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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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千子宇一族

抱きしめられた状態から解放されようともがくこちらを力強くホールドする。これは色々不味いと考え、隙を生み出すべくテオドールが言いかけた話が終わっていない件について聞いてみた。暗い顔をして俯いてしまったものの、聞くのを止めるわけにはいかない。あの男が絡んでいるとすればろくなことが無いし、それは他にも害を及ぼす。


「まさか村正を収めてしまうとは……」


 後ろから不意に聞き覚えのある声がしたので、なんとかウィーゼルの抱擁から顔を出してみると懐かしい人が立っていて驚く。三度笠に黒いローブで身を包み黒い布で口元を隠していたが、目元は間違いなくあの人だ。


「マテウスさん、どうしてここに?」

「久しいなジン! というかこの状況は一体どういうことでござるか?」


 チラチラこちらを見ながら口元を覆う布を右手の人差し指で擦る。なんとか改めてウィーゼルに解放してくれるよう頼んだものの、なぜかホールドしたまま立ち上がり出す。新手のヒルかと思うくらい引っ付かれて困った。


この格好で失礼しますがと切り出し、状況説明をする。聞き終えると苦笑しながらため息を吐き、自分もついに追い越され離されてしまったなと言った。慌てて自分は色々な力を借りてるだけですからと言うも、それも実力のうちでござると笑う。


マウロ・キーファスとダークエルフの母親の間に生まれたマテウスさんは、シン・ナギナミ出身だったのを思い出し、村正について知っているのか聞いてみる。寧ろジンが知っていて驚いていると返されてしまった。


「そもそもここに村正があること自体が想定外で驚いているでござるよ。厳重に大和城で管理されているはずなのに……玉藻姫は理由を御存知でござるか?」


 立ち上がっても頑なに解放してくれなかったウィーゼルが、玉藻姫とマテウスさんに言われた瞬間力を緩める。今がチャンスだ! と思い逃げ出そうとするも、足が動かず横へ倒れ込んでしまった。恐らくウィーゼルの妖力によるなにかだろうが、顕現不動(けんげんふどう)でも捕らえられるのかと驚く。


視線を足元から上に移動させて気付いたが、いつの間にか顕現不動(けんげんふどう)モードが解除されている。体力は完全に元に戻ったので、役目は終わったということなのだろうか。タイミング悪いなと思いつつ、再度三鈷剣(さんこけん)を呼び出そうと念じてみたがなぜか出てこない。


「その名前で呼ばないで頂戴。今の私はウィーゼルよ」

「何度か接触しかけたことがござったが、やっとお会いできて光栄でござるよ」


「マテウスさんは彼女を知ってるんですか?」


 シン・ナギナミでは知っている人の方が多いでござると言われた。代々将軍家に刀を収めていた千子宇(せんごう)一族の姫であり、シン・ナギナミの君主である大和吉綱公の命により無理難題を強いられ、それを成し遂げた人物であると説明される。


ウィーゼルを見ると沈痛な面持ちをしていた。過去を見た時のことを思い返せば、とても喜ばしいものではないのはわかる。


「今は代が変わったので皆はばかりなく言えるが、吉綱公は先代をすぐ超えたいと功を焦り過ぎたでござるよ。神刀皇(しんとうすめらぎ)を超える刀など誰が考えても夢物語なのに、それを逆らえない相手に出来ねば一族郎党皆殺しにするぞ、と無理強いをしたでござる」


 先代大和輝吉は名君であり、数々の改革と偉業を成し遂げ国を発展させた歴史に残る人物らしい。ネオ・カイテン統一後にナギナミもと騒がれた事件を上手く乗り切ったという。直系である吉綱公は発展よりも安定を求められていたにもかかわらず、より良くすべしと臣下に命じ結果悪化させてしまったようだ。


財政も輝吉公が貯蓄し三代は持つだろうと言われていた資金を全て吐き出し、現在ネオ・カイビャクから借り入れを行わなければ立ち行かない運営を強いられているらしい。結果として多くの優秀なナギナミ人が他国で出稼ぎせざるを得なくなり、先代の積み上げたものをすべて消費しただけでなく借金までした暗君、として歴史に名を遺した。


吉綱公の悪行の代名詞、わかりやすい例として村正は上げられるとマテウスさんは語る。神器を上回るものを目指して打たれた村正は、通常の刀では斬ることの出来ないものをも斬ることが出来、如何なる妖術も魔術も防げない。あまりにも凄い能力に魅了され、持ち主は取りつかれた。最初で最後の持ち手は他ならぬ吉綱公だという。


「吉綱公は病で伏せて交代と記されているものの、実際は国民を試し切りにして回った結果討伐されたのでござる。国としては村正を封印するとともに、その……千子宇(せんごう)家をお取り潰しにしたでござるよ」


 将軍を処罰することは出来ず誰かを犯人として処罰せねばならなかった、その為に刀を打った一族を潰したと説明される。あまりの理不尽さに憤りを隠せないでいると顕現不動(けんげんふどう)モードになり自然と立ち上がった。


マテウスさんが言うにはお取り潰しにはしたものの、家だけを無くしたに留めたそうだ。代々続いて来た家が潰されてよかったとはならないだろう、とつい口から出てしまう。国民はだれもが真実を知っているし、現在の将軍である輝宗公は千子宇(せんごう)一族の名誉回復に尽力しているらしい。


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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