遠い日の二人
ダメもとでシシリーに白い縞模様が入った緑色の石を知らないかと聞いてみたところ、やはり見たことはないないと言う。海に潜って探すかなと思いながらも、どこかにないか探してみる。軽鎧の胸元に手を入れた時、紐が引っ掛かった。ゆっくり引っ張ってみると、腰に下げていた袋が出てきて二度見してしまう。
こっそり袋の中を開けて見たら風来石だった。リオウにやられて無くしてしまったと思ったのにとつぶやいた瞬間、アリーザさんと家で過ごした時のことを思い出す。結婚指輪を作るつもりでいたのに、いつの間にかすべてが変わってしまった。
家も無くなり異国の地で戦っている。皆で過ごしたあの日々を、こんなにも懐かしくそして愛おしく思う日が来るなんて、思いもしなかった。そっと袋の口を閉じ目を閉じながら握りしめる。どうか彼女を取り戻し皆のところに帰れますようにと祈った。
リオウが使用後に雷光石が残っていたのを見ても、風来石も無くならないだろうと考える。神様の思し召しだけでなく、アリーザさんも他人の愛おしい人を救うために使って欲しい、という願いからだと思い取り出す。
なにをしているのかとリオウが聞いてきたので、神様とアリーザさんに感謝しろよと告げ袋から風来石を取り出し、これが風来石だといって見せた。目を丸くしながらしばらく停止した彼は、だいぶ間があってから現実に戻り手に入れた場所をたずねてくる。
仕事の報酬でもらったんだと答えたが納得せず、どこの誰にもらったとか詳しく教えろと言ってきた。知らないと思うがと前置きし、ヨシズミ国の鉱山管理者のアイザックさんだと話すとまた止まった。
「何回止まるんだお前」
「うるさい。真実を知ればお前も驚く」
「なにが」
「アイザックはここリベンの出身で、元竜神教親衛隊小隊長にして俺の部下だった男だ。ここに居る時は暗闇の夜明けの追跡捜査を任せていたが、母親が病に倒れたと連絡があり退職した。まさかヨシズミ国にいるとはな」
リオウの言う通り今度はこっちが固まる。あの胡散臭いアイザックさんが元リオウの部下で暗闇の夜明けの追跡捜査をしていたとは信じられない。あの鉱山での依頼も何か変だったが、まさか暗闇の夜明けと繋がってるんじゃないだろうな。
リオウにそこのところをたずねてみるも、今の奴が何をしているのかは知らんと言われた。今回の乱もそうだが、こっちでもだいぶ暗闇の夜明けが勢力を広げているように思う。魔法の中心地にまで手を伸ばしてきたとなれば、いよいよシンラも本格的にこちらで活動を開始するのかもしれない。
リベンはしばらく通常業務をするには厳しい状況にある。サラティ様が無事戻ってきても亡くなった兵士たちは戻ってこない。治安に影響が出て、一時的に不安定になるだろう。ミサキさんが起こした乱は、暗闇の夜明けからすれば成功しても失敗してもどっちでも良かった。
本気で成功させるつもりがあるならシンラ自身が乗り込んできたのは間違いない。リオウに話してみるとそうかもしれないな、とそっけない答えが返ってくる。どういうことかと考えて手元を見た時、そういうことかと思ってにやりとしてしまった。
「わかったわかった、そう拗ねるなよ。で、どうやってサラティ様をこっちに戻すんだ?」
「風来と雷光を近付けてから開けと念じれば作動すると聞いた」
言われた通りにしてみると目の前の空間が歪み、サラティ様がこちらへ向かって倒れてくる。なんとか受け止めたが、わざとらしくないようにのけ反り危ない危ないとアピールした。慌ててリオウは飛んで来て、サラティ様の肩を抱きながら地面に座らせる。
ミサキさんはこっちで担いでいくから先に行けと告げながら石を袋に入れ、倒れているミサキさんのところに移動しおぶった。少しの間考え込んだが諦めてサラティ様を抱きかかえ先を歩く。こうしてミサキの乱は終幕を迎える。
一族会議を開催する予定だったのもあり、出席予定だった他のノガミも終幕後に続々とリベンに到着した。事件の報告を受け、いの一番に城へ駆け付けたノーブル君の父親であるナビールという人物が、町の治安回復と当座の国家運営を担うことが臨時一族会議で決定する。
ナビール氏は現存するノガミの中でネオ・カイビャク地域においては一番の実力者のようだ。仕事ぶりも見事なもので、手際よく指示出しや書類のチェックをこなしていた。本人曰く現役の領主には敵わないという。ノーブル君に家督を譲ったのと同時に、政治からも若い人間の邪魔をしないよう引退していたらしい。
良い人ほど権力にこだわらないということかと思いつつ、ナビール氏の手伝い兼護衛役をしながら国家運営の一端を見させてもらっている。本来であればリオウがやるべきことだが、黙っていれば良いものを自分がして来たことを申告し職を辞すると言った。
リオウの顔は憎らしいほど晴れ晴れとしており、他のノガミは認める方向で進めようとする。仕方が無いかと思いながらも、ナビール氏にリオウがして来たことの意図を説明した。説明が終わるとナビール氏に、君は殺されかけたのにその相手を庇うとは不思議な男だな、と言われる。
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