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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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切り札を一つずつ出し合う

「相手が切り札を見せたと同時に君も切り札を切るのか」

「当然だろう? 優位に立たせる訳にはいかないんだよ」


 クロウと思しき相手と向き合い会話していたのは、カーマに行く途中野宿していた時に現れた緑鎧だった。顔も兜で全て隠れ、鎧は肩や篭手そして腰に脛各所に剣身が付いていて、触れれば確実に怪我をするような鎧だったので見間違えるはずがない。


さっきまで一緒に戦っていたクニウスの姿が見えないが、どこへ行ったのだろうか。あのフィールドオンエネミーと知り合いなんてことはないだろうし、ひょっとして不意打ちを喰らってしまい倒れたのかもしれない。


「彼は困惑しているようだが解説しなくて良いのかい?」

「ジン、俺だよ俺。クニウスだ」


 唖然として自然と口が開いてしまう。驚きのあまり思考回路が停止してしまったこちらに対し、剣の修行をした時の話を動き付きでし始める。はっとなって我に返り、そういう問題じゃないだろうとツッコミを入れた。


野宿しているところに襲い掛かってきた理由を聞いたが、上には上がいると分からせておいた方が良いと思ってやったらしい。たしかにあの時は顕現不動(けんげんふどう)モードを手に入れ稽古も順調で、これでリオウにも勝てるだろうと思っていた気はする。


言われてみればあの戦いがあったおかげで、浮かれなかったとも考えられなくもない。よりによってクニウスも外殻装着しているとは思わなかった。リオウもクニウスも元が強いのに、その上こんな隠し玉を持っているなんて反則じゃないか、と嘆きたくなる。


先生……チート能力があったはずの俺よりももっと強い者たちがいて辛いです、チートって何ですか? と心の中で先生に問いかけながら途方に暮れた。


「さてお互い気持ち良く切り札を切った訳だし、ここにある何かが出るまで楽しもうじゃないか」

「楽しめるか? 他人の体に無理やり外殻装着して」


「問題無いよ、適合者である康久の血を引いているからね。竜の血もしっかり継いでいればもっと良かったが贅沢は言えない。この体でも君たちはやれる」


 途方に暮れているこちらを無視して二人は戦いを再開する。拳と拳がぶつかると同時に突風が巻き起こり吹き飛ばされた。ボケている場合じゃないと飛ばされながら近くにしがみ付ける木を探し、枝に手を伸ばす。


強い風に枝は折れてしまいそのまま流される。なんとか体を暴れさせて軌道を変えていると木にぶつかりようやく止まった。地面にぼとりと落ちて空を見上げる。色んな人の力を借りて妖精王モードや顕現不動モードになれたが、それより強力な力を見ると自分の力量の無さが原因で負けているのではないかと思った。


妖精王様にも顕現不動様にも申し訳ないなと思いながら、ため息を吐きつつ起き上がる。


「相変わらずどうしようもないことで嘆いているのね」


 突然気配なく背後から声を掛けられ、驚きのあまり体が飛び跳ね前へ着地した。振り返るとそこにはミレーユさんがいて二度驚く。突然リベンにDr.ヘレナと現れて以来な上に、前の世界でお世話になった大先生(おおせんせい)だと分かり、どうにも言葉が出ない。


「まさかあなたがこの世界に来るなんて思ってもみなかった……それもあの子がそんなことをするなんて」

「ぐ、偶然みたいなものかと」


「偶然にしてはちょっと出来過ぎだと思うわ。まぁ蔵に捨てきれなかったあの人の書物や、遺言めいたノートを捨てきれなかった私が言えたことじゃないけど」


 自嘲気味に笑いながらミレーユさんは言う。あの人とは、死ぬのを待つだけの自分をこの世界に送ってくれた天使(あまつか)先生の父親であり、この世界の神であるクロウ・フォン・ラファエルの息子でもあった人のことだろう。体が耐えきれないほどの才能を持って生まれ、早くしてこの世を去ったクロウが世界で実験を始める切っ掛けとなった人物でもある。


大先生は身寄りのない子供たちの面倒を天使先生や他の職員と共にみていた。この世界で、天使先生と会った際に、母の遺品と言っていたが亡くなっていたとは知らなかった。いつだったかも連絡をもらったが、なるべくバレないようちゃんと生活してますとは答えたのを覚えている。


「この世界に来たっていうことは亡くなったのね、あなたも」

「事故だったみたいで……それでたまたま運ばれた先が天使先生の病院だったようです」


「切っ掛けがそれならあの子が蔵を探しても仕方がない。院の子はあの子にとって弟や妹のようなものだから」

「大先生は……」


「私も病には勝てなくてね。あの子には私のことは皆に知らせない様にと頼んでおいたのよ。ショックを受けすぎて暴走したりするとこまるから、ね?」


 そう言われギクリとしてしまい、視線を逸らしながら空笑いをするしかない。大きくなってわかったが、大先生は自分にとって理想の親だった。しっかり叱ってくれるし甘えさせてもくれるし気にかけてくれる。


園を出てからもあまり近付かなかったのは、戻れば帰れなくなる気がしたからだ。辛い時期ではあったが頼れる誰かが唯一居た時代で、自分を生に繋ぎとめていた場所でもあった。


読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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