星に交じる神
あれだけ傷を負ってもまだ逃げる余裕があるなんて、さすがサラティ様の親戚だけはある。ネオ・カイテンを与えられたという親御さんは、彼が一族の一員としてしっかりやれるようにと育てたんだろう。生まれも育ちも恵まれていてそれ以上求めるなんて、貧乏人より飢えが強いんじゃないだろうか。
もしかしたら彼を今突き動かしているのはその飢えなのかもしれない。彼の容態を遠目で見た限りでは、本来なら息をするのも辛いように見える。生命力である気も刀固有の技の使用により空に近い。彼がこちらから逃げ続けるのは、まだ希望が残っているからだと思う。
命懸けですがる希望を目指して移動する相手に対し、一定の距離を保ちつつ身を隠しながら追跡していた。なんとかバレずに追跡しているとリベンの北門が近くなる。このまま進むと外へ出ることになるなと思いながら見ていたら、ミサキさんは門の少し手前を左へ曲がった。曲がり角に立てられている案内板にはリベン魔法学校この先、と書かれている。
魔法学校に希望があるのだろうか。慎重に警戒しながら後を追い、リベン魔法学校という看板が掲げられている門の前で彼は立ち止まった。少し間があってから閉まっていた門が自然と開き、中に入って行く。
ミカボシがここにいるとしたらなぜここを選んだのだろう。巨大な気は城の最上階から感じたが、そこにはミサキさんが居ただけだった。サラティ様と何かあった後で追いかけてこっちに移動してきたのか、それとも逃がしてしまい探せず一旦ここに引き上げたのか。
あのクロウがミカボシとして降臨しているなら、こちらに対する罠という可能性も考えられる。先ずはサラティ様がいるかどうかを確認したい。仮に捕えられていた場合、迂闊に突っ込めばこちらは手を出せなくなってしまう。
相手に見つからないよう気を探すべく、学校の塀に近い路地に入った。中には人がいないようでミサキさんの気はあっさり見つかり、それを追う形で移動を開始する。魔法学校だから途中で遮断される可能性も考えたが今のところそれはなかった。
建物の中をミサキさんはゆっくり移動している。このまま行けばボスの居場所が特定できるかもしれない。期待しながら追って移動をしていた時、大きな気が丸い屋根が並ぶ建物から発せられているのを確認した。
間違いなく城の頂上から発せられていたものと同じだ。ミサキさんの希望を発見したところで、他にも気は無いか懸命に探す。近くの民家にいる人の気は探れたが、サラティ様のような強大な気は感じられない。
どこか別の場所に居るのだろうかと思ったその時、とある黒い気を見つける。忘れもしないリオウの気だ。やはり連中と手を組んでいたのかと思うと同時に、悪い奴らが徒党を組んでくれていて嬉しくもあった。
心置きなくぶった切れる。あの時の借りを返せると思うと気分が高揚してきた。それぞれの位置を把握し、近くの屋根から学校内に侵入する。魔法学校だから何かしら罠でも仕掛けられているかと考えていたが、特に何事もなくは入れた。
シシリー曰く、この学校からは罠系の魔法が行使されている感じはしないと言う。有難いと思いつつ相手に気付かれないよう慎重に気のあるところへ進んで行く。丸い屋根の並ぶ建物までなんなく到着し、近くの窓から中を覗きながらどこにいるか探す。
「そろそろ観念して大人しくしてくれないか?」
急に声が聞こえてどきっとして辺りを見るも誰もおらず、こちらに対する言葉ではないと考えホッとする。近くの窓を覗き込むと大きなエントランスに人が一人立っていた。白を基調とした豪華な手装飾の入った鎧を着た、緑の髪の人物が上を向いてる。
視線の先を見るとリオウがそこにいた。想定していない展開に理解が出来ず黙ってみるしか出来ない。
「お前は後ろの男を気に掛けてやると良い」
リオウに促され緑の髪の人物がこちらを振り向いた。慌てて隠れたのでこちらを見られていないと思うが、目を見た瞬間なんとなくそれの中身がクロウだとわかる。ミカボシという人物を依り代にこの地に降臨したのは間違いなさそうだ。
「やぁミサキ。ジン・サガラは始末してくれたかな?」
「む、無理だ……話が違いすぎる……俺なら何とかなると言ったではないか!」
ミサキさんの言葉を聞いてミカボシであろう人物は声を上げて笑った。一頻り笑い終えると
「そんな訳はないだろう? 康久の遺産を受け継いでいる彼は、紛れもなく彼と同等か少し下くらいのレベルに到達している。正直心配したんだよ? 君如きをボロカスに出来るかどうか、ね。成長していて安心したよ」
そう告げる。どうやらバレているようだ。確認するため窓から少し顔を出してみたら、案の定視線がこちらに向いているし笑顔で手招きしていた。相変わらず根性が悪そうな奴だと思いながら正面入口へ移動する。
「だ、騙したのか!?」
「騙したも何もミカボシは蘇らせてあげたし、乱を起こすのにも協力したあげたじゃないか。ここから政権を取れるかどうかは君たち次第。ボクはボクの目的を果たすためにやるべきことをやるだけさ」
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