妖精たちの宴
「王よ、お出ましください。今こそいとおかしき夜の宴開演の時」
Dr.ヘレナが右手を掲げた瞬間、薬指が光り出し徐々に強さを増していく。たまらず目を閉じ光が収まるのを待ってから目を開けたが、先ほどとは別の場所に移動したらしくクロウたちが見えない。見回すと森に夜が訪れたように暗くなり、かがり火が所々にあった。
目の前にいるDr.ヘレナもいつもの黒いローブにつばが広く頭頂部のとんがった帽子ではなく、薄緑のドレスを着て透き通った羽を生やしている。驚きたずねようとした時、体から力が抜けよろけてしまった。
なにが起こっているのか分からず困惑しながら倒れそうになるも、誰かに支えられ踏ん張る。支えてくれた相手は誰なのかと思いながらその姿を見て息を呑む。Dr.ヘレナと同じようなドレスを着ながらも、シャイネンからリベンへ来る時に仕立てたポンチョを羽織ったフルドラがいたからだ。
色々言いたいことはあったが、喋り出すと止まれなさそうなので一言体は無事かとたずねた。小さく微笑みながら頷いているものの、あの神の攻撃を共に受け続けて本当に大丈夫なのだろうかと内心穏やかでいられない。
「彼女の言っていることは本当よ。なにしろ生まれ持ったすべての才能を王に捧げて剣にしてもらったのだから、当然の硬さよ」
本当に大丈夫だったことに喜んで良いのか、才能の全てを捧げて剣になることを選んだことに怒ったらいいのか分からず、それは凄いなと言いながら苦笑いする。あなたの気の力と王が貸し与えた力があったからこそあそこまでやれた、とDr.ヘレナは解説した。
王とは妖精王のことかと聞くと同時に、周囲に小さな光が無数に湧きだしてくる。行きましょうと告げ、先導するようにDr.ヘレナは先に進む。フルドラに支えられながら後を追った。移動しながら通り過ぎる木に触れ吸気しつつ、その多くを支えてくれているフルドラに渡し続ける。
大丈夫だと言われても本当か確かめようもないし、元気であれば気は外へ出て行くので問題ないだろう。なんとか一刻も早く支えられずに歩きたいところだが、どうも戦いの疲労だけではないような気がするので、ここはフルドラに甘えつつ回復を待つ。
「いよいよ約束の時が来るわね」
辿り着いた場所でクロウとクニウスは戦っていたが、うっそうとした茂みの中で戦っており明らかに違う場所に見えた。二人はそれも構わず戦っているのかと驚くも、Dr.ヘレナが二人に近付き通り過ぎたのを見て、ここは同じ場所ではないと感じる。
こちらの違和感に気付いたDr.ヘレナは、ここは世界のズレのような世界だと言う。同じ場所にあるが直接触れることは出来ないらしい。妖精が生まれるのもこの世界で、ここからこちら側へ実体を持って出るようだ。
先ほど発生した無数の光が二人の周りに集まり出し、不規則に揺れ始めた。なにが起こるのか固唾を飲んで見守っていると、クロウが眉をひそめクニウスを強引に押し飛ばし辺りを見回し始める。
――我らが世の魔法、とくとご堪能あれ
暗闇の森の奥深くから爽やかな青年の声が聞こえてきた後で、森は一気に明るさを取り戻し周りにはシシリーのような妖精たちが姿を現す。こちらを見ながら笑顔で通り過ぎクロウの居る所へ飛んで行った。
クロウは目を丸くし周りを見ながら手で払い始めるも、妖精たちにはまったく通じていない。どういう状況なのかDr.ヘレナにたずねると、クロウでもこの空間は干渉しづらいというのを妖精王が見つけ、その為にいとおかしき夜の宴が行われている毎年五月のこの時期に来るよう調整したと答える。
当初は追いやられた魔女たちが神々と騒ぐお祭りだったが、魔法が一般化し始めたのを機に妖精たちが主役になったという。クロウはそれを知らないため対処しようがないと聞き、とんでもない裏技が出たなと驚く。
「神がこの星の危機に繋がる事ではあるから協力するのは当然だとしても、乗り気でなかった妖精王が協力しようと言ったのもジンの行いがあってこそよ」
どうやら妖精王はシシリーを通して見続けていたらしく、シャイネン近郊の森で出会ったゴブリンに接する態度を見て決めたそうだ。シシリーとは長い時間一緒にいたし、その間を見られていたと思うと気恥ずかしくなって後頭部を擦りながら俯く。
他の人間族なら妖精を見ただけでも敬遠するのが普通だが、敬遠するどころか友として共に旅をしさらにゴブリンにまで心を通わせる。稀有な人間族に賭けようと王はおっしゃったとDr.ヘレナは言った。
「でも残念ながら私たちが出来るのはこのくらいよ。直接手を下すと攻撃と判定され、この世界もクロウに認識されてしまう。妖精たちの穏やかな夜を守るために許してね。夜の宴によって少しは彼の能力も低下しているはずだから」
「わかりました。あとはこっちで頑張ってみます」
笑顔でDr.ヘレナに言うと、彼女は頷き元の空間へ戻すからあとはよろしくと言われる。手をこちらへ向け突き出すと同時にフルドラが離れてしまった。
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