久し振りに平和な朝
クロウが去った直後の怪奇現象だけに、注意してかからないといけない。考えてみれば風来石はクロウが作った物だ。本当に吐き出せるのだとしたら、クロウ作の可能性がある気がし始める。まだ確実ではないが、可能性のあるものを調査せずに帰らなくて良かったとほっとした。
運が良かったと思いながら部屋のランタンの火を消し、ベッドに入りシシリーにおやすみと告げて就寝する。夢も見ずあっという間に朝を迎えた。自然に目が覚めたわけではなく、先に起きたシシリーが心配で声を掛けて来たので目が覚めたのだ。
どうやらまだ安心できない様で、しばらくこの感じは続きそうな気がする。誰かに起こされるのも悪くは無いし、いつも心配かけているのは間違いないので咎めなかった。起こしてくれたことを感謝し、ベッドを出て着替えてから二人で準備運動をしてから外に出る。
シシリーはこちらが寝ている間も宿の中を散策していて、食堂まで案内してくれた。すでにサラティ様とエレミア、それにリベリ兄弟も来て席に付いている。サラティ様たちはまだゆっくりしていていいのにと言ってくれたが、リオウが気が抜けてると突っかかってきた。
昨日の今日なので不機嫌になるのはわかるが、隣にいる弟さんをとんでもなく刺激し賑やかになるので止めて欲しいな、と思いながら苦笑いする。案の定クルツさんはじわじわと怒りのボルテージを上げていった。
最初は鼻で笑っていたリオウも、やがてイライラしていき最終的には兄弟で外へ出て行く。サラティ様は止めなかったものの、少ししてから二人の後を追って外へ出る。大変だなぁと思ったが身内のことなので彼らに任せ、こちらはこちらで依頼を受けた件について話す。
鉱山の位置や内部の様子などは、あとでナビール氏のところへ出向くので説明があるだろう。備品などを提供してもらえるかも確認し、あとで経費として精算する場合は灯りだけでなくつるはしに水と食糧を万が一に備えて持って行こう、となった。
宿にあったパンフレットを一部頂き、念の為雑貨屋さんを見つけて印をつけておく。あいにくこちらは鉱山へ入ったことがあるのが自分一人だけで、それもほとんど初心者と変わらない。どういう事態が考えられるのかもわからないので、専門家に話を聞きたいというのも伝えようとなる。
話している間に朝食が運ばれて来たので三人で先に頂くことにした。半分終わる頃になってようやくウィーゼルが食堂に現れる。顔を手で抑えながら壁に手を添えつつこちらに向かってきて、テーブルの横で止まると蚊の鳴くような声でおはようとあいさつした。
昨日とまるで違う様子に驚き体調が悪いのかとたずねたところ、朝が死ぬほど嫌いだとはっきりと強い口調で吐き捨てる。朝が弱い人を見たことがあるが、ここまでの人は初めてだ。壁から手を離しよろよろとテーブルの空いている席に着こうとするが危なっかしい。
慌てて席を立って近付き支えながら座らせたが、背もたれに体を預け目を見開き口を開きながら天井を仰ぎ見て止まってしまった。食堂の人のところへ赴き朝に弱い人に効くものがあればお願いしますと頼んでみる。
ウィーゼルを見守りつつ食事をしていると、食堂の人がトレイに食事を乗せて運んで来た。相変わらず天井を見ていた彼女は錆びた機械のようにゆっくりこちらを見る。早朝からホラーが始まるとは思ってもみなかった。
引いてしまっている間にシシリーがウィーゼルに近付き肩に乗ると、小さな声で呟く。言葉を聞いてから戻ってきたシシリーから、ご飯を食べさせてという注文を聞いてズッコケそうになる。凄まじく朝が弱いんだなと思いながら席を立ち彼女の横に行き座り、トレイの食事を見る。
メニューは野菜サラダに橙色の飲み物とオムレツ、そしてバターが塗られたトーストだった。どれが食べたいかと聞くと視線をトレイに向ける。ひとつずつ指さしていき、飲み物で頷いたのでゆっくりグラスを口に運ぶ。
一口入れてごくりと音を鳴らして飲むと視線をこちらに向けた。もう一杯かと思い近付けると正解らしくグラスに口を付けて飲みながら視線を向ける。恐らくこのままにしておけということなのだろう。
気の済むまでと思っていたらすべて飲み切ってしまった。彼女は大きく息をついて目を瞑る。介護施設で働いたことはないのだが、介護の一端を見た気がした。現れた時よりもだいぶ良くなったものの、介護続行らしく食べたい物を言われ口に運んでいく。
「ああ生き返った!」
完食したあとで先ほどの橙色の飲み物、甘みのある野菜や果物を絞ったジュースのお代わりを頼み、それを一気に飲み干すとそう元気に声を上げる。感謝を告げられたのでお安い御用でと言いながら席を立ち元の席に戻ると同時に、サラティ様たちが戻ってきた。
彼女は埃一つ付いていなかったが、リベリ兄弟はボロボロになっている。死闘だったんですかと聞くも、私が御腹が空いたので止めさせましたと言う。さすがノガミ一強い人物だけあって二人相手でも余裕なんだなと思った。
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