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子供たちを護るおじさん

「得物が無い様だが?」

「親の記憶は無いが体は丈夫に生んで貰えたんで大丈夫だ!」


 大丈夫では無いが強がってみる。と言うのもコウガ首領が普通に構えているつもりだろうがこちらから見るとズレていたので、大分やせ我慢しているんだろうと思ったからだ。一度背中の打撲になった覚えがあるが、立つのもしんどいし寝るのもしんどくて大変だった。ましてや戦うなんて想像しただけでも冷や汗が出そうになる。


「くっ!?」


 案の定動きは鈍いし太刀筋も揺らぎ力も弱くなっている。奥様に頂いた篭手の性能の御蔭もあるのか斬撃を弾けるし腕にダメージも無い。だが他の部分はそうもいかないので慎重に追い詰める。


「不味いな町に近くなってしまった」


 攻撃を弾き動きを読んで道を塞ぎ攻撃する、と言うのを繰り返す。本調子ならこうはならないだろうがコウガ首領は手負い。遂に町の壁が見える位置にまで来た。ここまで来ると見張りの兵士にも見える。


「どうする? サガを見逃してくれるなら俺も見逃すが。去る者を追っても元には戻らない。そんなのは分かってるんじゃないのか?」

「サガの才は見逃すには惜しい。ただの冒険者、一般人に埋もれさせる才ではない」


「盗賊だと追われっぱなしだからそうじゃない職業になれば良いんじゃないか?」

「気軽に言うな。そもそも盗賊以外と言うと密偵にでもなれというのかな?」


「密偵以外にもやりようはあるだろう。身軽で罠も解除出来てってなれば俺は自分のパーティに欲しいけどな」

「盗み癖が付いた人間がそう易々と更生出来るかな?」


「本人次第ではあるが、盗まなくても生活出来るならそっちの方が良いだろう? 冷たい視線にさらされながら妹と暮らすより、皆と関わり合いながら助け合っていく環境があれば大丈夫だと俺は思う。何しろこうして盗賊を抜けたいと言って殺されるのを覚悟で来た訳だし」


 俺の答えに対してコウガ首領は考え込んでいるのか何も言わず止まっている。すると塀の上の方に灯りが見え口笛の音がした。


「行けよ」

「良いのか?」


「サガを見逃してくれるならな。それとアンタも考えてみてくれ。サガを育成したならそれで盗賊以外の稼ぎ方を見出せる筈だし、それが首領……と言うか大人の仕事じゃないか?」


 返答は貰えなかったが刀を収め、大人しくその場を後にした。一安心してサガが居たところを見ると姿が見えない。まさか連れ去られたか!? と思い焦って駆け寄る。するとサガはへたり込んで居ただけのようで、疲れた顔をしながらも笑顔を作り右手を上げ答える。


ずっと張っていた気が安全になったと分かって抜けてしまい立つのがやっとのサガ。俺は盾を拾い背負ってから肩を貸して町へ戻り、門兵の人に事情を説明する。すると町長の指示で警戒態勢を布いてくれたようで直ぐに伝令を出した。出る時に話した門兵の人がしっかり連絡してくれたお陰だろう。今度お礼を言わないとな。


暫く門兵の詰め所で休んでいると、ベアトリスに連れられて妹が来て兄妹は号泣し抱き合う。ひょっとするともう二度と会えないと思っていただろうから無理もない。取り合えずこの子の願いは叶えられて良かった。


これからは盗賊では無く冒険者として生きて行くことになるが、大変でも血の繋がった兄妹が居れば大丈夫だろう俺も協力するし。落ち着いてから二人は冒険者ギルド直営の宿で休み、翌朝町長のところに俺と一緒に訪れた。


町長は二人の親御さんが居ないかどうか聞いただけで、盗賊のアジトの場所や仲間の名前などは一切聞かなかった。聞き取りが終わると、ベアトリスと町長の娘さんのイーシャさんに頼み二人に町を案内するよう頼んだ。残った俺と町長は二人についての話をする。


「私としても盗賊関連の話は聞きたかったが、元とは言え同じ釜の飯を食った仲間。それを子供に更に裏切れというのは気が引けるので止めた。うちにも元盗賊と言う人間はいる。彼らも好き好んで盗賊になった訳では無い。勿論そう言った人間もいるだろうが、そう言う人間は町に来て共に暮らしたいなどと言わんしな」

「そうですね。彼らの教育的なものはどうしましょうか」


「話した限り計算は同年代よりも出来るようだし、本人たちがそれ以上希望するなら学校に通わせるのも検討しよう。働きたいというのであれば町に慣れる為にも町営のところで働いて貰おうと思っている。子供は国の未来の為にも大切な存在だ。本来であれば須らく救いたいのだが、国が乱立し統一されていないこの大陸では濫りに出来ない」


 代々のヨシズミ王の性格からしてやらないっていうのは無いだろうなと思ったが、何代か前のヨシズミ王が他国から逃げて来た子供を大量に受け入れたことがあるようだ。逃げ出さざるを得なかったその国が悪いのだが、越権行為であると言われ戦争寸前まで行ったという。


別の国が仲裁に入り結局帰すと決まり帰したが、その後虐殺が行われその国は弱体化。更に仲介に入った国によって攻め込まれ占領されたらしい。その件以降ヨシズミ王は注意深くなり、国の方針として両親の有無や出身国に関して細心の注意を払うよう御触れが出されたと言う。


「流石に大人に関しては言ってこないですよね」

「言っては来ないが逆に侵略行為か疑うな流石に」


 町長に釣られて俺も笑う。二人の両親に関して多少調べる必要はあるものの、それまでは町に慣れてもらう為に町側がバックアップしてくれると言うので胸を撫で下ろす。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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