イザナさんとの接触へ
ノーブル君は話した中で自分なりに納得したのかさせたのか、良い笑顔で御馳走様でしたと言ってから元気に南の方へ走っていく。走り去る彼とこちらを交互に見てからエレミアにどうしたのか聞かれたが、青春の悩みだよと答えると麻疹が治るといいわねと言う。
麻疹と聞いて少し考えた後で、一回かかれば二度とかからないからかと聞くと彼女は懐かしそうな顔をして頷いた。
エレミアも見た目と違い色々あって長生きしているらしいから、その間に麻疹を通過したのだろう。振り返ってみればひょっとすると自分もこないだまで同じだったかもしれないなと思い始める。異世界に突然飛ばされて生き方に迷ったし。
なんにしても彼はおっさんと違い、未来も時間もあるのだから存分に悩んだらいいと思いながら後姿を見送り、見えなくなったところで宿へ戻る。受付にいたサラさんとおやじさんに声を掛けて共に食卓を囲み、薪を割ってくべてお風呂に入ってから就寝した。
朝、目が覚め一階に下りると既にパルヴァとクニウスが来ていて、朝食をお呼ばれしに来たと言うので食堂へ移動する。少しあとからエレミアとシシリーも降りて来て五人で朝食を頂き、お茶をゆっくり飲んで御腹を落ち着かせてからイザナさん一行に接触すべく宿を出た。
イザナさんを見つけるための目印はなにかあるのかとクニウスにたずねる。するとヤーノの象徴であるエルフの女性の横顔の描かれた旗を掲げている一行を探せば良い、と教えてくれた。接触する時はゆっくり側面から声を上げながら近付いた方が安全だとパルヴァは言う。
理由としては最近は少ないものの、エルフの中にはエルフ以外に与するエルフを快く思わない者たちがいて、襲撃される恐れがあるので真っ直ぐ走って接近したりすると即戦闘になるらしい。快く思わないエルフと言う言葉を聞いて、シャイネンの近くにあったエルフの村を思い出す。
村の者たちに対して改造を施した村長たちと戦闘になり、別の目的で来ていたシンラと共闘したことが懐かしく感じる。事件のあった村の中で大切な誰かとあった気がするが、たしか……。うっすらと頭にシルエットが浮かんだが、遮るかのように妖精の宝が強く光った。
どうしたのだろうかと視線を向けたが、答えを得る前にクニウスから丘陵を登るので速度を落とせと指示が出る。襲撃者と間違われては大変なので仕方なく視線を前に戻し、言われた通りゆっくりと丘陵を登り始めた。
頂きからカーマ方面を見ると幾つもこちらに向けて馬車と人が流れて来ている。カーマから直接来るなら、馬車を使えば一日くらいで行けるのかもしれない。今度はゆっくり移動したいなと思いつつ、目を凝らし先ほど教えてもらった旗を探す。
エレミアが一番に見つけて声を上げ指さしたのでその方向を見る。列の後方を走る緑色の馬車が、確かにエルフの女性の横顔が描かれた大きな旗を掲げていた。ヤーノの村は観光がメインになっていて兵士の練兵が不足していたのが見て取れたので、護衛が居ないのではないかと心配になったが一応護衛が付いていて安心する。
丘陵を右斜め方向へ降り、ゆっくり側面から声を上げつつ近付いてみると見覚えのある者が数人いた。この世ならざる者に村を壊滅させられヤーノ近くの沼地に家族で身を隠していたヤクヤ・モリだけでも驚くのに、なんとブリッヂス統治者ブキオのみならず妹で蜥蜴族の屈強な戦士であるハユルさんもいた。
こんなそうそうたるメンバーがいれば襲撃されても大丈夫だろうと思いながら近付くと、相手もこちらを見つけ目を丸くして声を上げる。なぜ護衛をしているのか聞きたかったが、再会を喜んでのハグだけに留めイザナさんに急用で面会したいと伝えた。
「聞こえている、さっさと中に入れろ」
馬車のドアが乱暴に開き、久し振りに聞く声に喜びながら駆け寄る。中にはイサミさんもいて二人とも豪華な装飾の付いた洋服を着ていた。気合が入っていますねと言うと当たり前であろうがと言いつつ手招きされたので、一礼して取っ手に掴まり中へと入る。
二人に挨拶した後でさっそくサラティ様に聞いた三鈷剣の話をたずねると、イザナさんはお前が持っているものはなんだ? と言う答えが返ってきた。では倉庫には何も無いのですか? と改めて確認すると今はなにもないと答える。
なぜ三鈷剣の話をいまさらするのかと聞かれ、リオウとの対戦の勝者に褒美として三鈷剣を与えるという提案をしたからと告げた。三鈷剣は今もなお皆の中で生きるヤスヒサ王の代名詞であり、リオウたちもそれを探している。
彼らの謀反に向けた動きは間違いなく、三鈷剣が与えられるとなれば必ず乗ってくると考えての提案だった。リオウの謀反を公の場で明らかにするのは体制を揺るがしかねないし、サラティ様も受け入れないだろう。
そこでリベンが謎の霧に覆われ時が止まっていた件で国民に不満が生まれており、お祭りのようにしてしまえば国民の不満も謀反も同時に解消できると思った。
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