが止まったそうだ。
「とある大名が吉綱公の墓参りをしたところ墓がズレているのを発見し、その隙間から下を見たら何も無かったという噂でござる」
墓をもう一度開いて確認するという行為を誰もしたがらず、結局幕府の指示で墓を整えただけに止め、真相はわからないままらしい。暗闇の夜明け絡みで死者が蘇った例を知っている人間としては、もうリーチがかかったも同じである。
テオドールが村正を盗んでこの場所に突き刺しこの世ならざる者を召喚させたと思ったが、それもどこまで正しいのか疑問に思えてきた。状況を整理した上で考えると知らないのは村正だけだ。
村正が偽物である可能性が考えられるが、だとすればあの見せられた過去はなんだったのかと言う話になる。疑問を抱きながらも二人にたずねたが、改めて確認してもこれは村正で間違いないと言った。
刃に浮かぶ刃文が金平糖のような形をしている特徴がそのままあると言われ、二人がそう言うなら間違いないのだろう。いったい何がこの件でまだ尾を引いているのかまったく見当が付かない。現在シン・ナギナミでは知る限りでは事件は起こっていないとマテウスさんは言う。
「どうやらお困りのようだな客人」
言葉と同時にぞくっとする寒気が場を覆った。周囲の音も消え自分の呼吸がはっきり聞こえる。とてつもなく研ぎ澄まされた殺意を感じ相手の気を掴もうとした瞬間、三鈷剣が反応し腰から抜けて前に出た。
「さすがだ! そうでなくてはなぁ異世界の客人よ!」
黒の紋付袴に草履姿で前髪から頭頂部までスッキリし、丁髷を結った男が現れる。腰に佩いた刀に手をかけていたが、剣がぶつかった金属音がしたので一撃目は放っていた。数秒の間に間合いを詰めて斬りつけてくるとはとんでもない手練れだ。
三鈷剣が反応してくれなかったら一撃もらっていただろう。改めて剣を手に取り構える。
「一撃で仕留め損ねたら引こうかな」
自分で自分に問いかけているのか知らないが、引こうかなと言いつつ抜刀してきた。とても鋭い一撃だが見えていれば受けられる。ニヤリとしながらそれを見ていたのが気になり、剣の軌道を追うと素早く斬り返してきた。
力を入れて迎え撃ち刀と剣が合わさり力比べになる。相手はそれを素直にせず蹴りを放ってきたが、それはこちらが専門だ。腰を低くし体で受けて弾きながら、蹴りで踏ん張りが弱まった剣を押して返す。
わざわざ長引かせる気はないので、泳いだ体目掛けて斬り掛かった。こちらの動きを見ながら残した足で飛び跳ねくるりと宙返りし距離を取ろうとする。見逃すはずもなく斬りつけたが、読んだかのように刀を背に回し受けた。
刀ごと思い切り押し飛ばすもくるくると回り、木に当たりながら速度を殺し弱まったところで足で気を蹴り、地面に着地する。
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