ナビール家にて
さすがこの世界の権力者の家だなぁと思いつつ、ナビール氏に続いて屋敷の敷地へ入る。ドアを開けると黒の煌びやかなドレスを着た綺麗な女性が執事とメイドを従えて立っていた。妻のマリアだとナビール氏に紹介され、自己紹介をしながら右手を胸に当て頭を下げる。
ノーブル君みたいに興奮して抱き着いてこられたらどうしようかと思ったが、とても上品で丁寧な挨拶をされほっとした。皆もそれぞれ挨拶をしていくがリオウの番になって挨拶をした時、
「姫様の前なので我慢しますが、お前が私の前に一人で現れるようなことがあるなら、命を賭して息の根を止めます。覚えておきなさい」
と目を座らせて言い放ち一礼して離れる。凄い迫力だなぁと思っているとノーブル君が耳打ちしてきた。曰く母は冒険者として名を馳せた人物で、ギルドが言うには父より強かったそうですと言う。強い者同士は惹かれ合うってことなのかなと考え苦笑いする。
サラティ様の番になると先にマリアさんが傅き懺悔を述べた。今日は一国民としてお邪魔したのでと言うも、我が家そして我が身の不明を恥じるばかりですと涙ぐんでしまう。ナビール氏に促されノーブル君がマリアさんの肩を抱き立ち上がらせると奥へと連れて行く。
ジンたちがせっかく来てくれたのにすまないとナビール氏に謝罪されたが、とんでもないですとすぐに謝罪は必要無い旨を伝える。空気が悪いので話題を変えようと実は鉱山への入山許可が欲しいのですが、と切り出してみるも彼は驚いた様子でこちらを見た。
なにか聞いているのかと言われたが首を傾げ、エレミアと肩に乗るシシリーに視線を向けたが首を振る。なぜ鉱山にと問われたので、風来石という石を探すためだと答えた。初めて聞く石の名前だが宝石かなにかかと聞かれ、白い縞模様が入った緑色の不思議な石だと説明する。
少し考えた後、やはり聞いたことが無いと言われどこで手に入れたのかと言うので、ヨシズミ国ですと答えると聞いたことがあるという。ゲンシ様が以前そんな石がヨシズミ国で見つかったと言っていたが、行方不明とも言っていた気がすると教えてくれた。
手に入れた経緯は鉱山でガイラたちと交戦後、アイザックさんから貰った品だと思い出す。当時一緒にいたアイラさんが、ヨシズミ国周辺で取れると言っていたことも思い出し、間違いに気付く。とんだ勘違いをしてしまい気恥ずかしくなりながら謝罪する。
そうかとナビール氏が言ったところで、ウィーゼルが最近取れたのを聞いたと告げた。彼女の言を聞いてはっとなり、変わったものが取れても不思議ではないとナビール氏は語る。現在鉱山の地下で宝石を食べる恐竜が居座っていて、その恐竜が咳をすると宝石が塊で出てくるらしい。宝石の塊目当てで冒険者や盗賊が殺到し、採掘人は仕事が出来ず困っているという。
「私自身が出向いて解決したいところだが、これから一族会議に向けて資料などを早急に準備しなければならない。ジン、申し訳ないが頼まれてもらえないだろうか」
「自分で良ければお受けします」
以前仕事の補佐をさせて貰った恩があり、シャイネンに戻れば当分あえなくなる。恩返しをする意味でも受けようと思い即答した。こちらの返答を受け、感謝の言葉を述べながら両手を強く握りつつ上下に振り始める。
ノーブル君の片鱗が見えて親子だなぁと思っていたところに彼も戻って来て、依頼を受ける話を教えられると親子で手を握り上下に振った。そのまま屋敷の奥まで連行され、お茶をしながらデラウンの話などに花が咲く。
気付けば空は茜色に染まり出し、奥様も落ち着いて戻って来たところで夕食を皆で囲んだ。肉料理に舌鼓を打ちつつ、最初とは違い和やかな夕食会になり楽しく過ごす。時間はあっという間に経ち、せっかくなので泊って行くよう勧められたが、疲れそうなので丁重にお断りをし元居た場所に戻った。
受付で宿泊費を払おうとしたが、受付の人は何も言わず笑顔でサラティ様を見る。彼女にたずねてみたら、クロウ戦後に寝ていたこの宿は自分のポケットマネーで貸し切りにしたという。改めて感謝を伝えると、こちらこそ依頼を受けてくれて感謝しますと彼女にも言われる。
なぜナビール氏の依頼を受けたことをと思ったが、彼女とリオウのラフな格好、それに再度の一族会議などのナビール氏の発言を思い返し察した。ミサキの乱によって彼女の願いが叶うのだと思うとどう反応して良いのか難しく、笑顔で頷くのみに留めそれぞれの部屋へ赴く。
この大陸で自分に出来ることがあれば、なるべくこなして気持ち良くアリーザさんの元へ帰りたいと思っている。気掛かりがあるまま戻っても、察した彼女にもう一度行きましょうと言われるだろうし……と思うのはのろけだろうか。
「宝石を食べて吐き出す恐竜ってどんなだろうね! 楽しみだね!」
一緒に部屋に入ったシシリーが自分専用に用意してもらった籠に入りながら言う。シシリーの言葉を聞いて、たしかにそんな生き物は聞いたことが無いと思った。鉱石を食べるだけでも異常なのにそれを塊として出すなんて、機械仕掛けの恐竜なのだろうか。
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