母との永遠の別れ
「こんなところで勢ぞろいか」
左側から声がしたので視線を向けるとクニウスとパルヴァが歩いて来た。二人を見てなんとなくだがお別れなんだろうなと察する。元々彼らも大先生もそしてミシュッドガルドさんも、クロウを追ってきたのだから用が済んだということなのだろう。
クニウスたちも同じフレームに入るよう数歩下がり、お世話になった人たちを見ていると涙が零れそうになった。この中の誰か一人でもいなかったらここまでこれなかったのは間違いない。感謝の言葉を述べるべきなのだろうが、言葉を発すると嗚咽が漏れてしまいそうでぐっと堪えながら頭を下げる。
「ジン、これからも剣の修行は続けろよ? きっと役に立つ」
「エレミアにもよろしくね」
「ワシの篭手は置いていくから好きなようにするとよい」
頭を下げながら頷いていると、抱きしめられた。誰なのかは言わなくてもわかる。とても懐かしい、遠く幼い頃ぶりの感覚に涙が止まらなかった。
「これで本当にお別れね……どうか元気で長生きしてね」
「大先生……ありがとう……ございましたっ!」
涙は零れ鼻をすすりながらなんとか感謝の気持ちを絞り出す。もうこの暖かさを二度と感じられないと思うと、ここから覚めたくない気持ちがある抱き留めたい気持ちがある。ここで見送れるのは自分だけだから、それだけはしてはいけない。
ぬくもりが離れると同時にぐしゃぐしゃの顔を上げ、皆を見て
「いってらっしゃい!」
と声を張り上げて送り出した。笑顔で手を振る大先生たちをいつまでも見ていたかったが、徐々に視界はぼやけ意識は遠のき始める。目覚めたら、彼女たちの居ない世界を生きていかなければならない。
助力したことを後悔させないように精一杯生きよう、そう思いながら眠りに落ちていく。
「ジン、起きて!」
耳元で叫ばれ驚き目が覚めた。板張りの天井が見え、現実に戻ってきたと共に不可侵領域でも無いんだなと理解する。ぼーっと見つめているとシシリーが視界に入ってきた。目と目があうと彼女は顔を歪め泣き始める。
どうしたのかとたずねたところ、ずっと寝ていて目が覚めないのかと思ったと言いながら顔に覆い被さってきた。少しの間背中を擦り落ち着かせていたものの、息が出来ないので腰を掴んでゆっくり引き離す。
かなり長いこと寝てたらしいので謝罪したが、まだ泣いていたので安心出来るよう胸元に移動させ寝かせる。落ち着いたところで皆はどうしたのかと聞いてみたが、エレミアも一緒に倒れてしまいその看病をしてくれていたようだ。結果としてこのままでは危ないとなり、クニウスやパルヴァそれに大先生が力を合わせて治してくれたらしい。
治すために生命エネルギーを使い果たし、存在を維持できないため星を離れるといい残し去って行ったという。エレミアも自分にとってかけがえのない存在なので、救ってくれた大先生たちに心の中で感謝した。
なんとか三人揃ってヨシズミ国に帰れるね、とシシリーに語り掛けると笑顔で大きく頷く。クロウを倒しきれなかった後悔はあるが、天使先生と恐らく出来たであろうその家族の無事と未来を祈りつつ、自分らしくここで生きて行こうと思う。
しばらくして部屋の扉がノックされる。どうぞと答えると扉が開き意外な人物が現れた。なんとピンクのカーディガンに白のブラウスと赤いロングスカートというラフな格好をしたサラティ様だったのだ。なにかあったんですかと問うも、それはこちらの台詞ですと言われてしまう。
リベンを立て直すべく忙しくしていたが、突然不可侵領域に巨大な金色の剣が現れ地面に突き刺さっている、と報告があり見に来たらしい。到着すると大先生たちに事情を説明され、デラウンの宿に収容し魔法などを使用しながら看病してくれたという。
「ジン、よくぞ星の危機を収めてくれました。ノガミの主として礼を言います」
頭を下げてお礼を言われたので、とんでもないですと返す。どういう説明を受けたのか非常に気になる。以前はサラティ様たちこの星の人間のみ、一部の言葉が理解出来ないようにされていた。シシリーにこそっと聞いてみたところ、ミカボシの体を乗っ取った悪魔と戦いアルブラムの剣で退治した、という内容らしい。
神と戦っていたなんてあの場にいた人は誰も言わないだろうが、内容を聞いて安心する。アルブラムの剣を使って退治したっていうのは多少物議をかもしたとしても、英雄視するには至らないはずだ。目の前の生きた伝説に比べたら大したことはない。
「姫、こちらでしたか」
白髪オールバックで無精髭を生やした男が、ノックもせず部屋に入ってきた。案の定サラティ様に叱られたが、とても優しい叱り方だったので不満が残る。あまりその男に近付き過ぎないようにと無精髭ことリオウ・リベリが言ったので、随分と偉そうに言うじゃないか元謀反人がと言うもスルーされた。
サラティ様のお付き出来たのだろうが、野郎も白シャツに茶色のベストとベージュのスラックスというラフな格好で来ており、見方によればデートのついでみたいに見えなくもない。
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