ウィーゼルの過去
「アンタこそやる気になったのね」
「いいえ違います。お姉さんを怒らせるような真似をしたことは謝ります。ですが家族に黙って出て来たからと言って妹を妹と呼べないなどあまりにも悲しい……ッ!」
最近よく泣いてるなぁと思ったが、妹!? と思いその姉を見ると目を見開いて口を開いていた。あれ違うのかと思い、妹の方を見るとノーブル君の後ろに隠れ後頭部で手を組み舌を出している。ウィーゼルもそれを見て指をさしたが、ノーブル君が視線を向けると着物の袖で顔を隠しすすり泣いた。
赤の他人であることを説明するウィーゼルに対し、相槌を打つも明らかに聞いておらず家族のなんたるかや大切さを説くノーブル君。キャッチボールにならない会話が続き、周囲の人たちも迷惑してるんじゃないかと思って見る。
いつのまにか中高年の男女が多く足を止めノーブル君の熱弁に涙ぐみながら頷いていた。思えばここは彼の生まれ育った土地であり、ヤスヒサ王の剣を若くして受け継いだ一族と地元の星である。言い方は悪いが、この土地の危機だと思っていますだからこそ平和にしなければいけません、と言っても盛り上がる場なのは間違いない。
圧倒的不利な状況であるにも関わらず、朝激弱という弱点を徹底的に突かれ普段の冷静さも吹き飛んだウィーゼルは説得を試みていた。まぁ彼女が正しいのだが、この場合正しいとか正しくないではないと思う。
スイッチ入っちゃってる相手に対しては、一旦話を聞いて落ち着かせ仕切り直しを目指すのが一番だ。冷静だったら歯牙にもかけないだろうに、メンタルってやっぱ大事だなという結論に至り皆とその場を離れる。
タクノもこちらに付いて来たのでご主人様を見捨てて良いのか? とたずねたが、彼の人気を不動のものにするためにもああいう街頭演説は定期的に必要だという。お付きの者が傍にいて視界に入ると聴衆が彼の話から気が逸れるとも言った。
策士だなぁと思った時、ウィーゼルを姉と彼に言ってけしかけたことについてたずねてみる。こちらに視線を送っていたのでなにか意味があるのではないかと思っていた。笑顔でこちらを見ながら、あの人が嘘つきだからですよと言う。
いまいち要領を得ないでいるこちらを見て、移動しながらその真意を教えてくれる。シン・ナギナミ出身で妖怪族でも高位の存在の彼女は、本気を出せば強大な妖気を用いてノーブル君を圧倒するほど強いらしい。
昨日見た時なぜか妖気を隠している彼女を見て不審に思い、つついてみたようだ。なにか理由があって隠していたのではと言うも、妖怪族なら顔を見ればわかるほどの有名人だという。タクノとしてもその辺りを考え、こっそり昨夜宿をたずねてみたが知らないとすっとぼけられた。
「なにかあるのは間違いないですが、こちらとしましてはご主人様が尊敬する方に危害が及んでは不味いと思い、せめてその力の一端だけでもお見せしたいなと思った次第」
ウィーゼルは以前は闇ギルドに所属し、善を滅する者という称号を得ていた話をすると、目を丸くして驚いたあとで首を傾げる。タクノの知る限りではウィーゼルはシン・ナギナミにいる頃は真反対な人物で、医術の勉強のためにネオ・カイテンへ向かったあと行方が分からなくなったらしい。
医術とネオ・カイテンというワードから、イリョウを思い出した。つい最近暗闇の夜明けに所属する胡散臭い医者のテオドールと交戦したばかりでもある。あからさまにうさんくさくなって来たな。視線をエレミアとシシリーに向けると二人も怪訝な顔をしていた。
元々からして怪しいので、今直ぐ締め上げてもいいが粘って何が狙いか探ってみるのもいいかも、とタクノは言う。こうなってくると素直に組織を抜けたというのは鵜呑みに出来ない。締め上げたところで正直なところは聞けないだろう。
向こうに仲間を残している以上、最悪の展開を考えて強引に出るのはなるべく避けたいところだ。まだ即断せず様子を見るとしてタクノにお礼を述べる。屋敷に到着すると門の前にナビール氏がおり、丁度出掛けるところだったようだ。
移動しながら今朝エレミアたちと話した内容を伝えたところ、市役所にすべてあると言われ同行した。市役所の建物に入ると部下に注文のものを揃えるよう指示を出してくれて、近くの控室で待たせてもらうことにする。
ナビール氏は仕事があるのでとそこで別れ、しばらく出されたお茶を頂いて待つ。一人また一人と職員が出入りし、地図だけでなく備品も揃えてくれた。最後に元鉱夫の方から鉱山での注意事項を聞く。
採掘しながらチェックはしているものの、落盤事故やガスが出てきてランタンに引火しての爆発事故、粉塵爆発などがあるという。鉱山の近くには詰め所があり、そこに魔法使いも常駐しているがそれらの事故に遭ったら、窪みがあればそこに隠れるようにと言われた。
強引に魔法で吹き飛ばしたりすると更なる事故を誘発しかねないが、酸素が減っていくので生命の危険があり、状況によっては一か八かにかけても良いという。
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