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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第六章 負けない力を探して

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勇者に一片も興味なし

最近はどこかで修業していたのかと話を振ってみたら、この世ならざる者(アンワールドリィマン)を一人で倒していたと答える。病院で顕現不動(けんげんふどう)状態になり殲滅したが、あれを一人で倒すとしたら骨が折れるだろう。


さすがだと褒めると嫌味にしか聞こえないと言うが、眉間の皺が取れていく。とても大変だったんじゃないかと聞いてみたら、最初は気が乗らない感じで話していたが話していくうちに徐々に元気な彼に戻っていった。


暫くしてウェイトレスさんが両手でトレーを持ちながらテーブルにやってきた。見るとフルーツタルトにさらに果物を山ほど突っ込んだもので、あまりのボリュームにノーブル君と一緒に目を丸くする。


今までじっと口をはさまずに見守っていたシシリーは、歓喜の声を上げてそれに近付く。彼はその姿を見て一緒に食べて下さいと情けない声を上げて頼んだ。任せて! と彼女は張り切って腰に差した自分用にいつも持ち歩いているフォークとナイフを引き抜き対戦相手に挑みかかる。


三人でしばらく格闘してみたものの、かなりの量で一向に減らない。ノーブル君は甘いものが苦手なのか早々にリタイアし、顔色を悪くしながらコーヒーのおかわりを注文し飲み干し落ち着くと天井を仰いでいた。こっちも甘いものは好きな方だが流石に胃が持たれてくる。


そんなこちらを見兼ねてか、シシリーがあとは私に任せてと目を輝かせながら言うのでお願いした。コーヒーのお代わりを注文し注いでもらい、ゆっくり味わいながら飲んでいるとノーブル君は言う。僕はこれでも勇者のつもりだったんです、ヤスヒサ・ノガミの後を継ぐのは自分だと思って、と。


言われて考えてみたが、勇者らしいことはなに一つしていない。なぜそう思ったのかたずねると例の霧を晴らしたのとサラティ様に本気を出させたことらしい。たまたまだよと言ったところでさっきと同じになるだろうと考え、皆が知るような実績や勇者的なことを自分はしてないし用が済んだから自分の国に帰る、これまでの功績を考えれば君が上のままだよと告げる。


「他人に譲られる勇者なんてなんの意味があるんですか!?」

「譲るも譲らないも勇者って他人が讃え与える称号なんじゃないのか?」


 こちらの言葉を聞いて口ごもるノーブル君。追加でこの星は広いしまだまだ強い人は居る、これからも強くあろうとする姿勢を見せていたら君の望みも叶うんじゃないかと思う、と自分の考えを伝えた。直ぐには納得できなくとも、いずれ彼なら自然と望みの場所に辿り着けるだろう。


ひょっとしたら先に勇者になられてしまうんじゃないかと思ったのかもしれないが、悪いけど勇者になんかなるつもりは毛頭ない。霧の件もそうだが、これから成すことも誰かが吹聴しなければ誰にも知られずに終わる物語だ。


知られる必要はないし話すこともないだろう。自分はリオウもクロウも退けて皆のところに帰りたい、ただその望みを叶えるために鍛え続けここまできたのだから。例え誰であろうとその道を遮らせない……必ず勝って帰るんだ。


テーブルに置いていた右手を握りしめた途端、何かが触れたので見るとなにかの正体はシシリーの手だった。どうやら思い詰め過ぎたらしいく心配させてしまったようだ。大丈夫だと微笑みながら彼女に言うと頷いて山盛りフルーツタルトと再度格闘を始める。


 ノーブル君はこちらのやり取りを見て、勇者にはやはり妖精の友達が必要ですよねとぼそっと言う。聞き間違いかと思って何も言わずにいるともう一度同じ言葉を発する。勇者の定義とか伝説とか分からないので、関係無いと思うよと答えるもヤスヒサ王も妖精の類を連れていた、と教えてくれた。


形から入るより、人々を守り助けるために強くしなやかにあるよう居たら良いと思うと諭してみる。一族の期待を背負っているから呑気なことは言えないだろうが、焦ったところで皆が認めてくれなければ勇者にはなれない。


彼らノガミ一族からすれば世界は閉塞しているように感じるのかもしれないが、こちらは激動の世界を生きている。勇者になれないと悩むことも無ければ冒険に出たいのに出れないと思うこともない。ふとクニウスの背負った星、役割が違うと言う言葉を思い出した。


「人は誰しも生まれ持った星を背負っているらしい。ノーブル君、君は君の星を追ったらいい。俺は俺の星を追う」

「星、ですか」


「一族の期待の星なんだろう? よくわからないおっさんを気にする必要はないさ」

「あなたはここに何しに来たんですか?」


「奪われた者を取り戻しに来ただけの冒険者だよ、本当さ。そのために鍛えに鍛え続けている」


 腑に落ちない顔をするノーブル君に微笑みながら窓の外に視線を移す。誤魔化すため町の景色でも見ようとしたのに、またしても窓ガラスに張り付いている人を見つける。堪えきれずに笑い声をあげてしまい、ガラスに張り付いていた人ことエレミアは中に入って来て人の頭を叩いた。


近くの椅子を引っ張って来てエレミアも合流し、皆で山盛りフルーツタルトを食べる。量が量だけに苦戦したがなんとか食べきって店を出た。



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