交差する中で
アルブラムの剣の話も聞いており、いつ会えるかと楽しみにしていてくれたと言われほっとした。険悪なムードになったらどうしようかとハラハラしていたが、これなら駐屯地の兵救出作戦はスムーズにいくだろう。
「ノガミで無い者が成し遂げた。我々からすれば希望の光です。中にはあなたをヤスヒサ王の再来と呼ぶものまでおります」
目を輝かせて言うハユルさんと同じような表情の後ろの兵士たち。ほっとしたのは数秒で、あっという間に胃痛が戻ってくる。ヤスヒサ王が成し遂げたことはふんわりとしか知らないが、統一を成し遂げたわけでもないし同一視されるほとではないはずだ。
先に上げたようなノガミの中での対立や、ハイ・ブリッヂスのくずぶりからくる閉塞感を打ち破るための道具にされてはかなわない。早いところ駐屯地の人たちを救ってヨシズミ国へ帰ろう。
「ふむ。そうなるとやはり新たな土地を開拓するのが一番手っ取り早いのではないか? 多くの支持者を養うにも他人の土地で間借りするには辛かろう」
自分にとっては師匠の一人であるイザナさんの不意打ちに驚く。言葉を聞いてハユルさんたちも感嘆の声を上げた。慌てて自分はヨシズミ国に妻を残してきているのでと断りを入れる。なら妻を連れてまた来るがいいとイザナさんは追い打ちをかけてきた。
事情を知っているはずなのに今回は随分と執拗に押してくるなと考えながら、話を駐屯地の件に戻す。まだ話したそうだったハユルさんから、兵の数は五十人で物資も全員で二週間は過ごせる程度積んできたと報告を受ける。
兵士は屈強な者を連れてはきたが、この世ならざる者の討伐は出来ないのであくまで警護役だとも言われた。相変わらずこの世ならざる者を討伐できるのは限られた者たちのみらしい。
人間族やエルフに蜥蜴族、昆虫族に獣族以外の種族は困っていないのか気になってイザナさんにたずねる。他の種族はあまり交流を持たないので不明であり、ひょっとすると絶滅している可能性もあると言われた。
以前は吸血族も居たそうだが、馴れ合いを嫌ってヤスヒサ王時代に遠方へ旅立ったという。シン・ナギナミの妖怪族は独自の技を駆使してこの世ならざる者を退けていおり、ノガミの血筋もいるので問題ないようだ。
竜族や竜人族は自力で討伐しているようで、リベンとは連絡を取り合っているらしい。サラティ様の退陣から次の政権が発足するスピードが速いのも、竜族との連絡が取れなくなる危険を回避したいからという理由からだとイザナさんは話す。
竜族との関係は複雑で、今のところ連絡を取り合っているがそれも互いをけん制するためらしい。ヒエラルキーの頂点に立つ竜族とその下の竜人族。ノガミにそれらの血を引く者たちがいるから現在の関係を維持しているが、弱ればどうなるかはわからないという。
「乱は納まったが、広くものを見れば平和には程遠いと分かるだろう?」
そうイザナさんに問われ頷く。人間族同士が争っている場合ではないのになと呆れざるを得ない。互いに互いを思いやれるかどうかが大事ですねとハユルさんに言われ、改めて生徒が申し訳ないことをしたと謝罪する。
事情を話して理解を求めたいところだが、ノーブルの精神的な部分も含んでいるので頭を下げることしか出来ない。後ろから先生と呼ぶ大きな声が聞こえた。振り返るとノーブルがエレミアたちを連れてこちらに向かって歩いてくる。
ハユルさんにノーブル以外は初めましてなので一人一人紹介した。エレミアとウィーゼルにもお世話になった経緯を話し、ハユルさんを紹介する。一通り終わるとハユルさんからエレミアたちは妻なのか、と聞かれ一瞬考えた。話の流れからして妻がいないならとかいう方向に行く可能性が無くはない。
イザナさんも後押ししたりとかしそうな気がしたので、エレミアのみ妻ですと答えた。当のエレミアが驚いた声を上げたので、見えないように手を合わせて話を合わせてとお願いする。納得いかない表情をしていたが、頷き妻ですと言ってくれた。
なぜかウィーゼルが妻予定とか言い出したのでそんな予定は今のところ無いと素早く否定する。ジン殿は一夫多妻制でも構わないのですか、と真面目な顔でハユルさんに問われた。一夫多妻制どころか家庭というもののイメージがなく、やっとつい最近にこんな感じかなと思ったくらいある。
真面目に聞かれたことがこれまでなかったが、そろそろ何か適当な話を考えておいた方が良いかもしれない。孤児で、とか始まると重いし長いしで大変だ。ぱっと思いつかなかったのでその場しのぎで事情が色々ありましてと答えた。多妻っていってもアリーザさんとは夫婦ではあるが、エレミアはこちらの事情で妻としてもらっている。
「ハユルは知らんだろうが、コイツはヨシズミ国というところでは侯爵であり、シャイネンを治めるゲンシの直弟子だ。国が総力を挙げて確保したい人材なので多妻になるのも無理は無かろう」
イザナさんの腹の内がさっぱりわからないが、ここはこれ以上ややこしいことになる前に出立したほうが身のためだ。
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