ミサキ戦
「安らかに眠るがいい。お前たちのくだらない野望の為に死んでいった者たちよりも、苦しんで死ぬことだけがこの世で出来る償いだ」
「……神にでもなったつもりか?」
神、と言う言葉を聞いてなんとなく三鈷剣に視線が向く。言われてみればこんなにも凄い力をただの人間に与えてくれるなんて、神様以外にいない気がした。仮に力をくれたのが神様だとすれば、どんな神様なんだろうかと思いめぐらせる。
驚くことに神様が思い浮かばない。記憶を探ってみても竜神教も元は生きていた竜を信仰しており、それも悪しき者でヤスヒサ王が討伐したと聞く。他にいないか探ってみても、記憶にないことに今気づいた。
この世界を作った人物は、クロウ・フォン・ラファエルという向こうの世界の人間だ。初めて会った時に、自分の遺伝子異常を改善するためにこの世界を作った、と言っていたのを思い出す。彼かその師匠に選ばれた人間がこの世界に渡ってきているようで、口振りからしてヤスヒサ王も恐らくその一人だと思う。
クロウが作った世界であれば、彼に逆らうような行動をこの世界の神がするとは考えにくい。三鈷剣はヤスヒサ王の代名詞だと言うし、縁があるとすれば向こうの世界の神様が介入している可能性がある。
歴史などを学んでいればなんとなくでも見当が付くのだろうが、全く分からない。学の無さを三十五歳で異世界に来て改めて思い知るという情けなさ。せめて自分の国の歴史とか、そういうところだけでもちゃんと学んでおけばよかったなと思う。
生きる、ただそれだけしか考えずに毎日を過ごす生き方は、実に勿体なかったと今ごろ感じている。哀れに思った神様が力を与えてくれたんだろうなと解釈し、三鈷剣に向かって頭を下げ感謝した。
「神様はこんな生臭いことはしないさ。それともお前の神様は直接手を下すのか? クロウ・フォン・ラファエルならするかもしれないが」
視線をミサキさんに戻し否定するついでに、彼らの後ろにいるであろうクロウの存在についても指摘してみた。ミサキさんとしてはクロウに関してかなり内緒にしたいことだったらしく、鬼の形相で斬り掛かってくる。
テオドールだけでなくクロウとも接触しているとなると、蘇ったミカボシとか言う人物が本当にミカボシ本人なのか疑問に思えてきた。最初にクロウと話した時、彼はうちで飼っていたアイシアという犬に憑依している。
何らかの理由で自分自身がこの星に下りられず、不可侵領域へ侵入するための体としてミカボシを蘇生させた可能性があるのではないだろうか。なんとかしてミサキさんを倒しサラティ様の行方を聞き出したいが、無理だろう。
ならば一刻も早く追うしかないと考え剣戟を交わす。以前なら斬られていたかもしれないが、クニウスに稽古を付けてもらった今となっては全てが見えた。これ以上は侮辱になると考え、振り被った一瞬の隙を突いて胴を斬る。短い悲鳴を発した後で倒れる音が聞こえた。
「終わったつもりでいてもらっては困るな」
間違いなく倒した感触もあったので確認はせず、急いでサラティ様を探そうと下に降りようとした時、四方八方からミサキさんが現れ抜刀してきた。なにが起こっているのか分からないが、斬り払いながら青白い炎にもフォローしてもらいつつ対処する。
シシリーは驚きながらも、魔法や幻術の類ではなく実態があると教えてくれた。気を探ってみても確かに一人一人に気がある。いったいどういう手品なのか分からないが、とにかくミサキさんを残らずを倒すしかない。
すべてを払うべく再度気を溜めようとするも、向こうはこの機を逃すまいと攻撃を仕掛けてきた。すべて気があり実態だとすれば、ミサキさんほどの手練れが数えただけで十五人は存在する。これもノガミの為せる業なのか、と驚きながらも斬り払っていく。
ミサキさんもこちらに対し苦々しく思っているようで、すべての顔が歪みながら攻撃を繰り返していた。こちらがここまで来ているのも予想外だろうし、ミカボシのことやクロウのことまで知られてしまっている。話を知っていたのも腹心中の腹心のみだろうし、彼の衝撃たるや計り知れないものがあった。
自分が裏切られてると思いながら戦うような展開はしんどいな、とついつい同情してしまいそうになる。考えながらも避けて弾いているうちに、ミサキさんの顔は悪鬼羅刹のような表情になってきた。攻撃は鋭いだけでなく、他の自分を盾にして攻撃をし始める。
猛攻を受けているが、これだけの手練れでしかも多数相手にしのげていた。剣の師であるクニウスは教えるのが苦手だと言っていたが、ひょっとすると教師としての天性の才があるのかもしれないなと思う。クニウスは嫌な顔をするだろうが、拳一つでやってきた人間をここまで成長させるのだから凄いのは違いない。
「なにが可笑しい?」
ついに人数が三人まで減ったところで距離を取る。なにか新しい技でも出すのだろうかと考え、それに備えるべくこちらも気を高めた。
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