謎の紋様と思惑と
「ヒット」
それまで五月蠅かったシスターが急に低い声でそう呟く。鬱蒼と生い茂った森の中でなくて良かった。肩からシスターの腕が伸びて来て地面を指さしたので見ると、そこには紫色に輝く紋様がデカい円の中に掛かれている。
「森の様子からして普段人が通らないところのようだからここに設置したんだろうね。紋様を描いて魔力を宿らせると、普通の人はこの道を無意識のうちに避けて通る。何しろ魔法何て言う人の身にはあまりある力だからね。未知のものに対する恐怖ってのは大きいし、人間にはそれを避けるようなシステムが体に備わっている。ジンも無意識に避けて通った場所とかあるんじゃない?」
そう言われてみればそんな覚えがあるな。何となーくその日は通るのを止めておこうとか。元の世界でもひょっとして俺が知らないだけで別の世界があったのかと思うと面白い。
「ああ分かるー町の中に溶け込んでて普通の家みたいになってる教会とか?」
「分かってねーよブス」
ベアトリスが言った言葉に頷きかけて止めて正解だ。危うく巻き込まれるところだった。俺の背中を蹴ってベアトリスに飛び掛かるシスター。二人とも雑草がクッションになってるからって暴れ過ぎだ。
「二人ともステイ! ステイだよ! 今はこの魔法の紋様が掛かれたものをどうにかしなきゃ」
「ちっ!」
「けっ!」
割って入り止めるが何故か二人とも下がる時に俺の足を蹴って行きやがった。御説教したいところだがここは俺の心もステイしシスターに対処を促すと、近くまで行って円を切る様に足で払った。俺が驚いてみていると、シスターは真顔で首を傾げる。腹立つなこのシスター。
どうやらそう凄い紋様ではないようで、召喚する為のものや巨大魔法を使う場合はそもそも足で蹴す前に弾かれるし護衛が必ず配置されているという。
「これを消すと相手に俺たちが知ったって分かって面倒にならない?」
「こんなのも探せない間抜けだって思われた方が面倒になるじゃん? いたちごっこだとしてもこちらも分かって警戒しているよって示すのが大事なワケ。そしてそれがアタイたち以外にも居ると分ければ向こうも無理してこない。防衛するしかないこちらとしては大切な行動なんだよねこれ」
放置していたからこそ魔法少女やシンラが目前まで来ていたって話か。これからこういう罠っぽい紋様を消していく特別依頼が来そうだな。稼ぎになるのは良いけどどれが凄いのかとか全く分からん。
「やっぱあったか」
麓を上がり山へ登ろうかと言う所でシスターは足を止め、一つの岩を見つめた。そしてゆっくり近寄ったと思ったら自分の背丈ほどある岩を粉砕。するとその岩の下が光っていたので見ると紋様があった。
シスターが俺にさっきのようにやってみろと言うのでやろうとしたが、壁があるのか足が進まず円が切れない。これは円自体に強い魔力を宿らせており紋様を消せない様に施されている、凄い紋様のようだ。
「はぁっ!」
シスターは足を肩幅に開き脇を締めて拳を握り気合を入れてから、その円のふちの地面を強打。一瞬地面が揺れたが、そんな強烈な一打をこの細身のシスターが繰り出しているって凄いな。竜神教の修行ってどんなのなんだろうと気になったってくる。
俺は戦いの素人で基礎が喧嘩って言う状態なので、この先大丈夫かなとシンラとの件から思い始めていた。早々都合良くはいかないだろうし。
「これも鍛錬の賜物だ。アタイのこれは魔法ではない……と思う。魔法みたいに見えるかもしれないが、一応人の中に備わっているものを放出し拳に纏わせ強化と保護をしているんだ」
「人の中に備わってる力……生命エネルギーみたいな?」
「そうそう! 生きるのにエネルギーが必要でそれを色々取り込んで生成している。意識しないと垂れ流しているんだが、それをアタイたちは修行でコントロールし使えるようになったんだ」
「それって俺も習えないかな。これから人探しをしていく上でこないだみたいな連中は避けて通れないだろうし」
「ジンは自分から習いたいと思ったんだな?」
「え、そうだけど」
なんか妙な確認をされた後、シスターは頬を染めながら嬉しそうに俺に紙を一枚渡して来た。それは竜神教道場入門書と言うタイトルでネット通販の様な細かい規約そして月謝五十ゴールドと書かれている。何と俗っぽい……だがまぁ宗教に入らなくても学ばせてもらえるなら安い方なのかもしれないな。
「身に付くんだろうな本当に」
「それはジンのやる気次第だ。だが手取り足取り教えてやるぞ?」
「何考えてんだドスケベシスター!」
「うるっせ赤髪! そんなんで想像してるお前の方がエッチだ!」
思春期か? と思ったが思春期だった。オジサン流石に今はそう言う想像出来ないんだよね、割と切実に生きる為に戦う術が欲しいので。俺は急いで割って入り後日改めてと言う話にして薬草回収に向かう。
案の定薬草は簡単に取れたし町の人も数人居て皆で一緒に収穫した。帰りに種を皆で埋めて立札を立ててから町へと戻る。
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