苛立つ神
「じゃあ払う風」
霧の中からクロウの声が聞こえ、じゃあって何だと思いながら身構える。十秒ほどたった頃、霧の中から竜巻でも起こしそうなほど強い風が発生した。なんとか背中の羽を使い移動しようとしたが遅く、後退りするほど強烈な風に飛ばされてしまう。
途中の木にしがみ付きやり過ごそうとしたものの、他から折れた木が飛んで来てそのまま一緒に飛ばされる。潰されないようなんとか飛ばされている最中に行木をどかし、風の力が弱まるところまで来ると地面に落ちて転がった。
勢いが完全に無くなったところで起き上がり、急いで元の場所まで戻る。近付くにつれ金属音がぶつかり合う音がした。魔法が飛んで来たのでパルヴァかと思ったが、違うようだ。
「芸がないことをするじゃないか。ジンが一人で戦っている間に君たちは遊んでいたのかな?」
さっきの場所に辿り着いて見るとクニウスがクロウと剣戟を交わしている。近くにパルヴァもいると思うが姿が見当たらない。彼女が姿を見せないとなると隠し玉が用意されている可能性が高いだろう。クロウもそこを察してクニウスを挑発していたが、まるで反応せず攻め続けていた。
なにをして欲しいのか言ってくれればその通りにするよ、と言う見え透いた相手の誘いにクニウスは無言を貫く。顔を見ればさっきまでのこちらとの戦いと違い、笑みは消え去り余裕がないように見える。神相手に緊張を強いるなんて、さすが剣の師匠だと嬉しくなった。
「無慈悲なる雹!」
声が聞こえると同時にクニウスは後ろへ飛び、クロウの頭上から氷の塊が無数に降り始める。木は薙ぎ倒されへし折られ、地面は氷の塊に埋め尽くされた。普通であればこれで終わりなのは間違いないが、あの中にいる気は衰えていない。
「完全なるゼロ」
言葉が響き渡ると先ほどまで降り注いでいた氷の塊がすべてなくなるどころか、薙ぎ倒された木や草まで落ちる前に戻されていた。なにか話そうとしていたところへクニウスが斬り込み邪魔をする。さすがの神もこれには苛立ちを隠せないらしく、睨みながら力任せにクニウスの剣を斬り払う。
とうのクニウスは弾かれた剣を飛ばしたまま新たな剣を出し、無表情のまま斬りかかった。さっきまでかなり粘ったが、笑みを完全に消すまでには至らなかったのが悔しい。今は黙って戦いを見ながら自分を回復すると同時に、妖精の宝へも気を注ぎ込んだ。
このまま倒れてくれればありがたいが、そんなことはないだろう。氷の塊を消し去った魔法が切り札ではないはずだし、こちらの奥の手を出す前に彼の切り札を全て出させてしまいたい。
「少し頼む!」
突然そう言われ直ぐに覆気をして間に入る。剣戟を交わすが圧も力も前回とはまるで違い別人レベルになっていた。自分の剣の師匠は本気を出した神と戦い、若干押していたのだから凄いなと心から感心する。
同時に神にも苦手なものがあるのかもしれないと思い笑みがこぼれた。どうやらそれが挑発に見えたらしく、思い切り斬りつけられたがなんとか気合で押し止まる。一撃だけで終わらずにキレたように何度も乱暴に叩きつけてきた。
余裕がなくなってきたのは有難いが、この状況をなんとか切り抜けないと剣も自分も本当に潰されてしまう。剣に気を送って加速状態になり押し返そうとするも、あっさり追いつかれ元の状態に戻る。
「すべてを貫通する氷柱」
「カッ!」
側面から現れた巨大氷柱に対し顔を向け、怒りをぶつけるように叫びながら気合だけで砕いてしまった。借り物の体であんな芸当が出来るなんて反則もいいところだ。ぼやきたい気持ちを押し殺し素早く後ろへ下がる。
「氷柱牢獄!」
こちらを追おうとしていたクロウを、四方八方から現れた氷柱が取り囲み行く手を遮る。ほっと胸をなでおろしていたら、後ろからクニウスが飛び出し氷柱ごと斬りつけた。ガゴッという音を立てて斬った氷柱がズレていくが、中にいた男は無傷のままニヤリと微笑んでいる。
傷一つ付けられないなんてと驚いているこちらを無視し、クニウスは戦闘を続行するべく氷柱の上から斬りつけた。気合の声も怒りの声も上げず、無表情のまま挑んでくるクニウスに対し、クロウが雄たけびを上げる。
雄叫びによって氷柱は全て消し飛ばされ、音を置き去りにして飛び掛かった。剣と剣が合わさるだけで衝撃波が飛び下がらざるを得ず、なにかあればフォローできるようにと気を集めながら戦いを見ている。
早さも力強さも桁違いで、神々の戦いのように見えてしまう。
「どうやらそろそろみたいね」
あまりの凄さに見とれていると後ろから声を掛けられた。振り向くとそこにはDr.ヘレナが腕を組んで立っていて驚く。聞けばだいぶ前から気取られないように不可侵領域に侵入し準備をしていたと言う。
クニウスたちとも打ち合わせをしていた関係で、一人で戦わせて御免なさいと謝罪される。序盤だからまったく凄くないので謝る必要なんてないですと告げるも、すべての積み重ねがああさせたのだから誰が描けても駄目だったと言われた。
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