ショウの篭手
「さすがに元の個体では生存できなくての。遺伝子的にも劣化せずに動ける限界を迎えてしもうて、不可侵領域を調べ尽くせんかった。結果的にはそれがあやつをここへ呼び寄せられたのだから、良しとせねばならん」
御爺さん曰く、不可侵領域に埋まっているものとアルブラムの伝承は、当初考えられていたものとは違うという。アルブラムが星の危機に復活するという話だったが、調べた限り彼は魔法使いどころか魔術師としての素養も素質も無く、蘇生する手段はないという結論に至ったらしい。
データ上で確認したところ、彼はクロウがこの世界に引き込んだうちの一人だというのは間違いないようだ。元の世界では桁外れの戦闘センスを持ち、ゲリラ戦を得意とした某国の英雄だった。ヤスヒサ王存命時に最終調査をしに来たクロウは、御爺さんと別方面で調べ同じ結論に達し去る。
ただ御爺さんはクロウが去った後に、その偉業と不確かな武器の存在が気になった。エルフや竜人族に残された僅かな資料や、魔法を使用して各地に残された記憶を辿り歩く。死の間際まで調べたところ、転生体として自分たちが用意した以上の力を発揮した形跡が僅かにあったそうだ。
推測の域を出ないものの、人間族に感情移入した星の意思が護るために、アルブラムに力を与えた可能性がある。不確かな武器こそが星の意思が与えた力ではないか、と御爺さんは考えているという。
「ワシの予想が確かなら、尚更これはお主が持っておらねばならん」
「この篭手があればその武器を扱えるんでしょうか」
「この篭手はワシお手製の篭手じゃから、そんじょそこらのアイテムとは訳が違う。お主に魔術も魔法も素養が無かったとしても、ある程度可能にしてくれる。まさに魔法のアイテムなのじゃ!」
「風神拳を俺が打てるようになったのもこれのお陰だったり」
「補助輪的な役割はした。だが今も打てるし他の武器でも可能であるなら、お主には素質が僅かなりともあったということじゃろうな」
「向こうの世界でそういう能力の人の近くに居た、というのも関係してますか?」
「対象の大きさにもよるが、お主に元々あったものが刺激されて大きくなった可能性は捨てきれん。人間の脳みそも遺伝子も全て解明された訳では無いからのぅ」
天使先生や大先生、二人のお陰で風神拳を打てるようになったのだとしたら、彼らの経営する園に入れたことがそもそも運が良かったのかもしれない。風神拳がなければ、ここまでくる間に何度も死んでいただろう。
感慨深い思いに浸っていると御爺さんは言った。ミサキの乱が始まる前後から、不可侵領域近辺で地震が多発している。星に移植されたヤスヒサ王の母親が、彼の血縁であり自分の子孫でもある彼らの危機に反応したからだ、と。
クロウが不可侵領域に侵入し、ミカボシの体を乗っ取ったことがバレればどうなるか分からないと言われ、急いで現地に向かわなければならないと思った。なにかクロウに対して有効な手段とかありますかと問うも、御爺さんは首を横に振る。
「魔法の師ではあったが、この世界を作りワシの魔法をコピーされた時に、あやつはワシを超えた。なるべく思い通りにさせないよう動き回っているが、それでも止めきれない。お前たち不確定要素に賭けるしかないのが現実じゃ」
深く溜息を吐いてギルドの階段に御爺さんは腰を下ろす。クロウを止めきれないとどうなりますかと聞いたところ、最終的にはすべての知的生命体が死ぬと言われ驚愕した。クロウの求めるところに辿り着くまで苛烈な実験は続き、最終的には己が手で試すからだという。
実験が始まった切っ掛けは彼の息子さんの死だった。息子さんは有り余る才能に恵まれたが、体が耐えきれず死に至ったという。原因を遺伝子に求めたクロウは、才能に耐えきれる器を求めてこの世界を利用しているようだ。
自分が神になったのだから思い通りに造れないんですか、と聞いてみたが人間だけはどうにも出来ないと話す。同条件下においても猿から人への進化がまったく行われず、途方に暮れた結果として元の世界の人間の魂を魂を人工の器にいれこの世界に住まわせた。
世界を作った当初いた住民は、元々プログラムによって思考を作られた者たちだったが、長い年月の結果人間のようなものが生まれ始める。だがまだまだ思考が自由にならず、定められた域を出れていない。
御爺さんの見立てでは、彼の望む才能に耐えきれる器の始まりとは、この世界で初めて自分の干渉なしに生まれる人間なのではないか、と言った。考えただけで途方もなくて、考えるのを止めざるを得ない。
何にしてもアリーザさんを救うためにクロウを撃退しますと話すと、御爺さんはクロウの干渉がこの星から薄くなれば、あの娘の魔法石を起動できると言う。なんとかクロウを締め上げてでもと思っていたが、まさか御爺さんが何とかしてくれるなんて思わず飛び上がる。
確実にどうにかなるという言葉を得て嬉しさのあまり飛び回った。
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