二度目の襲撃者
最低ラインに到達するために、先ずは馬の速度を緩めようと手綱を握った。なんとかなれと願いながら引っ張っていると、急に辺りに霜が降り始める。カーマからリベンへ向かう途中の森で襲われた時に見た魔法の一つだろう。
となると魔法使いの攻撃がこれから始まるに違いない。いまさら驚きはしないが、まだ初期の段階で魔法使いを出して来るとなれば、これ以上の手を持っていると考えるのが妥当だろう。胃が冷たくなるのを感じながら、手札の多い相手にどこまで対抗出来るか考えつつ馬の手綱を引っ張り続けた。
何度引っ張っても止まるどころか馬は凄い力で引っ張り返してくる。恐らく馬は自然と走っているのではなく、何かがあって暴走しているようだ。肩にいるシシリーと二人で馬を注意深く見てみたら、馬のたてがみの中に針が刺さっているのを彼女が見つけ、引き抜いてくれた。
原因は取り除かれたものの、さすがに急には落ち着いてくれない。どうしたものかと思っていたら、シシリーが馬たちに声を掛けて落ち着かせると言ってくれたので、任せて現状を確認するべく馬車の屋根に上がる。
例え暴走していても、運が良いのか調教が行き届いているのか馬もぶつかりたくないからなのか、上手く木を避けて進んでくれていた。木もまばらで避けられているから良いようなものの、いつぶつかって転倒してもおかしくない状態で走り続けている。
恐らく針を抜いてシシリーが馬たちに声を掛けてくれなければ、今ごろ間違いなくぶつかっていたはずだ。相手側に計算違いが一つ出来たことでこちらが多少有利になったと思うが、馭者がおらずコントロール出来ていないままだ。
自分たちが生み出したチャンスをこのまま見逃すような相手なら、もとから仕掛けてこないだろう。気を研ぎ澄ませ警戒していた時、馬車の背後から風を切る音が聞こえたので振り向くと、氷柱が飛んで来ていた。握っていた妖精の宝の剣腹を使い叩いて破壊する。
馬はもとより馬車に直撃もさせられない。暴走する馬をシシリーが落ち着かせてくれるまで、なんとか攻撃を凌ぎきるしかないだろう。気合を入れて次々と迫りくる氷柱を屋根の上を動きながら破壊していく。
しばらく氷柱と格闘していたが、シシリーが懸命に声を掛けてくれたお陰か馬車の速度は落ち始め、先ほどよりスムーズに木を避けて丘陵を上がりきる。リベンへ向けてここから下っていくが、落ちるほどの窪みや避けるのに困る岩などはない。
馬車が自然に転倒するような条件は先ほどより少なくなり、何事も無ければこのまますんなりリベンまでいける。のんきに構えてくれる相手ならこれでクリアになるはずだ。一体何を狙ってるんだ? 相手にはどんな手がある? ノガミの造反者たちが一斉に襲ってくるのか? 分からず辺りを見回しながら警戒していたところに、突然一面埋め尽くすほどの氷柱が飛んで来る。
あまりの数の多さに戸惑ったが、妖精の宝が緑の光を放ちそれに合わせて気を通して風神剣の構えを取り放った。いつもより大きな風が巻き起こり、なんとか氷柱を飲み込んで粉砕する。剣に感謝しながらほっと一息吐いたのも束の間
「あらまぁ……ちょっと見ない間に妙な力を色々手に入れたのねぇ」
まるでこちらが一息吐くのを待っていたかのように、タイミング良く背後から声が掛かる。同時に殺気を感じ攻撃が来ると考え対応すべく素早く身を翻したが、相手の斬撃はすでに放たれていた。妖精の宝が加速状態に入ってくれたので難なく斬り払いに成功し、さらに返しの一撃も払って相手を引かせるのに成功した。
「久し振りだな、暗闇の夜明け」
「来ると思わなかったってのはないでしょう? 何しろこの国の夜明けが近いんだから」
そこには丸いの耳が頭の左右斜め上から生え、口から見える長い犬歯の獣人が短刀を持って立っていた。巫女服を着て顔の左半分を白いお面で隠した金髪で釣り目の美人、暗闇の夜明けに所属する善を滅する者のウィーゼルだ。
考えてみれば可笑しいことに気付く。馬車を停めたいなら車輪を狙えば良いのに、氷柱による攻撃は屋根ばかりに集中している。相手はこちらの気を逸らし、背中をがら空きにさせウィーゼルを襲わせるためにそうしていた。
掌の上で良いように踊らされていると感じ、イラだちそうになったが大きく息を吐き自分を落ち着かせる。相手の思惑通りなら既に倒されていたし、最悪怪我を追っていただろう。どちらでもない状況を見れば相手は焦るだろう。
問題はウィーゼルが何故ここに居るか、だ。思い返せばチョビ髭たちが、暗闇の夜明けと繋がっていると思しき雰囲気は出してはいたし、テオドールともこの大陸で交戦した。流れだけでなく暗闇の夜明けの行動理念を思い出せば、竜神教の本部を襲うなら来ないはずはない、というのは当然の帰結だ。
どうやら心のどこかで、シンラと共闘したことで味方になる可能性があるのではないか、と期待していたから自然と可能性を排除していたに違いない。お笑い種にもほどがあるだろう。地に足をつけていたはずなのに、決して油断してはならない相手に対してロマンチシズムに陥るとは、呆れる他無い。
読んで下さり有難うございます。感想や評価を頂けると嬉しいのですが、
悪い点のみや良い点1に対して悪い点9のような批評や批判は遠慮します。
また誤字脱字報告に関しましては誤字報告にお願い致します。




