過去の亡霊
こちらの地方の地理に詳しくないので、パルヴァとクニウスに意見を求めてみる。パルヴァはクロウとの戦いは生死を掛けたものになるから、デラウンで一呼吸おいてからの方が良いのではと言う。対してクニウスは、このまま行くのがあと腐れなくて良いと答えた。
別問題が発生する前に行った方が良いかと思ったが、パルヴァが咳払いをしたので見るとエレミアがパルヴァに背負われてグロッキーになっている。どうやらパルヴァはエレミアのことを気遣って、デラウンで一呼吸おこうと提案したらしい。
エレミアの相棒として気付かなかったことを無言で頭を下げて詫び、カーマを通過しデラウンへ向けて移動を開始した。エレミアはこちらで背負っていくと伝え、パルヴァに背中に乗せてもらい背負って歩く。
カーマに立ち寄って休ませるのも手かと思い、入り口付近を通ってみたが門が閉じられている。門には一枚の紙が貼られており、そこには現在調査のため閉鎖中と書いてあった。パルヴァが言うにはここはミサキさんの本拠地になっていたし、事件解明が終わるまではカーマは開かないだようだ。
住んでいる人たちは大変だろうなと思いつつ、ここに居ても仕方がないので一路デラウンを目指す。デラウンまでの間にダルマという町があるが、そこは現在竜神教徒たちの修行の場になっていて部外者は立ち入り禁止らしい。
カーマからデラウンへは歩いて移動すると一日半は掛かる距離らしく、食料を買い込んできたのでダルマ過ぎたあたりで野宿をしようと伝える。空を見上げればゴロゴロと音を立てていた。雨が降り始める前にテントを張りたいなと思いながら移動し続ける。
途中で丘陵に上がると眼下に川が見えた。天候が悪い時に川の傍でテントは危なくて張れないので、ここでどうかと提案する。パルヴァもクニウスも同意してくれたので、野宿の準備を始めた。二人とも野宿に慣れているようであっという間にテントも二つ張れたし、水を汲んだり薪割りをしたりとスムーズに野宿の準備は完了する。
エレミアが目が覚める頃には日も暮れて食事の準備も出来ていた。皆で談笑しながら食事を始めたものの、空が光り出しぱらぱらと降り始めたので直ぐに食事を済ませてしまう。女性陣と男性陣に分かれテントに入り、クニウスと二人で交代しながらテント周りの警護をすることにする。
先にクニウスに寝てもらい、テントの外で雨が当たり辛い木の下にあった石に腰かけた。乱があったばかりなのでしばらくは大人しいままだろうと思っていたので、のんびりテント周辺を歩いて回る。
「もし、一つたずねたいことがあるのだが」
不意に背後から声を掛けられ驚き飛び退いた後振り返ると、そこには銀髪で頬がこけ黒い袍を着た人物が立っていた。袍を知っていたのは、中学時代に社会の授業で教師の家が神主だと言い、家から持って来てくれたのを見せてくれたからだ。
まさかそんなものを異世界に来て見るなんて。シン・ナギナミは刀など日本の文化がありそうだし、そちらのほうの旅人だろうか。相手を改めてみると神経質そうな感じの人物にみえたが、天候が悪いのに雨避けも持たず濡れたままなのが一層不審に見える。
こちらで答えられることがあれば、というとここはどこですかと聞かれた。どうやら旅人で天候を読み切れず迷っているようだ。ここはダルマの近くですと答えると、目を丸くした後でダルマはあるのですかと聞き返された。
パルヴァたちに教えてもらったまま伝えると表情が険しくなる。竜神教の教祖は誰で? と聞かれたので、現在はノガミ一族が運営していますと答えたらまた目を丸くした。山籠もりかなにかしていて久し振りに俗世にふれたのだろうか。
旅人からノガミ一族とはとたずねられ、知ってる範囲のことを秘密にしておいた方が良いだろうこと以外は全部話す。唖然としたまま聞いていた旅人は、すべてが聞き終わると声を上げて笑い始める。特に面白い話をした覚えは無いし、そういったトーク力はないので困惑していると旅人は気が済んだのか笑うのを止め、こちらに対し謝罪した。
曰く、想い残しがあるらしく迷い出てきたらしい。まるで幽霊みたいなものいいですね、と問いかけるとその通りかもしれないと答える。顔色はかなり悪いが、足があるように見えるので揶揄わんでくださいと伝えた。
しばらく無言で向き合っていたら、旅人は腰に下げた刀の鞘と柄に手を掛けて抜刀の構えを見せる。敵でもない人と戦えませんよと言うも、元の場所へ帰るための協力をと頼まれた。元の場所ってまさかと思いつつも、確証はないので考えるのを止める。
こういった場合にはこの剣が最適だと考え三鈷剣を呼び出す。相手は出てきた三鈷剣を見て感嘆の声を上げた。懐かしいものに出会うなと呟いたので、ヤスヒサ王の知り合いですかとたずねると微笑んでゆっくりと刀を抜く。
旅人は短刀よりも長い刀を二振り抜き、右を前に出し身を少し屈め構える。三鈷剣ならば悪しき者でない場合は斬れないし、切り結べば満足してくれるだろうと考えこちらも構えた。
相対して見れば、邪ではないとは思うがなにか違和感というかそういうものを感じる。まさか本当に幽霊なのか? と思って訝しんでいると素早く斬りつけてきた。
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