過保護の先の暗雲
二人でしばらく笑いあっているとイザナさんがこちらに歩いて来る。地面から立ち上がり土を払いながら考えた。ハイ・ブリッヂスへの伝令が思いの他上手くいったのも、ひょっとすると監視役から事前に報告がいっていた可能性がある。
以前ヤーノ周辺の事件を解決した際に、断絶していた双方の交流が再開する切っ掛けを作ったのは間違いないと思う。冒険者として評価されていたとしても、ジン・サガラが率いるというだけでそんなに都合よくしかも早急に準備するだろうか。
次代のノガミ当主から要請があったと考える方がしっくりきた。目の前まで来たイザナさんにハイ・ブリッヂスの兵が来たと言われ、座っていたノーブルに手を貸し起こしてから共に付いて行く。途中で思いついたように、イザナさんはノーブルにエレミアたちを呼んで来いと指示を出す。
ノガミの重鎮であるイザナさんにはさすがのノーブルも反抗的にはならない。素直に返事をして宿へ向かう。不自然なタイミングで指示を出したので、なにか話しがあるのではないかと考え問いかけてみる。
どんな話をしていたのかと問いに問いを返されたが、関係しているのだろうと思い話していた内容を簡単に、そして自分の考えも伝える。聞き終えるとまさにその話でアイツを離したと言われた。ハイ・ブリッヂスからの軍は少し前に到着していたが、兵士たちは怒っているという。
ハイ・ブリッヂス側としてはノガミの代替わりも知らなかったし、その代替わりから突然命令をされる。その上伝令に来た者に対して良いように答えるよう強要された。ヤスヒサ王の好意で独立したままとされ、同盟という形になっていたがこちらを併呑しようとしているのか、と言われたようだ。
ジン・サガラには恩があるしイザナ殿にも同様だが、今後も同じような態度を取ってくるなら考えがあるとも話しているらしい。思わず手で顔を覆う。まさかこんなところで乱の続きがくすぶるとは思ってもみなかった。
ナビール氏はノガミの古株で代行を務められる力量がある人だ。色々なノガミともつながりがあり、混乱を収めたのを見ている。当主としてあの人ほど相応しい人もいないだろうと思ったが、実際になるのでは話が違うのだろうか。
イザナさんにそこのところを聞いてみたが、母親が心配性という話をしていただろうが父親も似たものだ、と言われ納得してしまう。小さい頃から見ていたイザナさんからしても、サラティ様の代わりを務めるならナビール氏しかいないという。
こと息子であるノーブルに関しては冷静さを保てないらしい。どうも彼が生まれる前日に夫婦揃って見た夢がそうさせるようだ。
「夢で見たそうだ。ヤスヒサ王の剣を手に強大な敵と戦い勝利し民衆に称えられる男の姿を」
二人が見た夢を検証する手段は無いが、当人たち曰く成長するにつれ夢で見た男の容姿そのままだと言い続け、正夢になるよう育てると言っていたとイザナさんは話す。魔法でその正確性を確かめれば良いのでは? と問うも、正確性など親からすればどうでも良く、息子が夢で見たような人物に成長しているそれだけが真実だと言われた。
親代わりはいても親がいない自分には理解不能だ。イザナさんに正直な感想を伝えるとお前と同じ感想だよ、と半笑いしながら言われる。つい最近あったミサキの乱がスムーズにいったのは、一族が一枚岩ではないことを自供していた。
ハイ・ブリッヂスが不満をくすぶらせ始めたと知れば、それを利用して乱の続きを画策する者が現れる可能性があるのではないかと思う。ふと思い出したが、ミサキさんの親がネオ・カイテンを治めている気がする。反乱分子を一掃した次代当主と反乱を主導した男の親兄弟。
くすぶっていないよう祈るしかないが、事件が追いかけてきているようでため息が出た。神を退けこの星の未来を勝ち取ったが、愛する妻の元へ帰るという願いはまだ叶わないでいる。ミシュッドガルドさんは約束を守ってくれただろうから、早くこっちでの用を済ませて帰りたい。
また二人で紅茶をのんびり楽しむ朝を過ごしたいな、と思いながら木漏れ日の先にある陽を見つめた。
「まぁそう腐るな。悪いことのあとには良いことがあるものだ」
気付かぬうちに嫌そうな顔をしていたようで、慌てて両手を自分の頬に当てると上下に動かし普通の表情に戻す。良いことがあるよう祈り倒しますと答えるとその意気だと言われる。集会所に到着するとそこには見知った人が兵たちの前に立っていた。
一瞬喜んだが話を思い出し上げた手を直ぐに引っ込めながら、神妙な面持ちで近付く。
「お、御久し振りですハユルさん」
「本当に御久し振りですジン殿! あなたの活躍は別の者から聞き及んでおります!」
取引先に謝罪する感じで背を伸ばし頭を下げる。ハユルさんの言葉を聞き、別の者が尊大に説明したのかと思うと胃が冷たくなった。先生になったのなら生徒の失態は先生の責任だ。ノーブルが申し訳ないことをしたと謝罪するも、それではありませんと言われる。
ハイ・ブリッヂスでも密偵を出しリベンの様子を窺っていたらしい。報告を聞く度にハイ・ブリッヂスの人たちにも報告し、盛り上がってくれていたそうだ。
読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、
悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。
また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。




