勇者は難しい
宴で色々口に運んでみたところ、野菜はトマトが嫌いだったり肉も脂身が好きじゃなかったりと好みがいくつか判明する。宝石も食べれないということはないようで、挨拶に訪れたデラウンの市議が落とした宝石の指輪を舌を伸ばして飲み込んだ。
返すよう頼んだら咳と一緒に吐き出し、出たのを見ると宝石部分が少し溶けていた。御厚意で頂けることになると喜び、再度飲み込み消化出来ないのか嫌なのか宝石以外の金属部分を吐き出している。まだまだ未知な部分が多い生き物だが、今のところ問題無いようなので好きにさせていた。
「お待ちくださいませー!」
ウィーゼルの苦情を聞きながら荒地へ差し掛かろうとしていた時、後ろから大きな声がする。声に反応したのか体を飛び跳ね、こちらの手を引いて速度を上げた。エレミアたちが待ってよと言うのに耳を貸さず、逃げるようにウィーゼルは先を急ぐ。
「いまさら逃げなくてもいいじゃありませんか、お姫様ぁ」
ぬぅっと陰から顔を出したタクノに対し、足を止め思い切り踏みつけようとしたが空振りし地面を踏みつける。やっと元のなにか企んでる系女子に戻りかけたのに、天敵が追いかけてきた。そう言いたげなウィーゼルを尻目に、その天敵は後方でウルを撫でまわしている。
「先生!」
お付きがいるということは主人もいるということで、ノーブル君が後ろから走って追いついた。流れるように膝を付き手を付きウィーゼルは項垂れる。どうも彼女は昔を知っているタクノのみならずノーブル君にとことん弱いようだ。
異性としてタイプとかそういうことなのだろうかと疑うくらい弱い。これまで剣を交えて来た者としては違和感しかなかった。デリケートな問題なのでツッコむわけにもいかず、ノーブル君に追いかけてきた理由を聞こうと声を掛ける。
急いで追いかけて来たようで膝に手を付き肩で息をしていた。息が整うのを待ってから話を聞いてみたところ、鉱山で上手く立ち回れず迷惑をかけたことを気にしていたようだ。解決したから問題ないよというも、自分は勇者の子孫だからではなく自らの意思で勇者になりたい、経験を積んで先生のような勇者になりたいという。
勇者というほど清く正しく生きてきた覚えはないので、そういうのはゲンシ様に付いて学んだ方が良いと勧める。世界を駆け回りノガミのために身を粉にしているあの人こそ、勇者の称号を得るに相応しい。
ちょっと凄いことを一回やった程度では勇者には程遠い存在なので、言うなれば自分も勇者修行中みたいなものだと告げ説得を試みた。少し考えた後で彼はならば共に修行しましょう、と言い出す始末。ちょいちょい慇懃無礼なのが玉に瑕だなと思いながら苦笑いしつつ、ネオ・カイビャクを離れるのでと丁重にお断りする。
さすがに生まれ故郷を離れたりはしないだろうと考えそう言ったのだが、自分はシャイネン方面は生まれて初めてなので楽しみです、と言い出す。観光旅行に行くんじゃないんだからと突っ込んだが勿論ですと即答した。
自分に害が無い時は笑ってみていられたが、直撃を喰らうとまぁまぁ精神にくるものがある。こっちと比べて向こうは未開の大地というか開拓地だからと忠告するも、それを乗り越えてこそ勇者ですと言い放った。
いやもう何がなんだか分らんくなってきて、自分の信じる勇者道を邁進して欲しいと笑顔で言ってみる。どうやらそれを同意と捉えたらしく、お任せくださいと言って胸を叩きヤーノまで先導させて頂きますと前へ出た。
勇者というのは実に厄介な生き物である。世間的に同じカテゴリーに入れられるのは耐えがたいんだけど誰に抗議したらいいのだろうか。ひょっとして気付いてないだけで、同じような感じになっている気がしてきた。
絶望しかけたところで誰かが肩に手を置く。見るとウィーゼルがサムズアップしながら微笑んでいる。同情されて腹が立つがあれを止める術はないので今は受け入れる他無い。こちらの酷い状況とは裏腹に、後ろは相変わらずウルを可愛がって盛り上がっていた。
荒みかける自分を抑えながら、なんとか適当なところで置いていけないかと考えつつ重い足取りで荒地を進む。途中で狼のモンスターがこちらを襲撃してくる。ここは戦いに集中し頭を切り替えようとするも、勇者様の活躍により何事もなくヤーノに到着した。
「おお! 久し振りだな勇者! ……なんて顔をしてるんだ」
村の集会所を訪れるとイザナさんがおり入ると声を上げて喜んでくれる。あまりにタイムリーな称号で呼ばれたので、怪訝な顔をしまった。気付いてすぐに笑って誤魔化したものの、苦笑いしたイザナさんに少し二人で話をしようと誘われ外へ移動する。
集会所から少し離れたところで足を止めたので、話が始まる前に謝罪をしたものの謝るようなことではないと笑われてしまった。短い間だが家族同然で面倒を見たのだ、水臭いなと言われ気恥ずかしくなる。恥の上塗りではあるが家族同然と言ってもらえたので、先ほどまでの話をしたところ目を丸くしてから声を上げて笑われてしまった。
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