情けなさを踏みしめて
「これでいくつかの代償の時は終わりを告げる。また会えるといいわね。あのカップは一応あなたに貸しておくから」
ようやく思い出したのに会えなくなると言われ、慌てて何か言葉を掛けようとフルドラを見る。悲しそうに微笑むフルドラを見て、これまでのことが次々と思い出され言葉が詰まってしまった。なんとか絞り出そうとするも、あっという間に光に包まれ気が遠のいてしまう。
「フルドラ……」
意識を取り戻し目を開くと同時に情けない声が漏れた。急に力が抜けたのも、今まで妖精王モードとフルドラが肩代わりしてくれていたお陰だろう。考えれば考えるほどなぜ気付けなかったのかと思うし、別れ際に声を掛けれなかったことを後悔している。
落ち込み俯きそうになるが、頑張って顔を上げた。妖精王の手助けとあの子の頑張りを無意味にしてはならない。頭も体も重く自分に対する怒りで暗い気持ちに支配されかけたが、二人の期待にさえ応えられらないなら救えないと考え奮い立ち歩き出す。
「やっと帰ってきたね」
クロウは相変わらず鬱陶しそうに手で周りを振り払いながら、クニウスと剣戟を交わしている。無言で一歩ずつ、怒りを込めて地面を踏みしめながら近付いてく。気持ちが抑えられず小走りになった瞬間、手に三鈷剣が現れそれを握りクロウに斬りかかった。
お門違いだろうがなんだろうがどうでもいい。こいつをぶっ倒すために全部を使うんだ。自分の情けなさも愚かさも余さずぶつけてやる。
「荒いな……そんな太刀筋じゃ僕には」
「うるせぇえええ!」
怒号に対してクロウは目を丸くした。この世界どころか生まれて初めて他人を怒鳴りつけた気がする。失った者はもう戻らない。どんなに足掻いたって戻らないんだ。神ならわかっているはずなのに、それを戻そうと多くの者たちの想いを未来を踏みにじった。
ここで止めなきゃ不幸だけが積み重なっていく。自分たちのところでそれを終わりにしなきゃ駄目だ。せめてこの神のせいで不幸になる人だけでも止めてみせる。
「なにがあったか知らないが、君の姿が元に戻ったのが関係しているようだね」
見ればわかることを口にし、こちらの反応を見て探ろうとしているのだろう。こっちとしたらそんなものに釣られるはずがない。探られたところであれがなんなのか理解出来ないのだから、答えようもないので構わず攻撃を続けた。
「冷静さを失っているのは理解するけど、せめて呼吸を合わせ」
クニウスも攻撃の手を緩めなかったが、こちらも緩めず攻撃する。リズムよく行く時もあれば童子だったり微妙にずれたりしていたところで、クロウの腹が空き迷わず斬り払う。先ほどと違うのはそれで終わりにせず直ぐに踵を返して斬りつけた。
同様にクニウスも攻めていて、彼の攻撃を斬り払ったあとでこちらを対処しようとしたが間に合わず、背中に三鈷剣の一撃が入る。この戦いで初めて苦悶の表情を浮かべるのを見逃さない。続けて膝裏目掛けて薙ぎ払いを仕掛けた。
「やってくれるじゃないか」
腰くらいまで飛び上がり回避されたものの、クニウスが飛び掛かり斬撃を放つ。防ぐのを待たず再度斬りかかったが、さすがに三度目は通らず空中を蹴って距離を取られる。すぐに駆け出し攻めるのを止めなかった。
ようやくにやけ顔が消えたのなら今こそが確実に倒すチャンスだ。気合いで剣戟を交わす。余裕で斬り払われていたものが徐々に遅れ、鎧に剣が当たり始める。全力を出してこのまま押し切るしかない。
クニウスも前に出て、逃がさないために挟むようにしながら攻撃を続けた。しばらくしてクニウスがちらりと視線を送ってくる。恐らくなにか仕掛けるならそろそろだという合図だと思った。たしかにそうだと思いつつ、クロウがこの程度で終わる気がしない。
なによりまだアルブラムの剣が出てきてもいない。このまま押し切れるのか途端に不安が過ぎってしまう。
「隙が出来た」
僅かな隙を見逃す神ではない。強い斬撃をこちらへ向けて放ってくる。三鈷剣の剣腹を向け腕を当てて斬撃を受けたが、そのまま吹き飛ばされてしまった。
「いけないなぁ、神様相手に持ち時間は限られてる。長考するとターンエンドになるよ」
相変わらず他人事のように言っているが、顔は大真面目だ。それだけでも大きな成果だが、この星から追い出さないと意味がない。こちらの手札は一度きりで切り時が非常に重要だ。ミスをすれば勝てないし多くの人の未来が失われる。
「そっちもだけどこっちも困ってる点ではあるんだよね、ここになにが埋まってるのかっていうのがさ」
クロウからすればそれを見るためだけにこの星に来た。なんであるか分かればそのまま出て行くだろう。こちらも出て来てくれれば切り札にしたいが、そのなにかを出すための手段が分からない。
「まぁそんなに心配する必要は無いさ、もうすぐ出てくる」
「やはりパルヴァたちがここに居ないのはそういうことなんだね。あとどれくらいかかる?」
「さぁな」
「……一応僕にも堪忍袋の緒があるんだ。面倒になったら君たちを細切れにしたっていいんだぞ?」
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