デラウンという大都市
ヤスヒサ王が冒険を始めた土地でもあり、その師匠である一撃のショウがギルド長を務めた土地として観光業も盛況らしい。たしかに地図を見れば、名物を扱っている土産物屋や宿屋に食べ物屋がメインストリートに沢山並んでいる。
以前観光した始まりのギルドの傍にあるこの町のギルドも賑わっていて、冒険者としてこの土地から始めるものが多いという。理由としては鉱山や町の警備など初心者向けの依頼が豊富で、さらに一撃のショウから始まっている初心者講習が魅力なようだ。
丁度目の前をまだ年若い冒険者らしき人々が、目を輝かせながらギルド方面へ向かって歩いていた。こうしてみると首都よりも活気にあふれているように感じる。一日くらいしかいない町だから、裏にはリベンのように貧困街とかブラック企業的なものがあったりするかもしれない。
どこかにその形跡などないかとみているこちらと違い、エレミアたちは通る人たちを見ながら今の流行りのファッションの話をし始めた。シシリーは元々ファッションに興味があったから分かるし、エレミアもシシリーと付き合いが長く、魔法の師であるパルヴァがお洒落だったので盛り上がるのはわかる。
意外だったのはウィーゼルだった。巫女服しか見たことが無かったし、職業柄お洒落だと目立つのではないかと思ったが、絹織物や染物の話に詳しくシシリーが食いつくように聞いている。シン・ナギナミとこちらでは文化が違うからか、興味津々でポシェットからメモを出し書きなぐっていた。
しばらくして団子が到着して彼女専用に小さく切り分け、用意してもらった小皿に置いて行くもそれを見ずに専用のフォークで突きながら、ウィーゼルの話を聞きつつ質問している。エレミアもそれに加わり、団子が食べ終わったのも気付かずフォークで皿を突いて初めて終えたのを理解していた。
熱中できるものがあるのは良いことだとうなずきつつ、代金以外に長居してしまったのでチップも財務担当のエレミアにだしてもらい、お茶屋さんを出る。パンフレットを見るとデラウン市役所というものが町の中央近くにあるというので、そちらに足を向けることにした。
天気が良いこともあり人通りも多い。エレミアにお金に気を付けてと声を掛け、彼女も頷き指先に光をともして金貨などを入れている革袋を掴んだ。恐らく盗難防止みたいな魔法を使用したんだろうが、戦い以外の魔法もしっかり教えていたパルヴァはいい先生だったんだなと思う。
エレミアにとって魔法は神に挑むものであり、ほぼ攻撃に重きを置いていた。魔法は攻撃するものという頭が自分にもあったが、そうでないものを彼女から見れたのはパルヴァのお陰だ。目的を果たした今も地に足が付いているのもそうだと思う。
自分もだが師に恵まれたことに感謝したい。年齢的には自分も師としてあるべきなんだろうが、現状想像が出来ないでいる。強さ的にも世の中には強い人たちが山ほどいるし、Dr.ヘレナなどが以前から予言していた先生が与えてくれたであろうチート能力も、すでに無くなっている気がしていた。
チート能力であるパワーが下がっている可能性が高いので、地力を上げるために修行をしたい。不動明王様もいつまで力を貸してくれるか分からないし、クロウ戦で不足をフルドラに肩代わりさせてしまい悔いがある。
クロウは去ったとは言え、あれレベルの敵が現れる可能性がなくはないだろう。今度こそ誰も失わないために、去って行った人々の期待に応えるためにも強くなりたい。丁度ギルドも近くにあるし、用事が済んだら恐竜退治の依頼を受けてみよう。
強敵が襲来する前に今の自分の状態を正確に把握しておくべきだ。顕現不動モードになれはしたものの、素の状態がどこまで落ちているのか想像も出来なかった。整理してみるとやはり自分自身のことで手一杯で、師匠は無理だなという結論に至る。
考えながら歩いていると突然鋭い殺気を感じると同時に、左手首を何かが縛る感じがして見たところ羂索が出現していた。先ほどと違い今回は相手に向かって飛んで行かないが、端の爪が後ろを差していたので振り向く。
見れば先行するこちらに付いてきているウィーゼルがいる。ただ他の観光客もいるので、ひょっとするとその中に紛れこちらを狙う者がいるのかもしれない。どう動くのか考えたが、さすがに相手もこの雑多な路地で揉め事は起こさないだろうと考え、ウィーゼルが微笑んだのでこちらも微笑み前を向き直る。
やがてデラウン市役所の前に到着するも、人だかりが出来ていた。近くの人に何があったのかたずねてみると、今日は久しぶりにデラウンにある住宅の入居募集の日らしく、順番を待っていると教えてくれる。
こんなに人気があるなんて凄いなぁと感心しつつ、今日のところは一旦出直そうと三人に告げ引き返す。
「ジン殿……!? ジン殿ではありませんか!」
数歩歩いたところで後ろから声を掛けられたので見ると、爽やかイケメンで勇者という肩書が似合うノーブル君が立っていて驚いた。
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