神との因縁
ボロボロで倒れながらこちらに顔を向けて彼は言う。あくまでも他人の体だから余裕なんだろうなと思いつつ、あなたの準備はなんですかと問いかける。言うわけないかと思っていたが、面倒だからこの星ごと君たちを葬る力がもう貯まったとあっさり答えた。
クニウスに視線を向けると首をすくめる。創造神が言うことがハッタリという可能性は低いし、わかったところで対抗策は無いだろう。出来ることはこちらのペースで話を進めてアルブラムの剣を叩き付け、この星から出て行かせることだけだ。
「いまさらですが、あなたとはとても因縁があるようです」
「君の花嫁を活動停止させたからね」
「それだけじゃありません。もっと前からですよ」
「どういうことかな?」
興味を持ってくれたようなので、いよいよ切り札を切ることにした。先ず最初にクロウ自身が言っていた、自分かミシュッドガルドさんのどちらかがこの世界に招いた人間の話をする。どれにも当てはまらない自分は誰に招かれて来たと思うかたずねてみた。
創造神は魔術師会の誰かだろうと少し間があってから答える。自分に魔術や魔法の素養があるかと問いかけたところ、黙ってしまった。個人的な予想だが、この世界に招かれる向こうの人間は魔術や魔法と何かしら縁がある人間だ、と思っている。
無作為に選んでいてはクロウの目的には叶わないだろうし、ミシュッドガルドさんのクロウを止めるという目的にも合致しない。今回の自分はそのどれにも当てはまらないのはクロウもわかっていた。なにかあるかもしれない程度でこの星に来る神が、そんな人間がどうしてここにいるのか考えないはずはないだろう。
なにも答えない時間が続き、業を煮やしたクニウスが剣を手にクロウに斬りかかる。刃が寝転がるクロウの背中を捕らえようとした寸前で消え、クニウスの背後に現れ彼を蹴り飛ばした。どういう理屈でそうなったのか分からないが、まだまだ余力を残していたのは間違いない。
地面に倒れていたのはこちらが向かっているのを察して大人しくしていた可能性がある。ここまで来て途中で止める訳にも行かないし、ラスボスからは逃げられないのは常識だ。
「君はその答えを持っているんだね? 大先生とか天使先生とかいう言葉がそれに当たるんだと思うけれど」
聞こえていたのには驚いたが、なんとか自分を落ち着かせるべく深呼吸をした。神なのだからそう遠くない会話が聞こえていてもおかしくないし、この辺りに他に人はいないので出来て当たり前だろう。言葉だけが聞こえていてその内容が分からないのは、パルヴァや大先生そしてこちらの頭の中は神でも分からないということだ。
素早く整理し改めて話をしようとするも、クニウスが再度戻って来て攻撃を再開する。余力を残し過ぎていては、この後こちらが出す切り札に支障が出ると考えての行動だろう。対してクロウはこちらを見たまま動かない。
幻を攻撃しているような状態になっているのか、クニウスの攻撃全てが体をすり抜けていく。あの体はヤスヒサ王の息子のミカボシの体が元になっているのに、神の力を発揮できるというのだろうか。
「本当に君たちは素敵だね。僕をここまでイライラさせたのは君たちが初めてだよ。あの康久ですらここまでイラつかせることはなかった」
ヤスヒサ王は元の世界でクロウの関係者との接触が無かったのだろう。彼の目的を聞いて孫の存在を知っていれば、それを出して動きを止めるなりこの世界の暗躍を止めさせたはずだ。こちらが何も言わずに立っているとクロウはクニウスを再度蹴り飛ばす。
「その上僕に本気で勝とうというのだから面白い。風来石と雷光石を使うつもりなんだろう? たしかにあれは僕お手製だから君の望む一瞬の隙と出てきた時にアルブラムの剣を一撃当てることくらいは出来るかもしれない。だがだから何だというのだ? 勝てると思っているのかい?」
明らかに感情的になっていて、これまでののんびりした余裕のある口調から一転して早口で言い終えた。だいぶあちらの思考を麻痺させることに成功している。喋らないことがここまで効果のあることだとは思ってもみなかった。
「いつまで焦らすのかな? こちらの余力を削りたいというのなら効果があるが、その前に君が死んだらどうしようもなくないかな」
手に三鈷剣を握っているが、顕現不動モードになっていない。まだ早いという意思表示だと考えなんとか時間を稼げないか苦心する。黙って立っているだけではそろそろ限界だ。
神の圧が凄過ぎて意識が飛びそうになるのをなんとか堪えているが、これ以上近付かれては耐えきれそうもない。こちらの領域に触れるところまで近付いて来てこれまでかと思った瞬間、突然圧が消えて体も心も楽になった。
一方神は進もうとしたものの、見えない何かに遮られているようで勧めなくなっている。これまでならやれやれといったポーズを取った後話し掛け、解けるのを待ったりしただろう。今回はそうではなく、なんと見えない何かを破壊しようと拳を叩きつけてきた。
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