乱を起こしたい男
「お前を侮り過ぎた。あの時森で確実に殺しておくべきだったよ」
「そう思うよ。森で死んでいたらあなたが裏切られることもクロウの話が出ることも無かったのに」
疑心暗鬼になっているだろうと考え煽ってみると、堪らず一人がこちらに向かって斬り掛かってくる。斬り払った返しで逆袈裟斬りにして倒したが、残りの二人はこちらを睨み付けるだけで踏み止まっていた。あと少し押せば完全に主導権を握れると判断し、反論を待たずに彼の環境についても指摘してみる。
ノガミとカイテン王族の血を引きながら政権に協力せず、改善も提案せずにことあるごとに批判を繰り返し、リベン内部でも工作をし続けた。それさえも上手くいかなかったのに、祖母の遺言を無視し一族同士の争いを引き起こしたのは愚の骨頂である、と彼に対して言い放つ。二人のうち一人が我慢ならず斬り掛かろうとしかけたが、もう一人が腕を掴んで止める。
ミサキさんは好機は素早く掴めともいう、と答えた。好機とは恐らくミカボシが蘇ったことなのだろう。ミカボシが正統な後継者ならばサラティ様と会談し、正式な手順を踏めば良かったのではと問うと黙り込む。
なにより気になったのはミカボシが本物かどうかだ。アリーザさんやガイラは死んでからそう経たないうちに、クロウやエルフによって魔法石を埋め込まれて蘇生している。ミカボシが亡くなってだいぶ経つのではないか、火葬せず土葬なのかと追加で聞いてみたがうるさいと言われてしまった。
ミカボシが本人であるという確証を得たのはどういう方法かと問うと、家にあった絵画と容姿が寸分違わないし記憶も記録と同じだと言う。たしかにそこまで同じなら信じてもおかしくはないのかもしれないが、やはり乱を起こすという選択肢に直結はしない。
クロウを知っているような反応を見せたのも気になる。どこでどういう形で会ったのか、クロウはどこにいるのかと問うと鼻で笑われた。素直に答えるわけもないので、先ほど考えていたミカボシ依り代説を唱えてみる。
彼は聞き終える前に声を上げて笑い、気が済むまで笑っていた。終えると人間族で神が宿る人物を旗頭にした我々に逆らうのか? 今からでも遅くない与しろ、と余裕の笑みを見せながら言い始める。
自分たちが何による支配を求めて乱を起こしたのか忘れてしまったのかと思い、それだと神による支配に変わっただけでは? と問いかけると笑みのまま固まって動かない。反応を見る限り、ミサキさんが乱を起こしたかっただけのような気がしてきた。
彼が乱を起こしたかったところに、偶然他の人々も信じそうな男が蘇り現れる。これ幸いとミカボシの存在を大義名分とし、仲間をたきつけ戦いを始めたのだろう。なんだったら全てが終わればミカボシを始末しようとでも思っているんじゃないだろうか。
その点を指摘してみるも、神を倒そうなどと思い上がってはいないと答えた。あなたが今日まであるのは祖母や約束を守り続けた他のノガミのお陰ではないのか? その言いつけを破ってまで乱を起こしているのは思い上がっているのではないか、と聞くも答えない。
血によって立ったくせに、先祖の繁栄を願う約束を反故にする。人間族の支配を目論んでいたのに神の支配をあっさり受け入れる。元の世界にいた二世議員と問答しているのかと思い始め、気が滅入ってきた。
側近が指摘したとしても受け入れなかったんだろうなと思う。ひょっとすると裕福で甘やかされた結果、暇を持て余し過激なことをしたかったから乱を起こしたとか言い出しそうで、恐ろしくなってくる。
「人間族の繁栄のためにはこの乱は必要だ」
「乱が起きてお前の兵士も場内の兵士も死んだ。乱が失敗に終われば処分される人間族も増える。サラティ様の政治が完璧ではなかったにせよ、人間族の死人を一日でこんなに量産してはいないだろう」
「国の流れを変えるには必要な犠牲だ」
「ならお前の命も落とせ」
自分が生み出した死に対して他人事のように言い放った彼に対し、必要な犠牲を払わさせるべく斬り掛かった。あと少しで一刀両断というところで彼の体が光り、弾き飛ばされる。光は直ぐに止み、またしても十五人になっていた。見れば刀が光っており魔法武器なのかと思ったが、パルヴァは最近出始めたと言っていたので違うだろう。
あと可能性としてあるのは、ノーブル君の持っていたファーストトゥーハンドと同じヤスヒサ王の遺品だ。ミサキさんにそれもヤスヒサ王の遺品の一つかと聞くと、名刀但州国光月花だと誇らしそうに言った。
なんでも気を分けて分身を作り出す技を可能とするものだそうで、それが出来ないと受け継げない代物らしい。刀の特殊能力で実体があるようにしていたことには納得したが、それと同時に呆れてしまう。
「祖母の顔に泥を塗っておいて、よく恥ずかしげもなく祖父の遺品を誇れるな」
「受け継いだということは、私の才能が彼らを超えている証だからな」
どうやら色々恥ずかしくないらしい。最早語るのも馬鹿馬鹿しくなったので処理に専念する。
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