道中を行く中で
「いやいや国をどうとかいう考えは自分にはありません。今は先ず国に帰りたいという一心で動いています」
期待を持たせては悪いので、ここははっきりと言っておく。恩もあり顔を出すように言われていたのもあってヤーノに来たのであって、恩返しが終わったら帰る。残っていると事件が後から後から起こる気がしてならない。
国へはどうやって帰るのかと聞かれたので、リベンから船に乗ってシャイネンに入り、そこからヨシズミ国を目指すと説明した。少し前にも同じ説明をした気がしたな、と説明した後で思う。ハユルさんのお付きの蜥蜴族が、我々は海も得意なんですよと言ってくる。
海でも有利なのは頼もしいですなと当たり障りのない返答をしたが、内心シャイネンまで来る気かと思って穏やかではなかった。なにしろ付いて来た前例が前を歩いている。こちらの反応を知ってか知らずか、ハユルさんに対して我々蜥蜴族もそろそろ外へ出て行くべきではないでしょうかと言い始めた。
不味い流れだと思い前に救援を求めようとしたが、目が合ったのはノーブルだったので笑顔で頷くのみに止める。これ以上ややこしい状況になってしまっては取り返しがつかない。現段階ではこちらが蜥蜴族側に対して失礼なことをしっぱなしなので、無下にも出来ないのだ。
気付けば視線がこちらに向いていた。動揺を隠しながら外の景色を見るのは良いものですねと意見を出してみる。この局面をどうやって乗り切ろうか考えているこちらを尻目に、蜥蜴族の兵士たちは答えに頷き盛り上がりだす。
「先生!」
いつの間にか沼地を抜け下ブリッヂス地方へ入っていた。ノーブルに呼ばれて待ってましたと思ったのは初めてだろう。蜥蜴族の皆に失礼しますと告げて前へ出て行く。この世ならざる者が三匹こちらへ向かって歩いて来ているのが見える。
心の中で感謝しながら三鈷剣を呼び出し敵へ向かって飛び込む。今度こそ体を動かしてストレス発散しようと意気込んだが、一匹斬りつけて次をと思って振り返るとすでにノーブルとウィーゼルが倒していた。暴れたり無さを感じながらもまだ敵は居ると切り替え、手を上げて皆の先を歩く。
「先生、やはりお強いですね」
ノーブルが後ろから駆けてきて横に並ぶとそう言ってくる。君も俺も同じ数の敵を倒してるじゃないかと返すとそうですねと言って微笑む。自分と同じくらい強いですねと言いたいのかと思ったが、一呼吸おいて切り替えた。
彼から父親の弟子が追い詰め止めを刺すだけだったと聞いた話をし、今は自分一人で倒せているから成長しているよと言うと微笑みながら頷いた。監視役の目を盗んだりして稽古していたし、サラティ様にも単独で少し稽古を付けてもらったらしい。
血筋も素質も申し分ないんだから、水をきちんと与えればすくすく成長するだろう。案外今回の散歩も、ナビール夫妻の迷いが出たのかもしれないと考える。リベンを救ったサラティ様の弟子だからなんとかしてくれるかも、とこちらに任せている気がしてきた。
「今回の件で僕はやりますよ!」
意気込むノーブルを見て不安が過ぎる。すぐさまあまり気負うことは無い、皆が居るのだからというも自分はノガミなのでと返してきた。最強のノガミ一族か、と思いながらそれこそが周りの反感を買っていると気付かないんだなと思う。
世の中にはノガミよりも強い者がいるのだから気を付けた方が良いというも、お目に掛かりたいものですと力強く言う始末。ノガミこそが最強であり民を導く資格があると思っているのだろう。竜族というこの星のヒエラルキートップの種族との交戦があるのか、と聞いてみたが親族みたいなものですと言い放つ。
ヤスヒサ王は竜族と戦い退けたがと問いかけたところ、勝利し竜族の女を妻にしサラティ様とゲンシ様が生まれました、親族でしょうと答える。引っ掛かるところがあり過ぎて、どこから指摘したら良いのか分からない。
ナビール氏は上司としては良いのかもしれないが、親として見るとなかなかな人なのかもしれないと少し残念な気持ちになった。本人の資質もあるのだろうがと考えつつ、竜族の女性を妻に迎え親族になったのはその女性の家族だけではないかと問う。
そんな細かいことは気にせんでしょうと言い出したので、世界は皆君のような心持の人ばかりでないことはミサキの乱で分かったんじゃないのかいと指摘する。押し黙るノーブルに対してなにか言葉をかけようと思ったが、彼自身で考える時間が必要だろうと黙って駐屯地までの道を歩く。
「そうですね……上には上がいることを想定して稽古しなければ強くなれませんよね! さすが先生!」
答えを見つけ、拳を握りながらこちらを見てそう言った。彼がこれから外の世界を知ることが出来たら、少しは変わっていくのかなと思うと旅は長い方が良いのかもしれないと考える。但しそれは自分とつり合うくらいの敵が出る旅が良いだろう。
これからシャイネンに戻れば、彼が誇りに思うノガミではない最凶のノガミに遭わなければならない。ショックも受けるだろうが生きて帰れる保証はどこにもないのだから、避けるべきだ。
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