神の切り札
「笑わせるじゃないか。その姿のままで俺たち二人を相手に苦い顔をし始めたお前になにが出来る?」
クニウスの挑発に反応し速度を上げて斬りつけてくる。なんとか捌きながらも攻撃をする隙をうかがい、クニウスに気が向いた一瞬を突いて鎧をかすめた。視線を彼に向けていたクロウはゆっくりとこちらを向く。
真顔だったがその瞳には怒気の炎が宿りかけ、目が合うと同時に蛇に睨まれた蛙のようになる。不味いと思う間もなく剣が振り下ろされたが、三鈷剣が動いてくれたお陰で体が動かせるようになり弾いた。
動くは動くもののぎこちなさを感じ、察した剣がフォローするように捌いてくれる。徐々に体の硬直が完全に取れて元の動きを取り戻してく。押されていたものを押し返し始めるとクロウは舌打ちをして下がり出した。
逃がすわけにはいかないと食らいつこうとしたがドン、という音がしたあとでこちらに向かって飛んで来る。驚いた顔をしているので自分の意思ではないと察し、急いで横へ飛び退いた。飛んで行く方向を見ていたら、クニウスがその後を追って走っている。
こちらが攻撃を捌いている時に隙を窺い、下がり出した瞬間蹴りを入れたか斬りつけたのだと思った。後れを取るまいと後を追いながら、次々攻撃が与えられているのは良い流れになってきているなと考える。最初は圧倒的過ぎて向こうの切り札を一つも見られないんじゃないかと不安を抱いていた。
無くしたものに相応しい戦果は創造神にこの星から御帰り頂くことしかない。呼び出しに応じてくれなかった三鈷剣もようやく来てくれたことだし、やっと反撃の狼煙を上げられる気がする。足が取り軽く感じたので気を引き締めながら移動し、クニウスと剣戟を交わす神を見つけ斬りかかった。
「どうしたどうした! このままではこっちが切り札を出す前にケリがつくぞ!」
ここぞとばかりにクニウスは煽りにかかる。ただ悠然とここにあるなにかが出るのを待つつもりでいたであろう創造神が、今やこちら側に押され余裕の笑みを浮かべる暇も無くなっていた。出し渋るほどの神の切り札というのがなんなのか、気になりそうになるが頭を振って斬りつける。
「……なんという事態だ。まさか人間族に毛が生えた程度の者たちにここまで煽られるとは」
「図に乗るなと言いたいのか? だがこの有様ではなぁ!」
眉間にしわを寄せうなだれるクロウに対し、クニウスは手も口も休めず追撃した。力を増した一撃を放ったがそれもなんとか避け、クニウスが胴を薙いで通りすぎたのに続いてその場で胴を薙ぐ。倒れるまで何度でも斬りつけなければならないのは承知していたので、続けて袈裟斬りを繰り出す。
「う……おおおおお!」
連続して入りもう一撃、と思ったところでクロウは胸を張り雄たけびを上げる。怯みそうになるが構わず斬りつけた。ぎろりと睨まれまた動きが硬直しかけたものの、剣が動いてくれたお陰で斬り上げが出来て一撃加える。
クロウの足元から突風が巻き起こり少し押し戻されたが、即風神剣の体勢を取り放って掻き消した。前に僕にも出来ると得意げな顔で言われた時のお返しになったようで、忌々しそうにこちらを見る。クニウスが背後から斬りつけ体がよろけた。
「……許さんぞお前たち……ひとが気を遣ってやっていれば図に乗りやがって」
悪役じみた言葉を口にするクロウを無視し、こちらは全力で斬りつけ続ける。余裕なんて一個もない。こういう場合止まって相手が何をするのか待つのが礼儀なのかもしれないけど、さすがに創造神相手にそんな余裕はなかった。
ミカボシが身に着けていた鎧は、最初の頃の綺麗さは見る影もない。血が出ていないのは恐らくもう亡くなっている人の体だからだろうが、何度切っても倒れないのはクロウが修復しているからだろうか。
「ああああ!」
苛立ちを吐き出すように絶叫したクロウから衝撃波が放たれる。剣腹を向けながら踏ん張って止まろうとするも、強すぎて体ごと押され下げられてしまう。なにが起こったんだと思いながら衝撃波を振り払おうと剣を振るおうとしたが動かなかった。
ある程度下がったところでやっと勢いが弱まり剣で弾き飛ばす。一息吐いてから急いで元の位置まで戻ると
「お待ちかねの物だよクニウス。君はこれが見たかったんじゃないのかい?」
クロウがいたところには真っ赤なフルプレートアーマーに身を包み、顔はカマキリを模った兜に覆われていた人物が立っている。あれはミサキさんやリオウが来ていた外殻装着に違いない。まさかと驚いたものの、彼が与えたものなのだから持っていても不思議ではないと考え直した。
これがクロウの切り札の一つかと思ったのも束の間、今度はその後ろから突風が起こりまた押し戻される。同じくらい押されたところで弾き飛ばした時、顕現不動モードになっていないことに気付く。
よくこれまでクロウの攻撃を凌げたなと感心しつつも、テンションが上がり過ぎて気付かなかった自分に肝が冷えた。
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