怨念の刀
「げんなりしている場合ではないぞ? お前たち。これからお前たちにしか成せぬ仕事をしてもらうのだからな」
「物資も届けたし人も連れて来たんだからそれで終わりでしょ?」
「村正」
疑問を呈したウィーゼルに対してイザナさんが発した言葉を聞き、ウィーゼルだけでなくタクノも目を丸くし体を跳ね上げた。右手で自分の左腕を掴みながら、なぜそんなものがここにあるのか本当に村正なのかとウィーゼルは問いかける。
イザナさんはにやりと笑いながらイサミさんの後ろにあった薄緑の羽織を取って袖を通し、テントを出て行った。話が全く分からないので説明を求めたいところだが、ウィーゼルもタクノも表情が暗くうつむいてしまっている。
余程触れたくない話題なのだろう。話を聞くならイザナさんが早いと思い、後を追うべくテントを出た。のんびり歩いていたのであっという間に追いつき、村正について聞いてみる。出自はシン・ナギナミで、刀工千子宇一族によって打たれた刀だと教えてくれた。
ヤスヒサ王の刀であり、妻のルナ王妃の刀でもある神刀皇を超えることを目標として打ち続け、結果として色々な物が混ざり持ち手が制御不能になったという。シン・ナギナミでは将軍の命により厳重管理されていたそうだが、なぜか下ブリッヂス地方の奥深くに出現しこの世ならざる者がそこから湧いてくるようだ。
話を聞き終えると同時に、頭にヤブ医者が甲高い声で笑い声をあげる姿が浮かんでくる。間違いなくあれの仕業に違いない。村正という言葉を聞いたウィーゼルの反応を見るからに、知らなかったと思う。
イザナさんとしてはイサミさんに解析をさせ、可能なら取り除かせようとしたが叶わなかったらしい。打ち手たちの神刀皇を打っても打っても超えられない、もがき苦しみが怨念となり持ち手を狂わせていたのは伊達ではないと話す。
強烈な怨念を取り払える自信がないんですがと言うも、お前が出来ねば誰も出来まいよと言われた。根拠は何かと問うとイザナさんは三鈷剣の所持者だだからだと答える。
「康久もお前も勇者であるには違いない。異世界の神に助力を得られる人間など他に居らんし、なにもなさぬ者に力を貸すほど神も暇ではなかろう」
「三鈷剣に呪いの除去を頼むということでしょうか」
「俺様の予想ではあるが、あれは使い手を求めている。そこにこの件の解決があるとみているがな」
テオドールがこちらの戦力アップになるような真似をするとは思えないが、難物でこちらが解決不可能という予測を立てて放り込んで来た可能性はあるなと思った。二人で歩いていると駐屯地の入口まで来てしまう。
まさかとは思ったがどうやら二人でその村正のところへ行くらしい。イザナさん曰く、駐屯地にハイ・ブリッヂスの兵たちや兵糧は必要だっただけだそうだ。振り向けばいつも来そうなノーブルが追いかけてこない。
村正の名前を出せばウィーゼルだけでなく、タクノも拒否反応を示すのをわかっていて名前を出したのだろうか。思ったことそのままを問いかけるとニヤリとする。あれとの交流はある程度すんだであろう? と言われお見通しかと考えながらある程度はと答えた。
「若ければ勝手に成長するものだ。あれは土壌も悪くは無いのだから、栄養を変えれば見事な花を咲かすだろう」
「自分は栄養ですか」
「年齢的に言えば当然そうなる。もっと言えばノーブルも後から来るものの栄養になるのだ。先行投資は広く多くやっておくのが良いぞ? 康久もそうしたからこそ、ノガミが事を起こしても平気な顔をしていられるのだ。お前も妻がいるならそういうところも考えた方が良い」
イザナさんの指摘にはっとなり、自分の浅さを思い知り恥ずかしくなる。たしかに元の世界でも後輩は居たし、昇進出来なかったのもそういう思慮が足りなかったせいかなと思った。自分のようなおっさんがなるよりは、と英雄を押し付けようとしていたがそうではなく、渡せるものがあるならしっかり継承させるべきだなと考える。
アリーザさんとのその……なんていうか将来的な話でだいぶ遠い話ではあるが、向こうで叶わなかったことがなれば譲られる可能性もあるわけだし。
「おい、現場に到着したぞ」
「え!? あ、はい!」
気付けばいつの間にか現場に着いたらしく、急いで三鈷剣を呼び出し手に持ち構えた。前を見ると地面に刀が突き刺さっており、それは黒い煙を発生させている。黒い煙は四方八方へ流れ、次々とこの世ならざる者が生まれだした。
先ずは敵を排除してからだと考え剣を構えたが、イザナさんから刀の方を先に処理してくれと頼まれる。処理ってどうすればいいですかと問うも、一か八か掴んで引き抜いてみろと言われた。通常状態のまま掴んだところで飲み込まれるのがオチだなと思い、目を閉じ三鈷剣の剣腹を眉間の前まで上げる。
不動明王様の力を借りたいと念じた結果、了承を得て顕現不動モードになり服装が変わった。三鈷剣を腰に差し早速村正に近付いて行く。
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