魔法使いたちの主張
「っは!」
全速力で突っ切ったが大分範囲が広がっていたようで、あと一歩遅かったら息を吸い込んでしまっていただろう。俺は足を止めず、自分が蹴り飛ばした方向へ向けて走りながら肺を空気で満たしていく。あの杖をどうにかしないと避けながら攻めなければならない。
あの杖の頭から霧が出てたのを見たので、あれさえなんとかすれば有利になる。あと一つ気になったのは不意打ちには動揺しなかったのに、俺の攻撃に関して驚いたような顔をしていたのは何だったんだろうか。やっぱあれかな、魔法使い同士の戦いが多いから、俺みたいな攻撃は初めて受けたのかもしれないな。
「ちぃっ!」
もう少しで蹴とばした地点に辿り着く、というところで魔法使いに出くわす。向こうも杖を探してうろうろしていた。重要なアイテムなのは間違いないだろうが、もしかするとあれが無いと魔法が使えない可能性もあるぞ。俺は勘を頼りに相手より先に見つけるべく、辺りをすり足気味に走りながら探す。
「こっちじゃド阿呆!」
おっさんのダミ声みたいなものが、右斜め後ろから聞こえて振り向き走って近付く。他に仲間が居るのか? だとしたらそっちも倒さないと不味い。声がしたであろう地点に辿り着くと、屈みながら探し始めたが直ぐに杖が見つかった。
これをティーオ司祭に渡せば完了かな、と思い教会へ向かおうと振り向くと魔法使いが肩で息をしながら立っていた。俺は飛び退きながら杖を前に突き出し近寄らないよう牽制する。
「残念だな小僧!」
また何処からかおっさんの声が聞こえ見渡すも誰も居ない。何処に居るんだもう一人の仲間は。俺は警戒しながらも移動を開始するが、魔法使いも行かせまいと動く。コイツが余程大事らしいがこちらも好き勝手やられては困る。
町の皆の安全が掛かっているから負けられない。ジリジリと互いに隙を窺いながらも教会へ近付いて行く。
「今だ小娘!」
あと少しで声が届くというところで急におっさんのデカい声がした。その声はなんと杖からしていたのだ。見れば単眼と牙ばかりの口が杖の先に付いている球の部分に出てこちらを向いている。喋るマジックアイテムって魔法少女かよ!
「ぐあ!」
「あいた!」
あまりの驚きに握る手が緩んでしまい、その隙を突かれて杖が飛び出て俺に向かって噛みついて来た。寸でのところで後頭部に張り付いていたティアムが飛び出て蹴りを入れて退けてくれて助かる。
「ありがとうティアム!」
「ぐああっ!」
杖が地面に落ちたので両足で踏んずけ、両手でティアムを抱きかかえ頬ずりをする。ホント良い子天才じゃないかこの子。
「汚い足どかさんかいワレ!」
「うるっせこちとら毎日お風呂入ってるから汚く無いぞ!」
「阿呆か靴洗って無いだろうが汚いぞ!?」
俺は足を見るが確かにちょっと靴が汚れてる。そろそろ買い替え無いとな。
「今回の報酬で靴を買い替えるよ」
「金の為に俺たちを売るのか……所詮お前たちには俺たちの志は分からんのだ!」
「他人が被害に遭うのを厭わない様な志は分からんな、特に俺被害受ける側だし。お前たちは理想を達成する為には他人の被害なんて厭わないだろう? なら俺に理解しろというのは筋違いだ」
「魔法を皆が享受しうる社会への変革は、力なき者にこそ恩恵があるのだぞ!」
「それを誰が求めたんだ? 確実に魔法があれば誰でもそうある保証は? 他人の国を襲うような真似をしなくとも、布教活動を地道にして行けば良いじゃないか。資金も力も不死鳥騎士団を倒して手に入ったんだろ?」
「誰もが使えるようになるためにはその志も無ければならん。宗教に縛られ従属しているような思考では努々望めまい! だからこそ今の秩序を叩き壊さねばならんのだ!」
「別に皆今の秩序を破壊して命を危険に晒しても魔法を求めてなんて無いと思うけどなぁ。便利ってだけでしょ? 竜神教がやってるように治療だけとか限定して使って行けば日頃は世話にならないだろうし」
「それが常時使えれば救えた命があるとしてもか?」
「その為に普通に暮らしてる命を危険に晒すってのが俺には分からん。現に不死鳥騎士団の人らは死んでるから言い訳出来まい? 何をそんなに急いでいるんだ? 最終的に目的を達成すれば良いのであれば、それこそ志を継いでくれる人に託して行けばいいじゃないか竜神教みたいに。絶対に自分が達成の瞬間を知って無ければ行けないなら、そりゃエゴでしかなくエコの真反対じゃん竜神教より酷くね?」
「お前の様な輩には分かるまい」
背後からまた声が聞こえた。どんだけ入り込んでるんだここに。俺は嫌な予感がして止む無く杖から足を離し飛び退く。元居た場所は地面がえぐれていた。
「シンラ様!」
「その名を口にするな愚か者……!」
シンラと呼ばれた人物は木の陰から現れる。だがワインレッドのローブのフードを被っているからなのか暗くて顔が全く分からない。だが魔法少女とは比べ物にならない程の邪気というかそういうのを感じる。今の俺ではコイツには歯が立たないと直感してしまった。
「今は引け。ここは奴らの巣が近い。こんな奴に釣られて奴の領域まで来るなどお前たちは愚かにも程がある……!」
渋い声に怒気が籠ると同時に黒い煙が体の周りに現れシンラを覆う。得体の知れない何かが始まる様な気がして、俺は自然と下がっているのに気付く。何とかして視界の外に移動し逃げ出したい気持ちで一杯だ。
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