クロウの実験場
「政権を取るためにはジン・サガラは邪魔だ!」
「それはボクの仕事じゃあないね、君がなんとかしなよ。彼を倒せないと君は伝説に加担することになるだろう。ヤスヒサ王と同じ人間族であり同じ異世界人なのだから、民衆が彼を望むのは目に見えてる」
「い、異世界人だと!?」
正面の入口から中へ入ると同時にクロウが他人の秘密をばらしていた。クロウの言葉にミサキさんだけでなくリオウも驚きの声を発する。こんなところでばらさなくてもいいのにと思いながらミサキさんをはさんでクロウと対峙した。
「久し振り」
「不可侵領域で待ってるんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけどね、暇つぶし相手が見つかったから来てみたのさ」
微笑みながら言ったクロウの言葉に引っ掛かる。ミサキさんが言うには、あれはミカボシというヤスヒサ王の息子だ。この世界の創造神であるクロウが、他人というだけでなく死んだ人間の体を使う理由は何か。
彼がこの星に来たのは、不可侵領域になにかがあると知って見に来た、と言っていたのを思い出す。アリーザさんを人質に取り不可侵領域に来るよう促し、さらに自らもミカボシの皮を被った。創造神なら誰に気兼ねなくそこへ行けばいいのにそれをしない。
考えられるのは、自分ままでは不可侵領域に入れないからではないだろうか。神すらも寄せ付けないものがあの地にはあるとすれば、それこそがクロウを倒し得る手段になるのかもしれない。わざわざこの星に来てちょっかいをだしているのは、自らに害を及ぼす可能性がある物を排除したいからと考えれば納得できる。
不可侵領域に入るための体が必要だったんじゃないのか、と問うとクロウはあっさりそれを認めた。曰く、神様がそのまま大地に降臨すれば星は大きなダメージを受け、崩壊する可能性があるらしい。やろうと思えばできるはずだったが、この星はそれを許さなかったのもあると言う。彼が言うには、負い目があるから憑依しての降臨は見逃してくれると言ったので、なぜ星が負い目を感じるのか聞いてみる。
すると、この星には異世界人の魂がクロウによって埋め込まれており、それは野上康久の母親だという。ヤスヒサ王こと野上康久は、元の世界で母親によって殺害されこの世界に来たと言われ衝撃を受けた。
自分も向こうで死んでこの世界に来たのを思い出し、ここは死後の世界なのかと問うもそれは違うと否定される。クロウ自身の最初の研究は神の存在だったという。地球の歴史や地球そのものの誕生からして奇跡が多く起こり過ぎており、誰かが意図的に作ったという仮説を立てた。
世界自体が水槽のようなものに入っていて、誰か一人の人間が操作しているのではないかと思ったらしい。魔術師会という会では全ての根源を見るための研究が行われていて、クロウのアプローチに期待を寄せていたようだ。
彼の力によって別の軸に世界を創造することに成功。地球と同じような環境を整えたまでは良かったが、人間が生まれない。猿までは行けたがそれ以降は進まなかったという。そこでクロウは師匠であるミシュッドガルドという人物に頼み、人間の魂をこの世界に連れて来てもらったようだ。
器をクロウが作りそれに魂を入れ人間としてその場に置き、人間が繁殖して今に至るという。未だに人間を自然発生させることは出来ないという結論に達したから、この実験に意味はあったとクロウは語る。
気に入る遺伝子を持つ人間が誕生し、乗り移って子孫を増やしてもそれは他人の遺伝子じゃないのか、と問いかけた。クロウはそこは実験中だと答える。聞いてからミサキさんを見て思い出す。ヤスヒサ王も魂を引っ張られてこの世界に来たのだとすれば、体はクロウが用意したのだろう。
王の子孫は今孫の代に来ていた。クロウの実験中のうちに彼らも入っているのは間違いない。今回ミカボシに憑依したのもまた実験のうちの一つということか。遺伝子を弄るのはしているのか、と問うと元がまだ納得できてないからしていないと言う。
「いつまで訳の分からない話をしているつもりだ……俺との約束を果たせ! その為にすべてをこの乱に賭けたんだぞ!」
「うるさい男だね君は。理解ある彼との楽しいお喋りが台無しだ」
「お前たちのお喋りなど俺は興味がない! 神だというなら力を寄越せ! ジン・サガラを倒せる力を!」
何の話か分からずぽかんとしているリオウとミサキさん。自らのダメージが酷くて堪らず声を上げたミサキさんに対し、クロウは笑顔でこちらを見ながらミサキさんの話を聞いている。少し間があってから悪い顔をしてミサキさんの方を向いた。嫌な予感がするので何かあったら即動けるように身構える。
「そういえば楽しくて忘れてたけど、君が望む力を与えてあげることが可能だ」
「ならさっさと寄越せ!」
「だがリスクはある。リオウのように堪え切れれば良いが、駄目だった場合は憤怒の炎で傷付いた体だけでなく、魂も崩壊して転生も叶わないがそれでも良いかい?」
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