対巨大ウーパールーパー戦
盗賊たちを押し退けつつ覆気をし、巨大ウーパールーパーの前に躍り出た。こちらを見て咆哮を上げ、腕を大きく広げて威嚇してくる。話を聞いた限りでは、今は宝石狙いの盗賊たちに対して怒っているだけで、いつも暴れているわけではないと思う。
アリーザさんの姿が頭を過ぎり、もし仮にクロウの仕込みで宝石を食べるしかなかったとしたら、出来れば生きる道を見つけてあげたいと考え始めていた。先ずは考えを実行するためにも怒りを鎮めさせ、その後なんとかしてここから外へ出そう。問題はこの巨体をどうやって外へ出すか、その方法が思いつかなかない。
「先生! お供します!」
「アンタたちも外へ出なさいよ! 邪魔なのよ!」
魔法的なものでそういうものがないか考えていると、ノーブル君も並んで得物を構える。先生って誰なんだと聞こうとしたが、キレたウィーゼルがノーブル君を押し始めそれを見たタクノが参戦しその仲裁で聞けなかった。
こちらの揉め事を呑気に見守ってくれるはずもなく、相手は攻撃を仕掛けてくる。宝石を土の中から掘って出すためか、前足の四本の指の爪は長く先はスコップのようになっていた。攻撃を避け空振りになった手が地面に刺さり、岩が砕けて飛び散る。
前足後ろ脚には巨大な体を支えるだけのパワーがあり、直撃を受ければ軽装備では致命傷は避けられない。皆に注意するようにというのとなるべく傷つけないようにと告げ、相手を引き付けるべく間合いを詰めた。
「先生! 傷つけないように倒すとはどうやってするのですか!?」
「倒すつもりはない。先ずはここから出すことが最優先だ。相手は盗賊の嫌がらせに怒っているだけだから、怒りを鎮めるために体力を尽きさせその後出す方法を考える」
「具体的にはどう怒りを鎮めますか?」
「ボディに軽くダメージを与えて激昂させ、体力の消耗を加速させる」
エレミアたちに階段近くに移動しいつでも退避出来るようにと指示を出し、ノーブル君に答えた案を実行に移す。白いボディは弾力があり普通に殴っただけでは駄目で、気を宿した拳を直撃させてやっと微妙にダメージが通っている感じだ。
宝石を食べても吐き出してるし、鉱夫たちを殺した訳でもない上に依頼も問題の解消なので、命を奪う必要は無い。大人しくなってくれれば、外へ出す方法を考える時間も稼げる。鉱山が崩落しては元も子もないので、一刻も早く大人しくさせるべく、攻撃を避けてはボディにダメージを蓄積させるを繰り返す。
狙い通り怒りのボルテージが少しずつ溜まりだし、動きが激しく粗くなっていく。一撃当たれば即死級の攻撃にさらされるのは久し振りだ。実戦の勘を取り戻すには丁度良い。相手の動きも読めてきて速度を上げて攻撃を加え続けた。
やがて堪らず再度咆哮を上げる。音によって周囲が震え崩落しないか気になりみていたが、咆哮が止んでも止まらない。いったい何が起こっているのかと思い相手に視線を戻したところ、赤い気をまとい始めていた。さらに皮膚に赤茶色の鱗が現れ増殖していく。
「外殻装着か……? うわっ!?」
増殖した鱗は体を覆い尽くすと鎧のようになる。これは外殻装着なんじゃないかと思った時、前の空間が歪みガラスのように割れると三鈷剣が現れ、顕現不動モードが発動し着る物が変化した。どうやらクロウの残したものに違いないらしい。剣を手に取り巨大ウーパールーパーへ斬り掛かって行く。
「ノーブル、皆、逃げろ!」
襲い掛かってくるかと思って構えていたが、突然体を丸めると球体へと姿を変える。空間にギリギリ隙間があるくらいの大きさで、このまま転がって来こられたら潰されてしまう。エレミアたちが急いで階段を駆け上がるもノーブル君がまだ残っているうちに、巨大ウーパールーパーが転がり始めた。
「偽・火焔光背!」
少しでもパワーを増すべく背後に火焔を背負い、ノーブル君が逃げるまで受け止めるべく転がってくる巨大ウーパールーパーに対して手を広げ構える。あっという間に目の前まで迫ってきた相手に対し、気を全力で手に集中させ覆い受け止めた。
踏ん張ったが勢いが凄く体ごと後ろへ押されてしまう。手に送る気を増し腰を落として足を踏ん張り勢いを少し弱めることに成功する。あとどれくらいで逃げられるかと思いながら振り返るも、ノーブル君は足を止め剣を引き抜き構えだす。
早くと叫ぶも、逃げられないのでその化け物を殺しましょうと言い出した。倒すなら最初から倒すように動いていたし楽だろう。個人的にアリーザさんのこともあり、クロウに弄られ苦しんでいるなら誰だろうと出来る限りのことがしたい、と考えて始めたからこそこの行動をとったのだ。
叫びながら押し留めるべく全力を出して踏ん張っていると、左手首に羂索が現れ後ろへ向かう。戸惑うノーブル君の声が聞こえ、そのまま遠ざかっていく。気持ちに反応して不動明王様が手助けしてくれたのかもしれないなと考えつつ、回転を止めるために相手を押す手に気を送り続ける。
「どりゃあああああ!」
回転が弱まった瞬間、相撲のがっぷり四つ状態のように両手を少し下げ胸を当て、完全に止まるとそのまま引き倒すように投げた。空間に叩きつけられた巨大ウーパールーパーは球体から元の状態に戻りかける。次の行動に素早く対処できるよう少しだけ距離をとったが、金色の縄が戻って来たようでがんじがらめにし動きを封じた。
怒りを鎮めてくれると良いがと考えていると、腰に差した三鈷剣が抜け目の前に来る。この剣が斬れる条件に該当しているんだなと考え、手に取り近付き体に突き刺した。
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