抜ける者と抜けさせぬ者
俺は町に近い森の方へと戻り、盗賊っぽいのを探す。慌てて出て来たので名前も顔も分からないが、どうせ皆倒さないといけないので倒しながら確認していく。
「し、知らねぇよ! 俺じゃねぇ!」
「俺じゃねぇのは知ってるよ。だが探してる奴は知ってるだろ? 名前は?」
「サ、サガだ。サガ・ハンゾってガキだよ! 首領があの兄妹を小さい頃から手塩にかけて育てたのに、こないだ会ったおっさんの話を聞いて考え直したとか言い出してよ! 俺たちゃ盗賊だぜ? 今更改心したところで遅いっての!」
「いや別に遅くないだろ……お前無実の人を殺したことがあるのか?」
森を暫く進むと、おーいと声を出しながら草むらを棒で払いつつ探している人相が悪い奴が居た。ゆっくり背後に回り蹴り倒し縛り上げ話を聞くと、あっさり喋ってくれた俺の最後の問い以外は。
元の世界と違い、法の整備も行き届かず捕まえる側の環境も悪い上に戦争もあり、更にモンスターなどもわんさか居る。一般人にとって脅威が多い世界だ。身を護る為に自然と皆逞しくなるのだろう。盗賊と言えど人を殺したらもう普通の生活には戻れないし、俺も流石に助けられない。
「教えてくれた礼に見逃すよ。気を付けて帰れ? 次会ったら戦う意思ありってことで容赦しないから」
「ひ、ひぃ!」
首から腕を話すと盗賊は一目散に逃げ出した。取り合えず名前はゲット出来たので俺は盗賊を探しながら辺りを動いて回る。手塩にかけたとなると後を継がせようとでもしたのだろうか。そうなると人数を掛けて探すのも分かる。教えて来たのが無駄になるんだから。
俺も優しく話を聞き励ましフォローしてと一生懸命育てた新卒の子が、理由も言わずに翌日から来なくなったなんて何回もあった。その度に自分に悪いところは無かったか、あったら謝りたいと思ったが一度も退社後に会えていないので分からず仕舞い。
会社は手間が掛かるがどうでも良いという感じでさっさと処理していたのが気になったが、この状況を見ると追っても戻るという選択肢は無いんだなと分かる。
「こんにちは!」
「どわぁ!?」
次々盗賊を捕獲し情報を聞き出していく。どうやらそのザガ・ハンゾという子はやはりこの間馬車を襲撃して来た子たちの一人で、最後に居た子のようだ。とても見た目が普通の子だったがまさか盗賊団の首領が目を掛けていた子だったとは。
「やぁ、また会ったな」
「ども……」
何人目かの盗賊を倒してから森を歩いていると木の陰から人が出て来た。鍛えられているだけあって森の中の異変に気付いたのだろう。俺としても話が早くて助かる。
「妹さんが俺に助けを求めて来た。前にデザートを一緒に食べた仲でね」
「え!? 妹が!?」
俺の言葉に心底驚いた様子で目を丸くして口を半開きにしたが、少しすると自嘲気味に笑った。
「兄妹揃って俺と縁があるようだ」
「そうみたいですね」
「なら助けさせてもらえるかな」
サガは視線を逸らし顔を曇らせた。だがそれくらいで俺は慌てて説得しない。彼なら俺が盗賊を倒して近付いて来たのは承知している筈。ならもう無かったとはならない。盗賊と事を構える覚悟があると分からない子では無いだろう。
「お願いします」
悩んだが悩んでももう始まっていると理解し覚悟を決めたサガ。俺は頷き二人で町の入口まで移動する。中に入ってしまえば盗賊はおいそれと手出しは出来ない。だがその前に首領は当然出てくるだろう。不意打ちを喰らわないように警戒しながら進む。
「遅かったじゃないかサガ、それにジン・サガラだったか?」
あともう少しと言う所で黒の軽鎧に黒の頭巾と口元を隠した人物が、俺たちの行く手を阻むように腕を組んで立っていた。
「コウガ首領……!」
サガは剣を構えたが震えていた。親代わりの人と言うのもあるだろうが、俺と最初に相対した時もこんな感じだったし人を斬ったことはないのだろう。コウガ首領と呼ばれた目の前の黒尽くめは、右手で剣を抜くと左の篭手に剣腹を乗せた。独特の構えだなぁと思いながらも、何かの時代劇で見たなと急にテレビ番組を思い出してしまう。
「まぁ待てよ。この子は俺が唆したし妹もこっちに居る。大人同士で話を付けようじゃないか」
「ジン・サガラ、サガを甘く見るな。お前の諫言だけで裏切る様な子ではない。だが妹を思ってと言うのは間違いでは無いだろう」
「その口振りからしてお前も妹がいるのか?」
「何故そう思う?」
「勘だが何か妹のところだけ素直に認めたし、分かるのかなと思ってさ。俺の周りには兄妹が多くてね」
「奇遇だな」
それだけ言ってコウガ首領はこちらに切っ先を向け、最早語り合う必要は無いと態度でして見せた。俺もそう言われては戦う他無いと覚悟を決め盾を背中から降ろし構える。互いに円を描くように間合いを保ちながら回りながら歩き、隙を窺う。
俺程度ですらこうして向き合っているだけでもこの男が強いのが分かる。だがサガの為にも引く訳にはいかない。
「シッ!」
「ツアッ!」
コウガ首領の剣を盾で受けた瞬間斜めにし滑らせる。相手は切り返そうとしたが体勢が泳ぎ、更に俺の位置が丁度彼の背後になった。それを見逃さず攻撃したいが距離的に拳では遠い。俺は手に持っていた盾を咄嗟に投げつけた。
「な、何と出鱈目な!」
俺の動きにコウガ首領は意外だったのか完全には避けきれず、背中にダメージを受けよろけながら距離を取る。投げた盾は宙に浮き俺のところに落ちて来た。コウガ首領くらいの強さなら色んな相手と対戦して来ただろうが、流石に盾で殴られることはあったとしても投げつけられたのは初めてだったから避けられなかったのではないか。
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。




