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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第七章 この星の未来を探して

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二人の戦い

「言うなれば僕がいなければこの世界の誰も生まれてこれなかったと思わないかい? クニウスにしても君の大切なアリーザにしても」


 さっきクニウスが凄まじい速度で斬りかかった気持ちがわかる。クニウスは普通の人間としての生を、こちらはアリーザさんの生を共にこいつの事情で奪われた。自分が生み出したんだから奪っても良いだろう見たいな言い草は納得できない。


この世に生を受けて自分の足で歩き始めたら、一人の人間だ。例え親だろうと勝手な理由で生を奪われていいわけがない。


「良い気迫だけどそれでは僕には届かないね」


 こちらの渾身の斬り下ろしを、つまらなそうな顔をしながら剣を両手ではなく片手で持ったまま防がれてしまう。だが今は攻めるしかない、少しでもクニウスたちのなにかをする準備の時間稼ぎをしないとならない。


剣で相手を押し距離を取るも直ぐに間合いを詰めて斬りつける。防がれるのは承知の上で何度も斬りつけた。一撃一撃防がれるたびに、いつ気が変わって相手の剣がこちらの胴を突いて来るか首を突いて来るか、と身構え胃が冷たくなる思いがする。


「そんなにおっかなびっくり斬りつけてたんじゃ、君の良さが出ないじゃないか。強敵にも臆せず挑むのがジン・サガラ。格上のシンラを倒し、あのティーオに火をつけた男の太刀筋じゃないねこれは」


 絶対的な優勢だから言いたい放題だ。言い返したいところだが、どうやらクニウスたちのなにかまで付き合ってくれるようなので、それくらいは甘んじて受ける。指摘された点を踏まえてなるべく思い切りよく行こうとするが、どれだけ打ち込んでも斬れる気がしない上に、毎回毎回死のイメージが頭を過ぎる。


恐怖を押さえつけながら脇を閉めてしっかり打ち込み、引く時は体を硬くしないよう気を付けながら攻めた。


「だいぶマシになってきたね。雰囲気……というか僕に慣れてきたといったところかな。だが」


 クロウが薙ぎ払いを放つのが見えたし、慎重を期して剣腹に腕を当てたのである程度下がっても受け止めきれると思った。だが現実はそう上手くいかなくて剣同士が接触した時、光を放ちあっという間に吹き飛ばされ、いくつもの木を薙ぎ倒し地面に転がる自分がいる。


はっとなり上半身を起こした瞬間、胃に激痛が走り吐血した。理不尽すぎて泣きたくなってくる。これまで相対した誰よりも理解不能な強さで、これが神かと納得してしまった。かすむ視界の向こうにゆっくり歩いてくる姿が見える。


このまま倒れていれば楽になれる……あんな圧倒的な相手に良く善戦した。最早念仏を唱えるしかないと目を閉じかけたその時、妖精の宝(ニーベルング)が起き上がらせるように動き始める。気持ちは嬉しいが起きたところであんなのにはどうしようもない。


自分なりに抗おうとしたがこれが限界だ。チートも終わると言っていたが、まさにその通りになったなと思う。先生すいません、やはり神には敵いませんでした。


――ジン、駄目だよ起きて!


 目を閉じ死を覚悟した頭の中に、服はボロボロで傷だらけのエルフの少女が映りそう励ます。少女には見覚えがある。なぜ今日まで忘れていたのか、自分に引くほど呆れた。出会った時から姿を変えられるとは思っていたが、まさか剣に姿を変えられるとは思ってもみなかったし、なぜ黙っていたのか。


「凄いじゃないか、一旦諦めたと思ったのに起き上がるなんて案外ガッツがあるね」


 歯を食いしばりながら妖精の宝(ニーベルング)の助けを借りて立ち上がる。自分を犠牲にしてまで力を貸してくれたお前のためにも、こんなところで寝ている場合じゃない。


「まった……くっ、水臭いじゃないか。そんなことしなくたって、一緒にいてくれるだけで力になったって言うのに」

「詭弁だなジン。今の君のその姿でそんなこと言っても説得力がない。なにしろ今君が生きていられるのも、その剣に姿を変えたエルフのお陰だ。並の剣ならもう砕け君は死んでいる。その意味が分からない君じゃないだろう?」


 剣を杖代わりになんとか立ったこちらの前に立ち、見下しながら口元だけ微笑みつつクロウは言う。いちいち解説されなくとも理解出来る話だ。受けただけでこっちは吐血するほどのダメージを受けているんだから、剣が無事なのは何かの代償が必要だと。


そもそも時間稼ぎするなんていう考えがおこがましい。神が圧倒的で勝てないと言いながら、生き残るつもりで戦っていた死に怯えていた。クロウの指摘を頭では理解していても動けていなかった。どこかに自分はそれでも死なない、チート能力で生き残れると思っていた。


「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれってか」

「もののふのやけた心のひとすじに……君にそれが出来るかな?」


 なにを言ってるのか分からないが、ここからは捨て身だ。妖精の宝(ニーベルング)と共に砕け散るまで全力でコイツをぶっ倒すために戦う。命を燃やせ体を酷使しろもう明日の陽を拝めなくてもいい。


「お前だけは!」


 歯を食いしばり思い切り斬りつける。先ほどよりもこちらはダメージを受けいるので、下がるほどではないはずだがクロウは後退した。なにもかもが腹立たしい。理不尽で自己中で訳の分からない望みのために、多くの人を巻き込み不幸にし続けている。



読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、

悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。

また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。

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