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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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村正とウィーゼル

あともう少しのところでこちらが村正に触れるのを阻止すべく、敵が群れを成して襲い掛かってくる。


不知火(しらぬい)!」


 剣を抜いて対応しようとしたところ、後ろから声が飛んで来た。こちらに手を伸ばした敵が炎に包まれ足元から崩れ塵になる。誰だろうと後ろを見ようとしたが、あっという間に横に現れた。イザナさんはよくここに来れたなと感心したように言うも、横に並んだウィーゼルは無視して他の敵を指さし炎を浴びせる。


直接攻撃だけでなく、こんな力も持っているとは驚いた。魔力ではなく妖力による遠距離攻撃だろうが、これを以前出されていたら対処できずにやられてしまっただろう。なぜなのかと思いながら彼女の戦いを見ていたら、早く刀をと言われる。


村正に再度接触を試みたが、あっさりと目の前に着く。柄を握ろうとしているが先ほどと違い敵はこちらではなくウィーゼルを目指していた。動きを見てなんとなくだが、いきなり村正の柄を握らないような言い気がする。


恐る恐る右の人差し指をその柄頭に当ててみた。突然視界が暗闇に覆われてしまい慌てたものの、悪意は感じない。しばらくそのままの状況が続いたあとで、前方が少しずつ明るくなってくる。明るくなった場所にうっそうとした森が映し出され、やがてそれは森の中に入って行った。


 どうやら誰かの記憶を見せてくれるようだ。凄い速度で森を進んで行くと村が現れる。着物を着てたすき掛けしている人々が忙しなく行き交い、そのまま奥へ進むと大きな和風屋敷が現れた。門を潜って中に入り、さらに建物の中に入る。中には大きな釜戸や台が置かれ、下には幾つも刀の柄が無い物が転がっていた。


視線の主はその光景を見つめたまま動かず、心の声が聞こえてくる。今日も駄目だった、いやずっと駄目なままだ、という絶望感に苛まれた言葉が頭の中で繰り返されていた。


――お父様?


 左の方から可愛らしい声がして視線がそちらを向く。黒い鉢巻に着物を着てたすき掛けをし、金槌を持った狐の耳をした少女がこちらに歩いて来る。視線の主は少女の姿を見て悲しみと怒りに打ちひしがれ視線が曇りながら地面へ向いた。


――玉藻、すまない……お前の母を犠牲にしたというのに俺はまだ出来ない……!


――お父様、諦めては駄目だよ!? 全部無駄になってしまう……お殿様に献上する刀を作るのが我が一族の役目なんだから!


 少女の声が終えて少し経つとキーンと金属を叩く音が聞こえてくる。視線は地面から音を探して疎く。左の端の方の釜戸の近くに少女は居て、台の上に乗っている赤い棒を叩いていた。再度視界は曇るが少女へ近付き近くにあった金槌を取ると向かいに座り、同じように叩き出す。


――俺たちの代で終わりにしよう……神刀皇(しんとうすめらぎ)を超える刀を必ず作ろう!


 その言葉の後から昼が夜に、夜が朝になっても叩き続ける。少女に寝るよう告げ自分も後で寝ると言うが一睡もせず、何度目かの夜が訪れた時に屋敷の中に誰かが無言で入ってきた。打つ手を止めず叩く視線の主。

 

――失礼、ヘル・千子宇(せんごう)。あなたを助けに来ましたよ?


 助けに来た? 馬鹿なと思いながらも、ひょっとしたら神刀皇(しんとうすめらぎ)を超える刀を打つ助言をくれる異国人か!? と期待して視線を向ける。視線に映った人物を見てなぜ村正がここにあったのかを理解した。


「ジン!」


 自然と村正から指が離れ、景色が元に戻る。相変わらずこの世ならざる者(アンワールドリィマン)はウィーゼルに襲い掛かっていた。敵はなにもないところからただ沸いたタイプとは違い、何者かの思念怨念を利用して生成されているとみる。


今回の場合は恐らくウィーゼルの父親。あのヤブ医者が村正作成と引き換えにろくでもないことを要求したに違いない。


「ウィーゼル!」


 声を上げてこちらへ来るよう手招きした。敵を払いつつこちらへ彼女は飛んで来てくれたので、一緒に村正の柄を握るよう告げる。目を見開き体を引いて逃げようとしたが腕を掴んで引き止めた。村正に触れた時に見たものを話すと体を震わせ物凄い力で振り払おうとしてくる。


善を滅する者(デストラクション)、とまで呼ばれたウィーゼルが逃げたくなるほどの酷いことがあったのは、今の様子を見ればわかる。だがこの刀が求めているのは俺じゃないんだ」


 恐らくだが村正を献上したところで試し切りした際にでも暴走し、力は認められても封印されたかしたのだろう。過去の映像を見せてくれた点から考えても、村正には彼女の父親の意思が残っている。妻も自分も犠牲にして成し遂げたのにという怨念が宿り、回収に来たヤブ医者がこれを媒介としてこの世ならざる者(アンワールドリィマン)を生成しているに違いない。


「嫌……嫌よ」

「このままだと怨念が怨念を呼び、無関係の者たちの命を喰らい続ける! 父親がそんな化け物になってしまって良いのか!?」


 涙をぽろぽろこぼしながらウィーゼルは首を横に振る。映像を少し見ただけだが、彼女が家族を大切に思わないような人物には見えなかった。それでも体は震え、村正に近付くのを拒否している。どうしたらいいか考えていると敵がこちらに近付いてきた。


飲み込まれる前に切り伏せようと思ったが、ここはひとつ賭けに出てみようと考え手を離し、彼女を突き飛ばして敵に組みつかれる。


「ジン!」

「参ったな……ミスっちまった。ウィーゼル、俺のことは良いから逃げろ。逃げて皆を呼んで来てくれ」


「そんな……!?」

「良いから早く逃げるんだ……!」


 さっきまでウィーゼルに標的を合わせていた敵が、全員こちらに襲い掛かってきた。次々と組みついてきて、あっという間に視界が塞がりそうになる。笑顔で親指を立てながら彼女を見たのを最後に視界が暗闇に覆われた。


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

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