死の恐怖と翌日
「怯えずとも良い。お前の様な物分かりの悪い奴にもそのうちわからせてやるのでな……最もそれまでに生きて居られるかどうかはお前の運次第。運が良ければまた会おう」
シンラと呼ばれたワインレッドのローブの男は、黒い煙で覆われ流れて来た風に乗って消えていった。この世界に来て初めて武器を持たない相手に恐怖し、暫く息も出来ず動けずにいた。ティアムが頭でガツッとこちらの頭を小突いた時やっと息をしてへたり込む。
初めて感じた死の恐怖に水浴びでもしたのかってくらい服が濡れるほど冷や汗が出ている。気付けば魔法少女も居なくなっていて、俺は後頭部のティアムを前に持ってきてから地面に寝そべった。
「起きて下さい」
声に反応し目を開いてみるとティーオ司祭とティアムが、左右から顔を覗き込んでいた。後ろの森は薄暗くなっていて、司祭はランタンでこちらの顔を照らしている。どうやらいつの間にか寝てしまい、ティアムがティーオ司祭を呼んできてくれたようだ。
報告もせず寝てしまっただけでなく、ここまで来させてしまったことを謝罪するも、よく生き残れましたねと感心されてしまった。
司祭が言うには、シンラがあそこまで怒りを露にして生き残った者は初めてだと聞き、驚きの声を上げる。
どうやらシンラたちは最近頭角を現した組織らしく、暗躍している関係で基本的に目撃者は消されているという。
危険な組織がこの国に入り込んでいることに驚愕するも、司祭もまさか組織のリーダーであるシンラが、直接ここに着ているとは思わなかったと聞きさらに驚いた。
組織のリーダー相手によく生き残れたなと思ったものの、見逃されたんだろうなとも思い、何にしてもラッキーだったなと胸をなでおろす。
警戒はしていくが暗躍するのがメインの組織なので、見つかってしまったら当分は寄り付かないと思うと司祭は言う。
竜神教に反旗を翻したシンラ率いる者たちは、不死鳥騎士団を壊滅させ名を上げた後は、各国へ売り込み暗躍を重ねているようだ。依頼主の為に暗躍し資金を稼ぎながら弱みを握り、徐々に彼らの侵略は進んでいるという。
だがまだ完全に手綱を握れた訳では無く、故あれば寝返るような脆弱な状態であり、表立って動けば竜神教が動く口実を与えかねず、実際動いて殲滅された部隊もあるようだ。
ティアムを連れていたのをシンラが見て、竜神教の陰を察知し見逃された可能性があると司祭に言われ、意味もなく見逃された訳ではないと知る。
「とは言え気を付けましょう。彼らがこの周辺で何かをしていたのは明白。その痕跡なりを探さないとこの件は終わりになりませんからね。ジン殿は一度ギルドに帰られてこの件を町長当てに報告して下さい」
ティーオ司祭と共にその場を離れ、教会に戻るとシスターとベアトリスが待っていた。帰りが遅かったせいでとても心配させてしまい、ベアトリスにこっぴどく叱られる。
会社で上司に怒られるのと違い、心から身を案じて怒ってくれいるのを見て、申し訳ないとは思いつつも嬉しかった。
なるべく顔に出ないようしっかり謝罪し二人でギルドへ戻り、早速今回の件を報告書にして纏めてギルドへ提出する。
ダンドさんはいつもとは違い俺の文面を見ると驚いて目を丸くし、直ぐにカウンター下から封筒を出して入れ、ラウンジで待っているよう告げてギルドを出て行った。
ベアトリスとお茶をしながらまったりしているとダンドさんが戻って来て、至急町長の家まで行くよう言われる。
指示通り向かうと町長室へ通され、町長が待っていたので今日の話をした。今の話は他の人にはくれぐれもしないようにと念を押される。
余計な話をして誰かを巻き込むのは本意では無いし、言い触らす趣味も無いのでそう伝えて同意する。
町長からまた依頼を出すと言われ、追加の依頼料五十ゴールドを貰ってその場を後にした。この日はベアトリスも疲れ切っていたので、ギルドへ報告した後直ぐに戻り風呂にも入らずご飯も食べず、そのまま就寝する。
翌日夢も見ずに目が覚め食堂へ向かい、先に来て座っていたベアトリスを見つけ合流した。彼女は寝癖が酷い状態になっていて、それを指摘するとジンもだと言われ慌てて直しつつ、二人で笑った後で食事をしギルドへ赴く。
早速仕事をしようと依頼を探していたところへ、ギルドの受付に近隣の村への輸送護衛任務を頼みたい、という人が現れたのでこれは高そうだと思って名乗りを上げ、直ぐに任務に就くため依頼にサインする。
依頼内容は基本手当三十ゴールドで危険手当は出来高、国を囲んでいる山々の外側の麓にある村まで行くというものだった。行きは馬車に同乗するので早いが、帰りは徒歩で帰る為一日掛かる距離だそうだ。
依頼の村はうちのギルドの管轄にギリギリ入っており、他に冒険者は居ないらしい。この時期モンスターたちの動きも活発だが、盗賊も居るので荷物を運ぶ商人たちは必ず護衛を付けている。
賃金はあまりよくないものの、敵を倒した場合の素材などの所有権はこちらにあるので、襲われた方が助かるなんて言う冒険者もいるらしい。
こちらとしてはここ数日妙な事件に巻き込まれていたし、ベアトリスもあの喧嘩で少しはスッキリしたようだけど、少し遠出をすることで気分転換になれば良いなと思った。
依頼主はその場にいたのでそのまま馬車に乗り込みギルドを出る。陽気にも恵まれ気持ち良く馬車に揺られながら進んでいると
「そこの馬車止まれ!」
町から離れて少し経ったところで、道のど真ん中に数名塞ぐように立つ者たちが現れた。
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